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収益力改善に向けて既存店活性化に全力投球=イズミヤ 坂田俊博 社長

3ヵ年にわたる中期経営計画「change-i」へ取り組むイズミヤ(大阪府)。店舗や業務などの改革に力を入れてきたが、最終年度の今年はそれらを企業の競争力というかたちで成果を具現化してくると見られる。一方、今年は同社にとって創業90年という記念すべき年でもある。その中、坂田俊博社長に今後の事業展望について聞いた。

コスト削減が奏功し前期の赤字を挽回!

イズミヤ代表取締役社長 坂田俊博 さかた・としひろ 1949年生まれ。73年イズミヤ入社。食品商品部長、店長、ロジスティックス統括部長などを歴任後、2003年取締役に就任。05年常務取締役営業本部長、06年専務取締役などを経て、07年代表取締役専務取締役に就任。09年から現職。61歳。

──3月1日から新年度が始まりましたが、すぐに東日本大震災が発生しました。震災の事業への影響について教えてください。

坂田 3~4月の既存店売上は対前期比1.6%増と、まずまずの結果でした。月別に見ると3月は同4.1%増、4月は同0.5%減。3月がよかったのは、前半に実施した創業90周年記念セールが奏功したためです。

 地震の影響は大変厳しいと感じています。4月に入りプロ野球が開幕してから少し雰囲気が変わりましたが、基本的には関西でも自粛ムードが続いている印象です。さらに原発問題の影響か、青果や水産部門の数字が悪い。食の安全性は確保されていると思いますが、原発問題の影響は目に見えないだけに、心理的に作用する部分が大きいのでしょうね。

──今期は中期3カ年経営計画「change-i(チェンジ・アイ)」の最終年度に当たります。

坂田 今期はこれまで同様に、基本をきっちりと実践していきます。具体的には低迷している既存店を底上げし、前年実績をクリアしたい。これまで業務改革や商品改革は、既存店の業績向上に主眼を置いてきたわけですから、今期も継続して取り組んで、何としてでも結果を出したいと考えています。

──2011年2月期の決算を見ると、連結の営業収益は3572億7400万円(対前期比3.1%減)、営業利益37億9400万円(同74.9%増)、経常利益25億6500万円(同174.7%増)で減収大幅増益となりました。

坂田 コスト削減効果が大きいですね。10年2月期が赤字決算となったのを受けて、11年2月期はあらゆる費用を見直しました。具体的には人件費はもちろん、店舗の清掃費や警備費、赤字店舗の家賃下げ交渉もしました。今期に入ってもこうした努力を続けています。

 たとえば、不要な電気は消す。ビール冷ケースの温度は、冬場も2度に設定していましたが、実際には6度ぐらいで十分です。こうした細かい部分にまでメスを入れています。売場でもお客さまに迷惑をかけない範囲でコスト削減を実施していきます。

 ただ、コスト削減の余地は、それほど残っていません。ですから今期は、店舗の生産性向上に力を入れて行こうと考えています。

 売上はよくて横ばいでしょう。対前期比0.5%増で計画しています。

既存店活性化に手応え 
新店はSMが中心

──近年は積極的に店舗の改装を進めてきました。

坂田 既存店活性化に取り組むに当たり、当社の店舗の業績を分析して4タイプに分けました。(1)黒字で、利益の推移が順調な店、(2)黒字だが利益が減少している店、(3)赤字を出しているが、利益の改善ができている店、(4)赤字で、さらに利益が減っている店──の4タイプです。

 現時点では(1)は放っておいても問題はないし、(4)は何とか赤字を“止血”したいけれども難しいのが現状です。ですから、まずは効果の大きい(2)と(3)から順次、着手しているところです。

 こうした考え方に基づいて、今年4月に長岡店(京都府)をリニューアルオープンしました。黒字ではありましたが利益はダウントレンドで、これを何とか復活させたかったのです。

 商品については新しいカテゴリーを導入し、売場の組み合わせを大幅に変更しました。加熱するだけで食卓に並べられるような半調理品など簡便商材を増やしています。また、精肉部門では馬刺しのように、従来はあまり扱っていなかった商品も取り入れました。

 さらに長岡店には、いったんはやめていた「クッキングサポート」を復活させました。来店者にメニューを提案するほか、簡便商材を紹介しています。改装前の長岡店の年商は63億円でしたが、改装後は対前期比14%増の74億円を目標にしています。改装して日が浅いですが、この目標は確実に達成できると見ています。

──新規出店については、どのような方針ですか?

