メニュー

ヨーク×OniGOが 注文から最短10分配送を開始 食品宅配サービスにおける革新性とは

3月18日、セブン&アイ・ホールディングス(東京都:以下、セブン&アイ)傘下のヨーク(東京都/大竹正人社長)は、注文から最短10分ほどで商品を届けるクイック宅配サービスの実証実験を開始した。スタートアップ企業のOniGO(東京都/梅下直也社長)との協業で実施するもので、新しい買物体験の創出に挑戦している。

ヨークが実証実験を行う「コンフォートマーケット西馬込店」(東京都大田区)

ヨーク側から協業を提案
約2000品目を提供 

 ヨークが実証実験を行うのは、東京都大田区にある食品スーパー「コンフォートマーケット西馬込店」(以下、西馬込店)。セブン&アイグループのなかでも、首都圏における需要開拓に挑戦する実験店と位置付けられている店舗だ。
 これまでヨークは食品宅配サービスを展開しておらず、高まるニーズに対して「利便性の高い新しい買物体験を提供したい」と模索していた。そうしたなか、ヨーク側がOniGOに話を持ちかけ、その方針が合致したことから今回の協業に至った。
 今回実験するサービスは、同店の約6000品目の品揃えの中から約2000品目を、専用アプリを通じて提供し、受注した商品を店舗から約1.5㎞圏内に電気自転車で配送するというものだ。利用客からは配送料として税込300円を徴収する。

OniGO のスタッフが
ヨーク店舗に常駐

左:ヨーク執行役員首都圏戦略室長 の伊藤 弘雅氏、右:OniGOの梅下直也社長

 ヨークと協業するOniGOは、専用店舗から商品を即時に届ける「ダークストア」型の食品宅配サービスを展開し注目を集めるスタートアップ企業だ。現在、東京都目黒区の鷹番、自由が丘、世田谷区の「駒澤大学」駅近くの計3カ所にダークストアを設けてサービスを提供している。

 最近では実店舗を持つ食品小売業との連携にも乗り出しており、2月25日にはローソン(東京都)の「ローソンストア100」の商品を配送するサービスの実証実験を開始。24年度内には100店舗への拡大を掲げている。

 「ローソンストア100」では、近くのOniGO拠点にいる同社スタッフが、受注後に同店で商品をピッキング、配送するのに対して、今回のヨークのとの取り組みはOniGO のスタッフがヨーク店舗に常駐して行う点で新しい試みとなる。

 OniGOの梅下直也社長は「自前での事業展開のほかに、食品小売チェーンとの協業も広げていきたい」と述べている。

専用アプリをスキャンで
商品をダブルチェック

 昨今、ネットで受注した商品を30分程度で即時配送するクイックコマース(Qコマース)が台頭している。デリバリープラットフォームサービス「Wolt」をはじめ、食品小売業と提携して生鮮食品の配送に取り組む企業も現れている。
そんななかヨークが協業先にOniGOを選んだ理由の1つに「商品のピッキングシステムが優れている」(ヨーク執行役員首都圏戦略室長 の伊藤 弘雅氏)という点を挙げる。

 西馬込店での商品のピッキングシステムの流れはこうだ。同店では、商品のピッキングを行う「ピッカー」と、商品を配送する「ライダー」が、それぞれバックヤードに常駐している。

 ピッカーは作業時、従業者向けアプリをインストールしたスマホ端末を腕に、商品をスキャンするスキャナーを指に装着しピッキングする。ピッカーはアプリ上の商品画像を目で見て、さらに商品スキャンによる認証のダブルチェックにより誤配送を防ぐ。

従業者向けアプリをインストールしたスマホ端末と、商品をスキャンするスキャナー

 アプリ上には、受注した商品が効率的にピッキングできる導線順に並ぶ。また、在庫連携システムにより、ピッカーがレジを通過しなくてもよいようにしており、これらの工夫により短時間配送を実現している。在庫連携は1時間ごとに行い、可能な限り欠品も防ぐ。

アプリ上には、受注した商品が効率的にピッキングできる導線順に並ぶ
アプリ上には商品画像も表示され、商品スキャンでの認証を合わせたダブルチェックで誤配送を防ぐ

アプリ上で
付加価値商品を提案

 OniGOの梅下直也社長は、商品を短時間で配送する以外にも、小売企業側に価値を提供できるという。具体的には、売場で埋もれてしまっている商品や、ヨークがとくに販売を強化したい商品を、注文アプリ上で訴求し販売につなげる。取材日は、西馬込店が付加価値商品として提案に力を入れている冷凍スイーツを、アプリのトップページで訴求していた。

販売に力を入れている冷凍スイーツを、アプリのトップページで訴求し付加加価値を伝える

利用回数を重ねるほどに
単価が伸びる傾向あり

 食品配送サービスは収益化が難しい事業だ。今回のサービスでは配送料のほか、店頭と大きく変わらないことに配慮しながら一部商品は価格を上乗せし、商品の粗利ミックスによって収益をあげられるようにしていくという。

 サービスを軌道に乗せるうえで重要とするのが、リピート客の獲得だ。既存のOniGOのサービスの傾向としては、生鮮品が中心によく売れ、利用回数を重ねるごとに単価が伸びていく傾向にあるという。「注文から30分以内で商品が届くことへの驚き、感動は大きい。利用を習慣化させ、離脱させない工夫が大事だと考えている」(伊藤氏)。ヨークは、まずは1日の利用件数を2ケタ台に、将来的には平均利用単価が 3000~4000円となるサービスをめざす。

配送のイメージ

将来的には
都市型小型店に導入を

 セブン&アイグループのヨークだが、今回の実験はあくまでヨーク独自の試みで、グループの別の企業に広げていく予定はないという。今回の取り組みを軌道に乗れば、現在ヨークが開発を推進している都市型小型店に導入していきたいとの意向を示している。
 
 コロナ禍で食品宅配ニーズが急増し、食品スーパー各社は対応策を急いでいる。自前でサービスを展開する企業もあれば、アマゾン(東京都)や楽天グループ(東京都)などの大手プラットフォームに乗るなど、その手法は各社で分かれている。

 今回のヨークとOniGOの協業策は、食品宅配サービスにおける新しい連携のかたちに挑戦していると言え、その成否に注目したい。