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今中期3ヵ年計画「Change-i」策定し収益構造の改革行う=イズミヤ 坂田俊博 社長

2009年5月にイズミヤ(大阪府)の代表取締役社長に坂田俊博氏が就任した。景気悪化が総合スーパー(GMS) 各社の経営を揺さぶる中、坂田新社長は中期3カ年計画“Change-i(チェンジ・アイ)”を策定し、収益力回復と新たな成長戦略に向けて一歩を踏み出 した。

GMS改革のポイントは、売場をどこまで変え切ることができるか!?

坂田俊博(さかた・としひろ) 1949年生まれ、59歳。73年武蔵工業大学卒業。同年3月いづみや(現・イズミヤ)入社。95年2月食品商品部長。2003年1月ロジスティックス統括部長、同年5月取締役。05年1月営業本部長、同年5月常務取締役。06年5月専務取締役。07年5月代表取締役専務取締役。08年2月代表取締役専務取締役執行役員。09年5月より代表取締役社長。

──消費環境の大幅な悪化が続いていますが、まずは、足元の営業状況はいかがでしょうか。

坂田 全体的に厳しい状況にあります。もともと衣料品は厳しかったのですが、今年1月後半からは食料品の売上も振るわなくなっています。食品の既存店客数は対前期比0.6%減で、1人当たり買上点数も同0.3%増と大きな変化はありません。しかし、客単価が同3.3%減と大きく前年を割り込んでいるため、このままでは厳しい状況となっています。

──御社だけでなく、GMS各社が苦戦をしています。衣食住をワンストップショッピングで扱うGMS業態が置かれた現在の状況について、坂田社長はどのように認識していますか。

坂田 非常に厳しい環境にあると言わざるを得ません。確かにGMSの持つワンストップショッピングという機能自体には、非常によい点があります。しかし、それは GMSの商圏が半径3~5kmと広いときであれば、それでよかったのです。ところが現在では、商圏が半径2km圏にまで狭まりました。結果、GMSの来店 頻度は高まったわけですが、毎日来店するお客さまにとっては何の変化もない売場に映るようになってしまいました。

 ですから、GMS業態を改革するには、“売場をどこまで変え切ることができるか”が、1つの大きなポイントになると思います。これまでは、衣食住のさまざまな商品があることが大きな魅力で集客手段となっていましたが、周りにアパレルや家電などの専門店が増えてきました。そうなると、“そのお店の特徴は何か”を明確に打ち出し、そのうえで“要る商品”と“要らない商品”をはっきり分ける必要があるのではないかと考えています。

 一方で、GMSの食品売場については、エブリデイ・ロー・コスト(EDLC)、エブリデイ・ロー・プライス(EDLP)を推進しており、その成果が確実に出てきています。

──そうしたGMS業態が置かれている厳しい状況を打破しようということで、「Change-i(チェンジ・アイ)」という中期3カ年計画を策定し、今期(10年2月期)からスタートしました。大きなポイントとなるキーワードが「ニューディスカウント」戦略ですね。

坂田 大きな柱として、MD(商品政策)改革と費用構造改革の2つを考えています。

 MD改革の中では商品開発、商品構成・品揃えの見直しと運営の効率化、そしてEDLCによるEDLPに取り組んでいきます。

 とくに衣料品や住居関連品の品揃えにおいて、客層とのアンマッチを是正していきます。衣料品では、サイズ展開についても適正化を図ります。たとえば、中心となるベーシックな商品だけはサイズを幅広く持ち、そうでない商品は中心サイズだけの展開というように、“割り切り型”のサイズ展開も実施していかなければならないと思っています。

──“値ごろ感”の創出もポイントになりますね。

坂田 そうです。“ただ安い”のではなく、品質と機能とを照らし合わせて、いかに値ごろのある商品なのかということをきっちり押さえるように、社内では口を酸っぱくして言っています。とくに食料品ではこの“値ごろ”が大きなポイントになります。

