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不採算店整理や業務改善など内部改革に手応え、既存店をテコ入れ=天満屋ストア 橋本和雄 社長

岡山県を拠点に広島県、香川県で店舗展開する天満屋ストア。ここ数年、とくに中国エリアではディスカウンターの台頭などにより苦戦を強いられている。それに対し、店舗の作業改善を進める一方、商品力強化によって虎視眈々と巻き返しをねらっている。“経理畑”出身の橋本社長は次の針路をどう取るのか。

データに基づく経営で社内に共通認識をつくる

──少子高齢化で市場が縮小する中で、競争環境はますます厳しくなっています。足元の状況はいかがですか。

天満屋ストア代表取締役社長  橋本和雄 はしもと・かずお 1957年岡山県生まれ。80年4月天満屋ストア入社。2001年経理部長、02年経理部統括部長、05年取締役経理部統括部長を歴任後、09年常務取締役管理本部長兼経営企画室長に就任。11年3月から代表取締役社長兼経営企画室長。54歳

橋本 当社の商勢圏である中国エリアでも、とくに価格競争が激化しています。ここ数年間は、守りに徹してきたというのが正直なところです。

 ただ足元の状況に目を向けると、業績は若干上向き始めており、改善傾向にあると感じています。現在の景況感によるところもあるでしょうが、競争が一巡して落ち着いてきた結果だと受け止めています。既存店売上高は対前期比で99%を少し切る水準で、まず目標としている100%にあともう一歩というのが現状です。

──2011年2月期は減収増益、12年2月期も減収の見通しです。

橋本 11年2月期は営業収益835億3900万円(対前期比5.1%減)で、5年連続の減収でした。今期も減収を予測しているのは、前期に複数の不採算店舗を整理したことが大きな要因です。

 具体的には昨年8月に1店、今年2月期末で1店の計2店舗を閉鎖しました。ただ昨年度に閉めたうち1店舗は建て替え中で、今年11月にリニューアルオープンする計画です。

──3月に発生した東日本大震災の影響もありますか。

橋本 実はここ数年、取り組んできた改革などによって12年2月期の下期業績は改善すると見ていたのですが、震災によって見通しがやや不透明になっています。とくに原発事故の影響で、消費者に牛肉や米といった食品への不安は広がっており、今後どうなるか気になるところです。長期的に見ても、震災が消費やビジネス環境にいかに影響を及ぼすかを、注視する必要があります。

 また日本全体を見ると、少子高齢化という問題があります。少子化高齢化が進めば客数は減り、客単価が下がる。長期的に見ても、そういった傾向は強まるのは間違いありません。

──そのような中で今年2月、社長に就任されました。経理畑出身の経営者として、とくに意識することはありますか。

橋本 2つあります。

 1つは、数字、データを重視した経営です。誰もが同じデータを見て問題点や課題を共有するということです。

 2つめは、従業員が常にコミュニケーションをとることにより、企業全体のベクトルを合わせたいと考えています。向かう方向性さえ同じであれば、すべての力は足し算になると考えることができます。従業員の力には差がありますが、能力がまだ身についていない人は、周囲にいる従業員が協力し合いながら引き上げていきます。何事も議論を通じ、目標に向かっていくことができればと考えています。

SM業務改善に手応え
水平展開で底上げ図る

──さて、11年2月期は減収になる一方で、営業利益は18億7700万円、対前期比37.3%増と大幅に改善しています。どのような取り組みによるものですか。

橋本 従来から力を入れてきた販売管理費の合理化の結果です。とりわけ大きいのは人件費の削減でしょう。

 昨年6月には、35歳以上を対象として「セカンドキャリア支援制度」を活用しました。年齢によって異なりますが、退職金を積み増し、早期退職を募るというものです。「セカンドキャリア」という名のとおり、転職支援もするのが特徴です。これによって人件費を9.5ポイント削減することができました。

 また5年前から継続的に進めているのは、店舗における作業改善です。営業力の強化と生産性の向上を目的に、本部前にある食品スーパー(SM)業態の「ハピーズ岡輝店」(岡山県)を実験店舗として、作業を合理化するためのモデル構築を進めています。

──具体的には、どのような作業を見直したのでしょうか。

橋本 まず、1日の作業を時間帯別に5つのブロックに分けます。そのうえで、それぞれの時間帯における作業を効率化していきます。

 たとえば「朝1」では、開店前に売場担当者がその時間帯にすべき作業を整理します。そして、作業場の定位置管理の徹底や、作業動線などを見直すことで、ムダ、ムラ、ムリを排除して作業人時を削減していくというイメージです。

 昨年、ようやく「岡輝店」で朝の開店から閉店するまでの1日の作業改善が完了しました。今年はSM7店舗に、その成果を水平展開していく計画です。

 それと同時に1人の従業員が複数の作業をできるような「多能化」も推進しています。たとえば従来の総菜では寿司、煮物、揚げ物といった商品の種類により作業が分かれていました。多能化することで、これをお互いにカバーし合いながら、効率的に商品化できる体制へと移行しつつあります。

──総合スーパー(GMS)業態も展開していますね。GMSの作業改善はどのように進めていますか。

橋本 GMSの「ハピータウン」についても、定位置管理や文言の統一などを行っていますが、SMにおける作業改善モデルをそのまま活用するのは難しいとわかりました。そのため今のところは作業改善のターゲットをSMに絞り、優先的に仕上げていく方針です。

