「グローバルワーク」「ニコアンド」などを展開するファッション専門店チェーンのアダストリア(東京都/木村治社長)は、来春から米国発のカジュアルブランド「フォーエバー21」を国内で展開する。2019年に日本市場から撤退したファストファッションブランドの名前を用いて、アダストリアが商品の約8割を企画・生産し、ユニクロよりも若干低い中価格帯のSPA(製造小売業)ブランドとして再生。ECを中心にOMO(ネットと実店舗の融合)戦略を取り、5年目に売上高100億円を目指す。
一世を風靡したファストファッションチェーン
「フォーエバー21」は1984年に米国・ロサンゼルスで創業。一時は世界で800店を超え、一世を風靡した格安ファッションチェーン。
2000年に当時の大手婦人服専門店の三愛と提携し国内で2店を開いたが1年半で撤退。09年4月東京・原宿に再上陸1号店をオープン。その後、銀座、新宿、渋谷に大型路面店を出店するなど、08年9月に進出したH&Mとともに日本のファストファッションブームを盛り上げた。
19年9月に米国連邦破産法を申請して経営破綻。日本でも同10月までに全店を閉鎖した。
その後、米国ブランド管理会社のオーセンティック・ブランズ・グループ(ジェイミー・サルター会長、ABG社)が20年にブランド名を取得、現在は米国の約370店を中心に世界で約570店を展開している。
日本では伊藤忠商事(東京都/石井敬太社長)が国内の販売権とマスターライセンス権を取得。アダストリアが今年5月に設立したライセンス事業子会社、ゲートウィン(杉田篤社長)がサブライセンス契約を結び、商品企画・販売・店舗運営を担当する。
トレンドと品質が共存するブランドに転換
アダストリアは「フォーエバー21」の高い知名度を生かしながら、「大量生産、大量販売、大量廃棄」といった悪いイメージを払拭。自社の生産背景を活用して適時・適価・適量の商品調達体制を取る。品質や価格もかつては「チープで素材や縫製が悪い」という評判だったが、同社の品質基準を適用し、中価格帯に設定。「トレンドとハイクオリティが共存するブランドに転換する」(木村社長)。
主要ターゲットは10代後半~30代前半の流行に敏感な女性。平均商品単価は4000円、セット率1.5程度を想定し、客単価は5800円を見込む。ユニクロよりはやや低く、H&Mやジーユーよりも少し上の価格帯をイメージしており、ドレスが2180円、ジーンズが1550円といった原宿店開店時の価格に比べると2倍以上になる。
商品は米国の商品企画を基に、日本に合った素材やパターンを選定。サイズ、デザイン、色などをローカライズ(地域化)し、来春夏は約8割を国内企画にする。残りの約2割が米国からの仕入れ。かつてはOEM(生産委託)とODM(企画・生産委託)による商品調達だったが、アダストリアの企画・生産体制により、SPAブランドに変身する。
素材面では初年度はサステナブル(持続可能)な素材を約20%使用し、2年目以降はさらに比率を高める。
ECを中心にOMOで事業を拡大
事業展開方針も刷新する。前回の上陸時は大都市における路面店や売場面積500~900坪超の大型店を展開していたが、今回は路面店を出店せず、ショッピングセンター(SC)を中心に出店。売場も150坪程度にダウンサイジングする。年間3店をめどに堅実に店舗網を拡大。ECでの販売を約6割と重視する。
アダストリアは1400万人以上の会員を有する自社ECサイト「.st」(ドットエスティ)を展開。各ブランドのショップスタッフが個人のスタイリングを投稿し、お客にコーディネートを提案、SNS(交流サイト)とも連携する「スタッフボード」と呼ぶOMOの仕組みを強みにしている。「フォーエバー21」もこれを軸にファン客を育成。実店舗とECをつなぐことで事業基盤を築く。
来年2月にドットエスティでの販売をスタート。4月下旬をめどに関東と関西の郊外型SCに出店する。1号店はららぽーとになる予定。その後ポップアップストア(期間限定店)も随時展開し、お客が直接商品を手にする機会を設ける。
展開初年度の24年2月期は売上高13億円(うちEC10億円、店舗数3店で3億円)、5年目の28年2月期には売上高100億円(EC60億円、店舗数15~18店で40億円)と堅実な計画を立てている。
海外ブランドを活用する事業子会社
日本における「フォーエバー21」のテーマは「Wear No Filter」。特定のフィルターを通さず、現実をそのままに伝えることでさまざまな現代的な価値観へのリスペクトと共鳴を表現する。
商品は①ベーシック、②フェミニン、③ポップ、④モード、⑤ストリート、⑥ビンテージ―の6つのコンセプトを設定。10代後半~30代前半の女性が仕事やプライベートを含めた生活シーンの中で使えるさまざまなテイストの服を提案していく。
事業展開するゲートウィンはアダストリアグループにおけるライセンス事業のビジネスモデル構築を目指す新会社。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングで素材開発などをしていた杉田氏が社長に就任。ECや商品の企画・生産から販売までのバリューチェーン、店舗開発力などアダストリアが持つプラットフォーム(基盤)を活用し、海外の有力ブランドを日本国内で展開する。将来的にはアジア全域での事業展開を視野に入れている。
日本では米国のカジュアルブランド「アメリカンイーグル アウトフィッターズ」が今年10月、東京・渋谷と池袋に旗艦店をオープンする予定で、米国のアウトドアブランド「エディー・バウアー」も来春から販売を始めるなど、一度撤退したブランドが再上陸する動きが出始めているが、「エディー・バウアー」はブランドを有するABG社が伊藤忠商事とライセンス契約を結び、サブライセンス会社が国内展開する今回の枠組みと同じ構図になっている。