 食料品の場合は、これ以上客数を上げるのはなかなか大変だと感じています。そこで、1人当たりの買上点数を増やすことに取り組みます。その手法としては関連販売だけでなく、適切な量目・規格で提供するということがあります。従来はこれができていなかったために、機会ロスを招いたという反省もあります。その点を改善して、買上点数を1点上げていきたいと考えています。

 商品開発では、ご存知のようにユニーさん(愛知県/前村哲路社長)、フジさん(愛媛県/尾﨑英雄社長)と3社共同開発で、共通プライベートブランド(PB)「Style ONE(スタイル・ワン)」の開発を進めています。これは主力となる商品カテゴリーでPBを開発するものです。規模のメリットを創出して、商品原価低減と 低価格販売を実現したいという目的で取り組んでいます。今年8月21日より順次発売を開始していきます。

売上高対販管費率を現在の27%から25%以下に!

──一方で、費用構造改革にはどのように取り組まれますか?

坂田 グループ会社を含めた間接部門を減らし、機能の集約化を進めていきます。グループ会社に振り分けるべき業務は振り分け、本部人員をスリム化していきます。

 店舗運営コストの削減にも取り組みます。衣料品や住居関連品売場には、集中レジだけでなくコーナーごとにレジがある店も少なくありません。それを集中レジに統一する、もしくはレジカウンターを配置するコーナー数を削減するなどして合理化を検討して行きたい。また、営業時間の短縮と従業員の勤務時間帯の見直しについても推進していきます。

──構造的な赤字店舗の改革にも着手しました。

坂田 構造改革室を設置し、赤字店舗の抜本的な収益改善に取り組んでいます。その考え方の1つは、「イズミヤ六地蔵店」(京都府)のように、ニトリさん(北海道 /似鳥昭雄社長)など有力な専門店をリーシングして、直営売場の坪効率を適正水準に引き上げるとともに、館全体の集客力を上げるというものです。おかげさまで「六地蔵店」では順調に客足が伸びています。

 課題は、赤字店舗の家賃交渉をどのように行うかで、これから具体的な交渉に入っていきます。それと警備費や清掃費などの引き下げにも取り組みます。私どもの売上高対販売管理費率は現在、27%という高い水準ですが、この3カ年で25%以下にまで引き下げていくのが目標です。その水準にまで下げられなければ、企業として存続できないという強い危機意識を持って取り組んでいきます。

──ニューディスカウントを行う前提条件として、EDLCに取り組むということですね。しかし、GMS各社がEDLCに取り組んでいるものの、なかなかコストを落とし切ることができていないというのが実情のようです。

坂田 そうですね。ただ、今回は本部の人員を420人から360人へと60人削減するなど大胆なスリム化を図ります。

 販促費についても同様です。関西エリアでは効果が非常に高いチラシはあまり削減したくないので、段階的に減らしてきたTVCMをここにきて一切やめてしまいました。結果は今後分析してみなければわかりませんが、金額ベースでのインパクトは非常に大きいです。

好調まるとく市場は既存店売上高対前期比10%増!!

──GMSでは課題が山積していますが、スーパーセンター(SuC)やディスカウントストア(DS)業態のまるとく市場は08年度好調に推移していました。

坂田 SuCは、08年度は大変順調でしたが、ここにきて衣料品が厳しい状況にあります。私どもは他社さんと比べて衣料品の売上高構成比が高い点が特徴です。衣料品の売上不振の影響を受けて、第1四半期のSuC業態の既存店売上高対前期比は2%減となりました。08年度は同5.7%増でしたから、約8ポイント下がったことになります。衣料品の不振だけではなく、周りの競合他社が売価を下げてきている状況下で、私どもがまだそこまで下げてはいないということが挙げられます。結果、当社のSuCのよさである価格優位性が薄れてきたと見ています。いちだんとコストを下げて、売価をさらに引き下げるということに取り組もうと考えています。

 衣料品については、現在「SuCイズミヤ堅田店」(滋賀県)で売場のレイアウト変更をして、実験中です。ある品種はぐっと売場を縮小して、またある品種は拡大するなど、メリハリのある売場づくりを行い、その地域に合った売場展開を検証すると同時に、品出しの回数を減らすなどの作業改善を通して、コ スト削減にも取り組んでいます。

──まるとく市場の直近の状況はいかがですか?

