かつてギャル系ファッションの旗手だったバロックジャパンリミテッド(東京都/村井博之社長)。今や約20にも上るブランドを抱え、全国の郊外型ショッピングモール、百貨店にも販路を広げるまでに成長した。一方で、海外市場にも進出し、数少ない日本発SPA(製造小売)の成功事例となっている。コロナ禍の現在、ECという新たなチャネルの開拓も進めている。同社の強さの秘密は一体、どこにあるのか?
ギャル系ファッションへの危機感から、多ブランド展開へ
バロックジャパンリミテッドは、ファッションのSPAとして注目される成長株の一つだ。2000年創業という新興企業ながら、2016年に東証一部上場(現在は東証プライム)を果たし、現在は売上高591億3900万円、経常利益28億4600万円に達している(2022年2月期)。また、海外市場でも成功している、数少ない日本のSPAでもある。
ところが、同社がもともと渋谷発の「ギャル系ファッション」ブームの火付け役だったことは、意外に知られていない。現在も主力ブランドである「マウジー」は、若い女性から圧倒的な支持を受け、「セシルマクビー」や「エゴイスト」などと並んで、2000年代初頭に一世を風靡した。
“ギャル系”というイメージが薄いのは、今や約20もの多彩なブランドを展開しているためだろう。ギャル系ファッションが退潮した時期を経ても、同社が高い成長を続けられるのも、そうした「多ブランド戦略」によって新しい販路、新しい市場を果敢に開拓してきたことが、原動力になっていると言えよう。
同社の村井博之社長は、ギャル系から飛躍することになった第一のターニングポイントが、国内市場では「マウジーから派生したブランド『アズール・バイ・マウジー』を、スタートしたことだった」と明かす。
「ギャル系ファッションというコンテンツに、持続可能性があるのかという危機感が、根底にあった。ファッションは多様化、個別化し、2010年代に入ると、海外ファストファッションの台頭で、既存の客層もそちらへと流れていった。少子化も顕在化し、ティーンズの国内市場縮小が目に見えていた。それならば、先手を打って、ギャル系以外のブランド展開にも乗り出そうということになった」
ファッションブランドの場合、ベースとなるテイストにトレンドを取り入れながら、アップデートしていくのが、固定客層をつなぎ止めると同時に、新しい若い客層も呼び込む戦略として一般的だ。実は、マウジーも、「20年来という根強いファンもいらっしゃる」(村井社長)。そこで、“ギャル系”のDNAは継承しつつ、最新のトレンドにマッチする洗練されたデザインにシフトしている。
新ブランドを開発し、郊外型SMや百貨店の販路を開拓
しかし、バロックはそれだけでなく、新しいジャンルにも挑戦した。
ファストファッションをにらんで、デザイン性とリーズナブルな価格を両立させた、20~30代向けのジーニングカジュアルブランド「アズール」は、レディスだけでなく、メンズのファッションも投入。フレグランスなどの雑貨も取扱い、ライフスタイルも提案できるようにした。
それとともに、村井社長は、「それまでは、ファッションビルなど都心型店舗の展開がメーンだったが、アズールは、ショッピングモール(SM)をターゲットに、郊外型店舗の展開にも着手した」と振り返る。これもファストファッションを意識した、新たなチャネル戦略だった。
アズールの第1号店は2008年、埼玉県のショッピングモールにオープン。一方で2010年、旗艦店となる大型路面店を新宿でもオープンして、ブランドの認知を図りつつ、全国展開を進めた。現在では、アズールはマウジーと並んで、売上を牽引するブランドに育っているという。
さらに、第二のターニングポイントとなったのが、2012年にローンチしたブランド「エンフォルド」だ。同社の基幹レディスブランド「スライ」を立ち上げたデザイナー、植田みずき氏が手がけた。
「30代キャリアをメーンとする大人の女性向けで、エレガントでありながら体にも馴染みやすくリラックスできるファッションで、“ドメスティックコンテンポラリー”というポジションを確立できた。百貨店での販売実績を積み重ねることで、『バロックはギャル系、カジュアルしかできないのでは』という偏見も解消でき、ビジネスチャンスを広げるきっかけにもなった」(村井社長)
商品を作りこみ、アイテム数を削減
コロナ禍は、バロックにとっても大きな転機になったが、村井社長は、「既存のビジネスモデルを見直し、よりサステナブルなエコシステムに作り変えることができた」と話す。その成果の一つが、在庫の削減だ。
同社は、もともと多品種少量型のMDだったが、コロナ禍でアイテム数をさらに絞り込み、仕入れを前期比約20%圧縮したという。
「モノづくりでは、1点当たりにかける労力が増えて、商品力を高めることができた。ウィズコロナでは、リアル店舗が閉まっていてもお買い上げいただけるような、魅力ある商品でなければならない。品揃えや数量が少ないと、“チャンスロス”が拡大すると言う人もいるが、売り切れ御免でもいいと思っている。実際に、当社では発売から1週間で、プロパー価格で売り切れるアイテムが続出している。確かに、売上は下がったが、コロナ禍でも利益は確保できた」(村井社長)。
また、サプライチェーンが寸断されたため、中国に集中していた生産拠点を、アセアンなどに分散させ、リスクヘッジも進めているという。
もう一つの成果が、デジタルシフトの進展だろう。EC化率は現在、18.7%までアップした。村井社長は、「さらに30%まで高めるのが目標」と説明する。例えば、同社のポイントアプリ「シェルターパス」は8月現在、240万ダウンロードに達している。また販売員が自身のSNS経由で自社のECサイトに誘導した場合、インセンティブを支払うといった取り組みも始めている。
デジタルネイティブの若年層にリーチするのに、ECは欠かせなくなった。ただし、村井社長は、「デジタルシフトとはいえ、あくまでもリアル店舗とECの二刀流。リアル店舗が主力であることに、変わりはない。オンラインとオフラインをシームレスにつないで、シナジーを発揮させるOMOが肝心」と強調する。
リアル店舗がインフラとして欠かせない理由の一つが、接客。渋谷109の「カリスマ店員」の伝統を受け継ぐ接客のスキルやノウハウは、同社にとって重要な経営資源だ。同社は人材育成にも力を入れ、能力に応じて25歳前後で店長、30歳前後でスーパーバイザーなど小チームのリーダーに昇格させるのが、キャリアパスの標準モデル。「器が人を育てると考えているので、早いうちから現場のリーダーを経験させる。また社員は全員、入社後にはリアルの店頭に立たせる」と、村井社長は言い切る。バロックの強さの源泉は、カリスマ店員を育てるリアル店舗にあるとも言えそうだ。