坂田 前下期から出店を1年間凍結し、既存店のてこ入れに注力してきました。徐々に成果が出ていますので、来年3月には新店を出店する予定です。

──イズミヤはマルチフォーマット展開していますね。総合スーパー(GMS)、食品スーパー(SM)、スーパーセンター(SuC)などがありますが、今後の主力業態は何ですか?

坂田 現在の当社の体力を考えると、やはりSMが出店の中心になると思います。出店先は大阪や京都の都心部がターゲットです。

 ただ、まとまった面積を確保できる物件は少なくなってきていますから、売場面積500坪前後の店になるでしょう。選択肢として衣食住がフルラインで揃う店舗も視野にはありますが、その場合でも売場面積800~1000坪の小型店になります。

 近年はSuCを積極的出店してきましたが、改正まちづくり三法の規制があるため1万平方メートル以上は難しいのが現状です。

──ディスカウント(DS)業態「まるとく市場」も、11年2月期末現在で9店あります。

坂田 「まるとく市場」業態は、今後は積極的には出店しません。

 ただ、コモディティを扱う小売業にとって、ベーシックな商品を安く提供することは必須条件です。そのうえで、少しこだわりのある商品を揃え、きっちり売り込んでいける店をつくりたいと考えています。そのために商品調達力、店舗運営力をもっと磨かなくてはいけませんね。

ターゲットは団塊世代

──今年の2月1日付で組織変更を実施しました。このねらいはどこにありますか?

坂田 社内に部署が多すぎたため統廃合し、必要に応じて新たな部署もつくりました。たとえば商品部なら、衣料企画部、食品企画部、住関企画部を新設しています。商品部はこれまで店舗業務の支援といった、本来の職域とはあまり関係のない業務も担当している実態がありました。これを改めて、商品調達、品揃えに集中できる体制を整えました。

──生鮮食品で今後強化する、もしくは伸びると考えている部門は何ですか。

坂田 今後伸びると思われる部門はいくつかありますが、そのうちの一つは畜産部門です。関西は牛肉中心ですが、鶏肉や豚肉をどう売っていくかが課題です。

 それ以上にニーズがあるのは総菜です。08年からは子会社のデリカ・アイフーズ(大阪府/加藤雄介社長)が当社の総菜部門を担当し、商品や売場の見直しを進めています。

 たとえば、寿司のカテゴリーなら、水産部門の「魚屋の寿司」と総菜の寿司の両方を従来は展開していました。これを総菜売場にまとめ、煮魚、焼き魚なども集めて、総菜売場を充実させています。

 総菜の売上高構成比は現在は10.3%ですが、これを早い時期に12%まで引き上げたいと考えています。

──「GMS衣料品不振」と言われますが、衣料品の状況はいかがですか?

坂田 衣料品部門は比較的、順調です。震災直後は少し落ち込みましたが、徐々に戻ってきました。4月は前年実績を上回り、5月に入ってからも対前期比2.4%増で推移しています。

 前の年の業績がそれほど良くなかったということもありますが、少しずつ元気が出てきたと感じています。

──それはよい傾向ですね。具体的にはどのような取り組みをしているのですか?

坂田 衣料品部門はコーディネート提案の強化に力を入れています。紳士服、婦人服、子ども服といったカテゴリーごとに研究しています。

 商品は、当社の主要顧客層に照準を合わせています。イズミヤを支持してくださるのは、団塊の世代が多い。それでも衣料品の担当者は、20~30歳代の若い世代をターゲットにした品揃えをしたがる傾向があります。しかしながら、まずは今いちばん利用していただいているお客さまの満足度を高めるのが先だと考えています。

──住居関連部門はどうですか?