坂田 食品スーパー(SM)は、どんどん小商圏になっていますが、それでも既存店売上高対前期比でプラスとなっています。その中でもとくに、まるとく市場は好調です。既存2店舗はこの3~5月でも同10%増ぐらいの高い伸びを示しています。

 今期に入ってからは、既存のSM4店舗をまるとく市場に転換しました。近隣に競合店がある1店舗は苦戦していますが、あとの3店舗は計画に近い数 字を挙げています。今年中にまるとく市場をあと4店舗オープンさせる予定で、内訳は居抜き出店が3店舗、新店が1店舗になります。新規にまるとく市場を出 店するのは初めての試みで、実験的な位置づけです。業態転換や居抜き出店だけではなく、出店の機会拡大を探ろうということです。

──まるとく市場は、低い経費率でコントロールできているようですね。

坂田 まるとく市場は、出店コストが低くて済むため、これまでの店舗の平均的なコスト構造としては、売上高販管費率が15%ぐらいに収まっています。これに本部費を入れて18%という水準です。今までのところ、まるとく市場はまずまず順調にきていると認識しています。競争力においても、経費率が低いため、商品を低価格で売ることができるというのが1つの武器になっています。この厳しい環境下で、時代に適合した強さを持っています。

売場面積2000坪のフード&ドラッグ新業態展開へ

──さて、イズミヤの次代を担う優秀な人材を、どのように育成していこうと考えていますか?

坂田 中国事業やネットスーパー事業など、新規事業にどんどんチャレンジさせていくことが1つの方策となるのではないでしょうか。

また、今後はグループ会社への出向も従来のように50歳を超えてからではなく、もっと若いうちに行って経営を勉強してもらって本体に帰ってきてもらえるようにしていきたい。具体的な制度や仕組みはこれから検討していきます。

──中国事業は、新たな成長のための1つの起爆剤になると。

坂田 起爆剤になればと願っています。中国の蘇州市でジュニア百貨店業態を展開する計画ですが、早く1号店をオープンして、それが成功して複数店舗態勢が構築できたら、社員の意識も変わってくるのではないかと思っています。関西ローカルでやっている会社が中国で事業を行って、国際的な視点が持てれば、発想も随分変わってくるのではないでしょうか。

──成長の種として楽しみな事業ですね。もう1つの種、医薬品や化粧品を中心とするヘルス&ビューティ・ケア(H&BC)事業については?

坂田 人材育成を急がねばなりません。これが問題です。H&BC売場は現在30店舗に導入していますが、導入店舗を66店にまで広げていきたい。同時に新業態の 開発も行っていきます。改正まちづくり三法施行に伴い、延床面積1万㎡以下でないと出店規制がかかりますから、売場面積2000坪前後で、SMにドラッグ ストア(DgS)をドッキングさせたフード&ドラッグという業態です。お客さまにとって利便性の高い店舗にしていきたいと考えています。まだ売上や損益の シミュレーションなどの具体的なことは詰め切れていません。ただ、物件としては希望に合うものがいくつか出てきている状況です。

 もう1つの課題は、医薬品系のボランタリー・チェーン(VC)に加入していませんから、価格訴求できる商品が少ないという点です。どのVCに加盟するのかを含めて、本格的にどのように展開していくかを詰めている段階です。

──新業態のフード&ドラッグですが、モデルとなる国内外の企業はありますか?

坂田 国内外の店舗をたくさん見ていますが、それとは違うパターンでできないかと考えています。それら店舗を見る限り、売場面積2000坪前後の店舗はあまりないようで、新たなかたちを模索しています。ある程度市街地で店をつくりたいと考えていますので、収益があがる業態をどのように構築していけるかが、大きな課題になるでしょう。H&BC事業には大きなチャンスがあると見ていますから、新業態の1号店は来年ぐらいにはなんとか出店したいと考えていま す。