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イオン九州、トライアル……九州小売13社が”横連携”する前代未聞の物流プロジェクト発足!

イオン九州(福岡県)とトライアルホールディングス(同:以下、トライアル)は8月2日、2社を含む計13社の九州地盤の小売企業が参画する、「九州物流研究会」の発足を発表した。その名称のとおり、主目的は「物流の効率化」。サプライチェーンにおいて重要な役割を担う一方で、いわゆる「2024年問題」やSDGs(持続可能な開発目標)への対応など課題が山積する物流の領域に九州から革新を起こすべく、競合同士が横で連携する一大プロジェクトが立ち上がった。

サンリブ、ハローデイ、エレナ、西友も……競合同士が横連携し、物流の課題解決に取り組む

九州を地盤とする小売企業13社が集結し、「九州物流研究会」が発足した(写真右端からトライアル亀田社長、イオン九州柴田社長)

「おそらく日本では初めてのことだし、海外でも(同じような事例は)少ないのではないか」

 福岡市内で開催された記者会見の冒頭、イオン九州の柴田祐司社長はでこう切り出した。

 会見で発表されたのは、「九州物流研究会」の立ち上げについて。イオン九州、トライアルが“幹事役”になるかたちで、このほかサンリブ(福岡県)、ハローデイホールディングス(同)、西鉄ストア(同)、エレナ(長崎県)、トキハインダストリー(大分県)、さらに福岡県を有力地盤の1つとする西友(東京都)など、計13社が研究会に参画することが明らかにされた。

 物流をめぐっては、配送ドライバーの時間外労働時間に上限が設けられることで既存物流へのさまざまな影響が指摘されている「2024年問題」をはじめ、人材不足や燃料費の高騰によるコスト高、さらにはSDGsへの対応など課題が山積みの状態。サプライチェーンの川下にある小売業にとってももちろん他人事ではない。

 そうした状況に鑑みて、研究会が取り組みテーマとして掲げるのは大きく4つ。①温室効果ガス46%削減、②商品・車両の移動距離削減、③低公害車の導入推進、③小売業・運送業従事者の社会的地位向上、である。

 これらの目標達成のために、九州および各県を代表する小売企業が連携し、”協働”で取り組んでいくというのが、九州物流研究会の立ち上げ主旨。本業では真っ向から競合する者同士が、物流問題の解決という1つのテーマのもとに“横”でつながる――まさに柴田社長がいうとおり、前例のない取り組み・集合体と言えるだろう。

「商品が店に入るまでは、一緒にやれることがたくさんある」

トライアルの亀田晃一社長

 イオン九州とトライアルをめぐっては、今年6月にリテールAI研究会が開催した「リテールAIセミナー2022」において、両社がデジタル領域を中心に連携を深めていくことが発表されており、「今後取り組むこと」の1つとして物流DXが挙げられていた。九州物流研究会の立ち上げにより、その枠組みがよりサイズアップして具現化したかたちだ。

 きっかけとなったのは、トライアル側からのイオン九州へのアプローチだった。実はトライアルはこれまでも、物流効率化を図るべく複数の同業企業と小規模ながら共同の取り組みを展開していた。

 「物流DXと言っても、“X(トランスフォーメーション)”のためには産業構造そのものを変える必要があるが、それは1社ではできない。トライアルはメーカー系の物流会社とはいろいろな取り組みをやってきたが、最終的には小売企業が横連携しないと本当の意味での効率化は図れない。そこで1年半くらい前から、同じ九州を地盤とする小売企業に1社1社話をさせてもらった」とトライアルの亀田晃一社長は説明する。

 その流れでイオン九州にも声をかけたところ、「柴田社長から『九州を挙げてやろう』 ということで、(九州物流研究会の立ち上げの)音頭をとっていただいた」(亀田社長)という。「店でモノを売ることについては(各社で)競争になるが、モノが店に入るまでには一緒にやれることがたくさんある」と柴田社長。物流効率化という喫緊の課題解決を急ぐべく、競合の壁を超えたダイナミックな動きが九州から生まれようとしている。

「イオンだけで」ではなく、「地域のなか」で連携することも重視

イオン九州の柴田祐司社長

 他方で、イオン九州はイオン(千葉県)グループの一員であり、当然ながら同グループが推進している物流戦略の一端を担う存在でもある。イオングループの企業として、かつ九州物流研究会の幹事メンバーとして、物流戦略をどのように舵取りしていくのだろうか。

 これについて柴田社長は次のようにコメントした。

 「岡田(卓也イオン名誉会長)からよく言われるのは、『(物流の)機能会社に一任して、(グループの小売事業会社が)何も考えなくなっている』ということ。その意味で、九州だからこそできることがあるのではないか考えている。もちろん、手塚(大輔イオングローバルSCM社長兼イオン執行役物流担当)とも話をしながら、齟齬が起こるようなことはしない。しかし『イオンだけで全部できる』と考えるのではなく、地域のなかで連携できるのであれば連携していく。そうしてみんなでコストを下げていければ、それをお客さまに還元できる」

まずは福岡県内でイオン九州とトライアルが共同配送実験を開始へ

 九州物流研究会の今後の具体的なプロセスとしては、まずイオン九州とトライアルの2社が福岡県内で共同配送の実験を行う予定。当初はグロサリーなど常温商品を実証実験の対象とする。そこで得られた結果を研究会の他の参画企業と共有しながら、配送効率の向上を図っていく考えだ。また、物流効率化のための各社共通のデータ基盤をつくることも検討する。

 もっとも、壮大なプロジェクトゆえに一定の時間は要する。「とくにデータ基盤の部分はセンシティブな側面もあり、構築には2年くらいのタームで進めていく。今からやらないと2024年には間に合わない。自動車業界や経済産業省など関連分野・省庁などからも知恵をもらっていきたい」と柴田社長は抱負を語る。

 九州という1つのエリアで競合する小売企業が10社以上集結し、物流DX・物流効率化という共通の課題に向き合い、解決に向けて動き出した九州物流研究会。取り組みはスタートしたばかりだが、その一挙手一投足に全国から注目が集まることになるだろう。