「ずーっと狙っていたバッグが日本になくて……」「送ってもいいけど……それ、BUYMAにあるじゃん!」――このテレビCMでもおなじみの、海外ブランド・ファッション通販サイト「BUYMA」(バイマ)。ECの急速な普及も追い風となり、このコロナ禍にあって売上は過去最高を更新し続けている。
実は、創業が2004年で、個人と個人を結ぶCtoC型のマーケットプレイスの日本におけるパイオニアでもある。そのBUYMAのこれまでの歩みと、今後の展望について、同サイトを運営するエニグモ(東京都/須田将啓社長)の取締役 最高執行責任者 安藤英男氏に聞いた。
海外配送のピンチを乗り越え、過去最高売上を更新
エニグモの2022年1月期決算は、売上高が対前年同月比7.6%増の76億円。例年15%前後の増加率に比べるとやや鈍化したものの、長引く新型コロナウイルス禍の中にあって過去最高をさらに更新した。
「2021年1月期の第1四半期は、コロナの感染拡大で消費マインドが落ち込んだことに加え、海外からの配送が滞り、取引が落ち込んだ」とエニグモの取締役 最高執行責任者 安藤英男氏は話す。
1回目の緊急事態宣言が発令された当時は国際郵便にも大幅な遅延が生じていたが、「パーソナルショッパー」と呼ばれる海外在住の出品者には、定時運行する民間のチャーター便への切り替えを推奨し、難局を乗り切った。その後は、巣ごもり消費の拡大と特別定低額給付金の押し上げ効果もあり、取引が再び増加基調に転じた。
そのコロナ危機を乗り越えた現在、BUYMAでは総額約676億円、約300万件ものアイテムが取引され、ユーザー数は実に約970万人に上る。日本国内ではなかなか買えない海外の最新モデルやレアなアイテムが手に入るマーケットプレイスとして、特にファッション志向の高い女性ユーザーを中心に大きな支持を得ている。
取り扱うアイテムは、海外の有名ハイブランドにとどまらず、日本では知名度の低いブランドや手ごろな価格帯のブランドも数多く取り揃えている。日本国内での売価に対する割引率はアイテムによって異なるが、20~30%台の割引率のアイテムも珍しくない。それを、中古でなく正規品として購入できるとあれば、ユーザーとしてはかなりお得な購買体験になるだろう。
CtoC型マーケットプレイスの先駆け
アメリカでは3万円で買えるサーフボードが、日本では10万円もする。アメリカに友達がいたら、取り寄せてもらうようお願いできるのに―。
BUYMAの歴史は、サーフィンが趣味という創業者のそんなアイデアから始まった。海外に居住する個人がバイヤーとなって出品したさまざまなアイテムを、日本に居ながら購入できる「バイイングマーケット」として2004年に「BUYMA」を創業。個人と個人とを結びつけるCtoC型マーケットプレイスの、日本における先駆けでもある。
その後は、取り扱うアイテムをレディースからメンズにも拡大。さらに、ファッションから家具、ライフスタイルなどカテゴリーも増やしていき、ユーザー数、取扱額もそれに比例して順調に伸びていった。2012年7月には東証マザーズへの上場を果たしている。
2015年からはグローバルサイト「Global BUYMA」を立ち上げ、海外進出に乗り出す。当初は苦戦が続いていたが、2019年に新たな責任者を迎え、米ロサンゼルスに拠点を構えて本格的に注力。これまでの取引傾向から、ラグジュアリーブランドに特化したファッションサイトとしてリブランディングした。この戦略が奏功し、2022年1月期決算では対前年同期比の約2倍の9億円へと取扱額を大きく伸ばした。
独自の取引スキームとショッパーの存在が「強固なプラットフォーム」をつくる
メルカリのような二次流通ではなく、新品のアイテムを取り扱うBUYMAのようなCtoCのビジネスモデルは、他に類例を見ない。なぜ競合が現れないのか? その理由は、長年かけて構築してきた独自の取引スキームにある。
一つは、パーソナルショッパーが商品を仕入れる前に、購入者からの注文を予約注文の形で受け付けることができること。実際に注文を受けてから買い付けるため、個々のパーソナルショッパーは在庫リスクを気にせずに売りたい商品の写真を掲載することができる。
もう一つは、独自の与信システムにある。注文が入った段階で購入者のクレジットカードの与信枠が押さえられ、商品が問題なく届いたのを確認した後に引き落とされる流れになっている。「在庫がなく、商品が届かないのに引き落とされた」という事態を回避する仕組みが担保されており、ユーザーも安心して買い物を楽しめるのだ。
このような独自の取引スキームに加えて、現在約19万人いるというパーソナルショッパーの存在を安藤氏は挙げる。
「パーソナルショッパーが長年にわたって築いてきたネットワークとユーザーからの信頼は、一朝一夕にキャッチアップできるものではない。このパーソナルショッパーの存在こそがBUYMAのプラットフォームを強固なものにしている」(安藤氏)
民主的なプラットフォーム運営が多種多様な取引を生む
ファッションに特化した独自のマーケットプレイスを築き上げ、順調に規模を拡大してきたBUYMA。近年では国内、グローバルともに「小ロット・多品種でいろいろなアイテムが取引される傾向が強い」と安藤氏は語る。
「とりわけグローバルにおいて顕著だが、ノーブランドのレアなアイテムや、数年前の限定モデルなど、文字どおり多種多様なアイテムが取引されている。その時の流行ではなく、オンリーワンのアイテムを志向する傾向が強まっていると感じる」
ユーザーアンケートでも、BUYMAを利用する理由として、最も多い約6割のユーザーが「他にはないものを買いたい」と答えているという。この多様なニーズに応えるために、「今後は、マーケットプレイスとしての本質的な価値をもっと磨くことに注力していきたい」と安藤氏は力を込める。
ユーザーが求めている商品がより多く集まり、より速く確実に届けられる――シンプルだが、それこそがBUYMAが追求する「本質的な価値」だ。MA(マーケティングオートメーション)ツールによって売り手・買い手のマッチングの精度を上げたり、物流業者と提携してパーソナルショッパーの発送作業の効率化を支援するなど、地道ながらもその価値を高めるための取り組みを進めている。
「マーケットプレイスはより民主的に運営されるものであることが望ましい。私たち運営サイドが過度に干渉せず、個々のショッパーがそれぞれの感性でアイテムを紹介し、価格も自主的に決定できるようなプラットフォームを目指している」(安藤氏)
消費者の価値観が多様化し、SNSなどを通じて発信力を備えたことで、企業から消費者への一方通行の関係から、より双方向でフラットな関係に変化しつつある――デジタルマーケティングの世界ではよく語られる話だが、まさにそれを体現するかのような、売り手・買い手の自由でフラットな交流がBUYMAのプラットフォームでは展開されている。時代がようやく追いついた、と言えるのかもしれない。これからも、BUYMAはCtoC市場の新たな可能性を拓いてくれそうだ。