坂田 衣料品部門と同様に、住居関連部門でもシニアの需要をいかに取り込むかが現在の課題です。ヘルス&ビューティケア(H&BC)関連の品揃えを強化していますが、「健康」をテーマに、一部の店舗で試行錯誤を続けています。

 とくに強化しているカテゴリーは、自転車です。当社では従来、あまり自転車の品揃えに力を入れてきませんでしたが昨年、自転車を強化した実験店を出店しました。従業員に自転車に関する専門知識の講習を受講してもらい、修理やサービスに対応できるようにしています。アフターフォローの態勢をしっかり整えておけば、店の強みにもなりますからね。

今秋、中国に1号店 3年で黒字化が目標

──ユニー(愛知県/前村哲路社長)、フジ(愛媛県/尾崎英雄社長)、イズミヤの3社で取り組んでいるプライベートブランド(PB)「スタイルワン」のアイテム数がずいぶん増えてきました。3社はどのように連携されていますか。

坂田 トップは四半期に1度、ミーティングの場を持っています。それ以外の実務は、商品部の各部門の責任者やバイヤーが集まって、月1~2回のペースで打ち合わせをしています。

 3社のPBは「スタイルワン」ですが、ユニーさんは独自で品質志向のPB「プライムワン」をお持ちです。当社のPB「グッド・アイ」にも品質志向のシリーズがあり、商品によっては今後「プライムワン」の商品を当社のPBとして販売する可能性もあります。互いにメリットがあることを柔軟にやるのが3社の考え方です。

 商品以外でも、資材を共同で調達するといった、コスト削減のための取り組みも平行して進めています。

──3社でネットスーパーのシステムも共同開発しています。

坂田 一時は不正アクセスによる個人情報漏洩で、お客さまにはご迷惑をおかけしました。事件後はサービスを中断していましたが、現在は再開しています。

 ネットスーパー事業は利益を大きく上げていないのが現状ですが、社会的に必要な事業だと考えていますから、今後も力を入れていきます。

 現在、昆陽店(兵庫県)を実験店として、利益を確保できるビジネスモデルを模索しているところです。以前はネットスーパーの商圏を10km四方と広く設定していましたが、現在は1.5km四方の小さなエリアを徐々に増やす方法に切り替えました。

 商品については生鮮食品を強化し、利用頻度を高められるよう意識しています。現在、ネットスーパー事業の生鮮食品の売上高構成比は38%まで上がっています。こうした考え方で事業を拡大していけば、何とか黒字化できると思います。

中国進出1号店の出店先は蘇州市。今年9月のオープンを目標に工事が進んでいる(写真は2010年9月撮影)

──国内市場が縮小傾向にある中、多様なビジネス展開でシェアを上げようとしています。一方で、今年はいよいよ中国に1号店を開業しますね。

坂田 中国進出1号店は、蘇州市にオープンします。今年9月には開業できる計画です。業態は「カジュアル百貨店」で、直営の食品売場に加えて約200のテナントが入ります。

 オペレーションについては業務提携先の伊藤忠商事(東京都/岡藤正広社長)グループが持つ、中国での物流網や調達機能を活用していきます。

──中国への進出は、長期的な視点で次代のビジネスの一端を担う事業の“種まき”といった位置づけですか。

坂田 いえいえ。まずは1号店を開店後3年で単年度黒字化、7年で投資回収という心づもりです。実は次の出店の話もいただいています。しかし、当社の規模では1号店の結果を見てからでないと先に進めません(笑)。

──創業90周年を迎える今年は、飛躍の年にしたいですね。

坂田 まずは何としてでも既存店を底上げしたい。「GMS不振」と言われますが、視点を変えれば便利な部分もたくさんあるはずです。当社には開店から40年以上経っても利益を出し続けている店が結構あります。そうした店に手を入れ、お客さまに喜んでいただければと思います。