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総取扱高3兆円越えの丸井、売らずに利益につなげる「三位一体」の方程式とは

丸井グループ(東京都/青井浩社長)はさきごろ、2022年3月期の決算を発表した。売上高は2093億2300万円(前年同期比101.5%)、営業利益は367億8400万円(同141.6%)、経常利益は355億4700万円(144.8%)、親会社に帰属する当期利益は177億9100万円(同684.6%)だった。
グループの総取扱高は前期比16%増の3兆3734億円となり、初めて3兆円を超えた(前年:2兆9192億円)。営業利益と当期利益はコロナ前には戻らないものの、計画を達成した。

「百貨店」は今は昔

 数字で見る同社は、苦境にあえぐ百貨店業界とは一線を画す勢いだ。より詳細に数字を分析すると、同社が中経で打ち出し、推進する「百貨店業態のトランスフォーメーション」が着実に前進していることがわかる。

 「売らない店」については、非物販のテナント構成が7%増となり、50%に到達。中経で目標に掲げる70%達成に向け、順調に進捗している。

付随して強化している「イベントフルな店づくり」は、前期比で3倍以上となる2,900回のイベントを開催し、目標に掲げる5,600回へ向け、シフトを加速させている。

躍動するフィンテック事業

 売らずに利益を増やし続ける同社。小売のイメージでは想像がつかないが、どのように利益を上げているのか。そのカラクリこそが、同社の「変態」の肝であり、百貨店が次世代で生き残る生命線だ。

 解き明かすカギは、成長著しいフィンテック事業にある。22年3月期は、前期、前々期に比べ、売上収益、営業利益ともに過去最高を達成。営業利益の412億円は、小売セグメントの20倍超。コロナ前の水準を超える快調ぶりで、現在の同社を象徴している。

 同事業の命運を握るカードクレジット取扱高は、3兆円を突破。「家計シェア最大化」として戦略的に強化している家賃払い、EC、定期払いなどが奏功し、利用を牽引する。中経では26年3月期に5.3兆円を計画しているが、射程圏に入る勢いだ。

売らずに利益につなげる方程式

 キーワードは「新規事業、共創投資への無形投資を進めること」だ。新たな事業や有望なプロジェクトを、同社がテナント貸しと資金で支援。その際、同社はエポスカードの活用を条件とする。会員獲得のフックとするためだが、重要なのはそこではない。カードの普及によって、利用者のお金の動きを把握することが、同社が求める最大の価値だ。

 家計シェアを最大化することで、トレンドや売れ筋をデータ解析。常に市場の半歩先を見通し、投資効率を最大化する。つまり、テナントをラボのように活用し、売らない代わりに情報を吸い上げ、「売れるを見極める場」とするのだ。

 EC企業は当初からやっているデジタル時代のマーケティングの王道だが、生のイベントを絡めた場での施策は得られる情報の質も量も異なる。より未来へ向けた動きを把握できるのが、イベントフルな非物販テナントの強みといえる。

 収集したデータは分析、解析し、磨き上げることで価値になる。移行期とはいえ、そうした人材が不足していることが現状の課題。そこでトランスフォーメーションにおける重要な施策として強化しているのが、人材育成だ。

目指すのは小売×フィンテック×未来投資の三位一体のビジネスモデル

 同社が目指すのは、小売からフィンテック主導を経て、さらに未来投資を加えた三位一体のビジネスモデルへの進化。労働・資本集約型から、知識創造型への180度の方向転換となるだけに、人的投資に妥協はない。

 現在の77億円から、26年3月には120億円まで人的資本投資を拡大。人件費に占める割合でみれば、現在の22%から35%にもなる計算だ。

 箱や枠組みさえ整えれば、ある程度収益は見通せた時代から、人材こそが変化に対応する唯一最強の時代への転換に備えるにはある意味当然のスタンスともいえるだろう。

 より具体的には、デジタルの力を活用して新たなビジネスをプロデュースできる人と定義する同社。それはまさに、百貨店のテナントを起点にイベントを企画し、カードの活用をベースにしてデータを収集。それを解析して、事業の促進や新たな売れ筋を生み出せる人材と言い換えていいだろう。

資産を活かしつつも大胆に業態転換

 23年3月期は、総売上高で16%増の3兆9100億円、売上収益は6%増の2220億円、売上総利益は6%増の1940億円、営業利益が11%増の410億円、当期利益は21%増の215億円を見通す同社。伸びしろしかないといわんばかりの勢いで、総売上高4兆円もうかがう。

 好立地、大キャパという「資産」は活かしつつ、ビジネスモデルを大転換し、変態を加速する同社。売ることが全てから、売らずに儲ける大胆なシフトが成功の大きな要因の一つに違いない。今まさに脱皮直前の同社の動向は、生き残りを模索する企業なら凝視しておくべきかもしれない。