 今年中にはSM全店へモデル店の手法を導入して、何度も繰り返しながら着実に浸透させていきます。

 SMの作業改善が一通り終われば、その次にGMSの中の食品部門に着手していき、次に対面売場の作業改善を進めていきたいと考えています。確かに売上高は減少していますが、衣服を吊すハンガーが一定の範囲内におさまるようにするというように、従業員の作業性を考慮した環境づくりを以前から進めてきました。

低価格攻勢には品揃えで対抗

──中国エリアは、ディスカウンターの台頭が顕著です。どのような戦略でマーケットに臨みますか。

橋本 消費者の価格への関心度は、依然として高いのが現状です。しかしDS(ディスカウントストア)型SMに対し、当社が同じように低価格で対抗するのは賢明な戦い方とは言えません。またDS業態を出して抵抗するという考えも持っていません。当社は品質のいい商品を手ごろな価格で販売する「良品廉価」をキーワードに品揃えを強化し、競合企業と差異化を図っていきます。

 具体的には、当社が独自に選んだ特徴のある商品をお客さまにアピールしていきます。これには3種類あります。ひとつは「こだわりの逸品」で、品質や産地、素材、製法などにこだわった上質な商品。2つめの「あ、これいいな」は、品質と価格のバランスにこだわったバイヤーのいちおし商品という位置づけです。3つめは「からだに優しい」で、文字どおり健康志向の商品です。

 これに加えて、地元の人気商品にスポットを当てた「地元の逸品」の品揃えにも力を入れています。各エリア、各店でその地域で好まれているお菓子や味噌、ラーメンといった商品を積極的に取り上げ、売場から発信していく商品施策です。こうした商品は、本部と店舗が共同で商品開発しています。現在は昨年よりも約300アイテム増え、800アイテム程度まで広がりました。

──生鮮食品部門についてはいかがですか?

橋本 生鮮食品については、一部の店舗では店舗近隣の生産者がつくった農作物を集めた特設コーナーを設けています。現在も新たな生産者を開拓しているところです。

 また今後は総菜も強化部門のひとつと考えています。味や品質、鮮度など価格以外の要素をアピールできるカテゴリーだからです。基本的には店内加工し、つくりたての鮮度感を打ち出していきます。198円や298円の低価格弁当も多少は扱いますが、当社は398円、498円といった価格帯を中心に内容を充実させていきます。総菜を含めた生鮮食品部門の強化は、価格以外の部分での「差異化」という点で強力な武器になるはずです。

 当社は今期、営業力強化を課題として掲げています。そのためには商品力がカギとなるでしょう。当社にしかない商品を増やし、充実させることによって、消費者からの支持を得ていきたい。とはいえ今の時代、価格を無視してはお客さまにそっぽを向かれてしまいます。期間や対象商品を限定しながら、できるだけ低価格も打ち出す方針です。とくに購買頻度の高い商品については、価格訴求は避けては通れないと認識しています。

市街地へのNSC出店が理想の出店モデル

──前期は2店舗をスクラップしましたが、これからの出店戦略について教えてください。

橋本 SMを年1~2店のペースで、主に山陽道エリアへ出していきます。条件が合えばNSC(近隣型ショッピングセンター)がベストですが、あまりこだわり過ぎると物件が限定されてしまいます。単独出店の可能性を含めて、ある程度は幅広い条件を視野に入れています。標準的な売場面積は1500平方メートルです。

──競争力を発揮できるのは、どういった立地でしょうか。

橋本 市街地に比較的近い住宅地が理想です。いちばんの成功パターンに07年8月オープンの「ハピーズ大安寺店」(岡山県)があります。当社のSMを核店舗として、スターバックスコーヒー、TSUTAYA、ワールドの衣料品店「シューラルー」といったテナントが出店しています。団塊ジュニア世代をターゲットにした店づくりが特徴です。オープンしてから5年目に入りましたが、今も売上は順調です。

 同店は道を隔てた至近距離に、DS型のSMがあるほか、商圏内に有力企業の店舗が集まる激戦区です。年々ライバル店の数は増えており、その都度影響は受けるものの、早い段階で元の売上水準に戻ります。今年7月度の実績は対前年同月比5%増で推移しています。

──GMS業態の展開の方向性を教えてください。

橋本 一般的に業界ではGMS業態が不振と言われますが、GMSが一概によくないとは考えていません。当社が店舗を配している地方都市においては、「拠点性」という意味で依然として重要な役割を持っています。地域コミュニティの拠点としての機能を発揮できるように、地域と密着する取り組みも行っています。自治体と連携し、地域の行事の際などに駐車場を提供することも可能です。

 営業面でもワンストップショッピングの利便性がありますから、消費者ニーズを反映させ活性化していけば、まだまだ存在価値はあると思います。

 その意味で、この1~2年は改装にも力を入れます。現在、西大寺店(岡山市)を全面改装しているところで、その他の店も規模の見直しを含めて順次手を入れていきます。来年度も大型改装を数店計画しています。短期的には出店よりも改装のウエートが高くなります。

──最後に、将来的な目標を教えてください。

橋本 年商1000億円がひとつの目標になるでしょう。ただ今年度については既存店ベースでの減収をとめ、前期比で100%を確保することに集中します。また数店残っている不採算店についても対策を講じていく考えです。