ドラッグストア「スギ薬局」を運営するスギホールディングス(スギHD)が、さきごろ2022年2月期決算(連結)を発表した。売上高は対前期比3.8%増の6254億7700万円、営業利益が同5.6%減の321億3700万円、経常利益が同6.4%減の330億8200万円、純利益が同8.2%減の193億8900万円だった。
2017年2月期以来の営業減益となったものの、2021年12月28日に下方修正した数値からは、売上高や各段階の利益が上回る結果となった。スギホールディングスの戦略をまとめた。
物販苦戦も調剤が牽引
スギHDの22年2月期の営業面をサマリーすると、マスクなど予防商品は底堅く推移。一方で巣篭もり需要における日用品食品の伸び悩み、化粧品の販売苦戦が長引いていることなどを受け、物販の既存店売上はマイナスでの推移となった。
そうした中、全体売上に大きく貢献したのが調剤だ。杉浦克典社長は「通院を控える動きが緩和したことや積極的な開局、高額処方箋の獲得などにより応需枚数を着実に伸ばした」と報告し、1327億円で対前期比プラス12.9%となった主軸の好調を振り返った。
調剤併設型ドラッグストアとしてトップを快走する同社だけに、強みがそのまま業績を下支えした格好だ。同社は今後、現在7割を超える調剤併設型店舗を全店舗に拡充する方針を打ち出しており、薬剤師の採用を強化している。
中経の中核となる「トータルヘルスケア戦略」とは
競争が激化するドラッグストア業界にあって、調剤併設店舗を柱とする同社は、今決算発表で改めて23年2月期を初年度とする中期経営計画を策定した。「トータルヘルスケア戦略」だ。
その内容はかねてから進めている総合的なヘルスケアサポート機能も付加した「地域のヘルスケアステーション」をブラッシュしたものとなっている。
杉浦社長は「この戦略は日本社会が抱える少子高齢化への対応、また新たに生まれてくれるさまざまなデジタル技術を活用し、健康・医療というキーワードでお客さま、患者さまがどの健康状態であっても支援をさせていただくという当社の取り組みの全体像を表すもの」と説明。高齢化に伴う社会課題を地域のヘルスケア拠点としてデジタルも最大限に活用しながらシームレスに地域の健康をサポートする構想となる。
出店を加速する狙い
競争の激化やコロナ禍という苦境の中でも積極的に新規出店を継続する同社。今後の計画については「5年後の2000店舗の達成に向けてペースを緩めることなく出店を継続する」(杉浦社長)と力説。この1年で112店舗を新規出店したペースを継続し、関東圏も強化しながら2027年の2000店舗達成を改めて宣言した。
店舗数の拡大は同社にとって、売上向上の側面以上に「地域のヘルスケアステーション」を目指す上で重要な施策となる。なぜなら、いつでもすぐに来店できる、来店ができなければ薬剤師が患者宅を訪問する。そのためには、網目のように張り巡らされた店舗ネットワークが不可欠だからだ。
服薬、そして日用品の購入。調剤併設型DgSが主軸の同社にとって、店舗は利用者にとってまさに生活の拠点であり、健康のケアを意識する身近な場所となる。薬剤師が店舗で直接、顧客と顔を付き合わせるだけでも健康状態の把握ができる。来店頻度によってなんらかの変化の予兆を知ることもできる。
DX推進で顧客接点を強化
こうしたリアルのコミュニケーションで埋めきれない部分を補完するのがデジタルツールだ。例えば、スギ薬局アプリは、ドラックストア業界でも高水準となる833万ダウンロードを突破し、同社の顧客接点の重要なタッチポイントの一つとなっている。
気軽に歩くことでスギ薬局のポイントがたまる「スギサポwalk」は、221万ダウンロードを超え、ロイヤリティ向上に貢献している。
調剤シーンでは、処方箋を送信する機能を軸にしたかかりつけ薬局アプリ「kakari」が36万ダウンロードを達成。対面に加え、デジタルでも接点を持つことでより深い患者との関係構築が可能となり、薬剤師の専門性向上につながることが期待される。
さらにオンライン食事指導サービスやAIを活用した栄養素解析などの機能を実装する「スギサポイーツ」を投入するなど、同社はリアルとデジタルの融合を加速させており、「地域のヘルスケアステーション」となるためのDX施策を着々と浸透させている。
スギHDが目指す世界観実現へ
杉浦社長はこうしたDX施策について「人はライフステージにおいて健康の維持、未病、予防、軽医療、服薬、介護、看護、終末期に至るまで様々な健康ステージを経験します。これらを3つの領域に分け、当社ドラッグストアを中心とするリアル店舗の連合体とデジタルシステムネットワーク、行政連携によりこの世界観の実現をめざしていく」と述べ、同社がドラッグストアして目指すべき道を明確に示した。
高齢化という社会課題に対し、特に懸念される医療費問題。病院と小売の中間に位置するドラッグストアが担える領域は非常に大きい。“受け皿“として、その利便性やサービスが消費者のマインドに響けば、いよいよドラッグストアは小売の域を超え、「地域のヘルスケアステーション」として包括的に住民の生活支援の拠点として、地域に根を張る不可欠な存在へと深化することになる。