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第38回 アフターコロナで変わる!ショッピングセンターのテナントミックス前編

これまでショッピングセンター(SC)に出店するテナントの代表格はアパレル店舗だった。毎年キラキラした商品が登場し、消費者はコートの色、ブーツの丈、ヒールの高さを気にし、前年に流行ったアイテム(何故か服をこう呼ぶ)を着ていると気後れした感覚を持った。店舗で「それ昨年のものですね」と店員に言われると恥ずかしさを感じたものだった。事業者にとっては良い時代と言えば良い時代であるが、コロナの去った後、この文化は果たしてどうなっていくのだろうか。今号ではこのテーマをSCのテナントミックスとして考えたい。

Maxiphoto/istock

アパレルビジネスが過去、成功してきた
2つのマーケティング戦略

 アパレルビジネスに関しては、本サイト(DCSオンライン)で多くの専門家が解説しているので詳細は譲るが、私がアパレルビジネスがこれまで大きく成長できた要因として最も大きいと感じているのは、「ブランドとトレンド」の2つのマーケティング戦略によって、製造原価を大きく上回る販売価格の設定を可能としたことだと思っている。

 当時は、企業が設定した定価を一般消費者は受け入れていたし、むしろその価格が正当なもの(正価)として捉えていた。しかし、時代が経つに連れて徐々にそうではないことに消費者は気づいていく。

 では、その定価(後のメーカー希望小売価格)は、どれほど原価を上回っていたのか。

 私もこの仕事に携わるまで製造(仕入れ、輸入)原価と販売価格の差を知ることが無かったが、一般的にセールになるとそれまでの販売価格が50%off70%offとなる前提でプロパー価格が設定されていることを考えればおおよそ想像が付く。先週1万円だったものが突然5000円になることに不思議さを感じていたのは私だけでは無いと思う。

 しかし、高度経済成長期以降、国民の成熟度(ここでは高齢化と同義)が低かった時代は、「いまこのブランドが旬」「このアイテムを持っていないのは時代遅れ」など、企業が扇動する、消費者の焦燥感に乗じたマーケティング戦略はそれなりに奏功していた。いや、むしろブランディングとしては優れたマーケティング手法だった。ブランドのロゴマークを胸に付けるだけで同じTシャツが何倍もの値段が付くブランド戦略の強さは計り知れない。

SCへの出店テナント減少は自明

 では、セールビジネスが間違ったものかと言えばあながちそうでも無い。この季節、ECサイトでも「ブラックフライデー」という大型セールが行われるし、欧米ではクリスマス前のホリディと呼ばれるバーゲン期も年間を通して一番盛り上がる文化も健在であり、日本でも「初期低価格戦略」や「目玉商品」の集客方法を年間通して行う。

 人の価格に対する感応度は高く、お客の買い物モチベーションを誘導することによって売上額を増加させるのは洋の東西を問わないようだ。

 アパレル企業も努力してきた。時代の変化と消費者意識、春夏秋冬の季節の移り変わりに即したSSFWの展示会を開き、新しい商品開発とブランドブック、店舗内装イメージ、専門の営業社員の配置など先行投資など当然リスクを負いながらのビジネスだった。

 しかしレナウンのような一世を風靡した企業でも市場から退出する今の時代は、それまでのマーケティング手法が通じなくなった。少子化、人口減少、百貨店の閉鎖が進む中で企業を取り巻く環境は厳しさは増し、今後、賃料負担を伴う店舗ビジネスはアパレルを含め縮小することはあっても拡大することは考えにくい。要するにSCに出店するテナントが減少することは自明なのである。

SCのテナント特性の変化とSC運営のギャップ

 では、SCにおけるテナント構成は今、どうなっているのか。これはテナントの取り扱い品目の推移に現われている。元々、6割がアパレルと言われる百貨店に比べるとSCの取り扱い品目は安価で生活実需の高いものが多かったが2020年の開業SCではアパレル比率は17%となり、その率は年々斬減傾向を示している。

 本連載20号でも指摘した戦後の「衣食住」は今では「食住衣」に変化しているのである。

開業年別SC内テナントの取扱品目構成比

 ところが今もSCの現場では接客ロープレやVMD研修など、物販それもアパレルに寄った運営が続いている。

 最近では、SCが作ったECサイトにテナントの店頭在庫を連動する仕組みも作り始めているが、これはECの売上を何とか店舗の売上に計上することを狙っている。だが、そもそも物販店舗が減少し、在庫連動を行う対象店舗の比率は相当少ない。ましてやSCの店舗は定期借家契約を前提に数年で入れ替わる。その都度、新規店舗と在庫連動の作業を行うには相当のコストと協議と調整と作業の手間が掛かる。今後、在庫を持たず売上の無い店舗(ショールーミング)が増加し、テナントが独自にECサイトを持つ今の時代、SCがそこに拘る意味はどこにあるのだろうか。

  では、今後、SCに出店するテナント、誘致すべきテナントとはどのような特徴を持つことになるのだろうか。次回は、ここを明らかにしていきたい。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