2030年に14兆円規模の市場になると予想されているシェアリングビジネスにイオンリテール(千葉県)が参入し、好成績を収めている。レディース、メンズ、キッズの冠婚葬祭用のドレスやスーツを店舗、ECサイトからの注文・配送で貸し出す「LULUTI(ルルティ)」だ。2021年には昨年対比で売上250%増(3.5倍)を記録した。好調の理由を同社衣料本部コーディネーター部ルルティマネージャーの小林博人氏、同部の入領友美氏に聞いた。
「リアル店舗」と「試着」がシェア事業の訴求ポイント
ルルティは、埼玉県越谷市の「イオンレイクタウンkaze」にリアル店舗を置き、店舗と専門ECサイトからの注文の両方に対応する。ネットで注文した商品の店頭受け取りや、店舗で注文した商品の全国配送にも対応しており、オン・オフラインの多様なニーズに応える。
ルルティの主な顧客層は10~30代の女性で、全顧客の約80%を占める。その内の80%ほどが、結婚式にや葬儀参列用にドレスを借りているという
イオンリテールは同サービス立ち上げに際して「10~30代のZ世代、ミレニアル世代の顧客を獲得したい」と考えていた。これらの世代は、スマホ検索で買い物をし、「シェアする」という消費行動への抵抗感が少ないためだ。
今では店舗への来店予約が絶えず、週末には東京都八王子市や群馬県、栃木県から2時間かけてお客が来るほどの人気のサービスに成長した。成功の理由は何だったのだろうか。
「多くのお客様が『試着』を希望している。ネットだけではなく、リアル店舗も拠点として持ったことが奏功した」(小林氏)
2018年のルルティ創業に際して、1年間の事前調査を行ったという小林氏は、レンタルの洋服サービスの主流であるEC事業者の多くが、価格競争力以外のコア・コンピテンシー(核となる能力)がなく、半年ごとに値下げを強いられていることを知った。今後、配送費の上昇が予想される中で、ECに頼ったサービスは先行きが不透明だと考えた。ショッピングセンターという開かれた場所で、個人店には出せないポップなイメージの売り場をつくり、「試着という他社にはマネできない要素」(小林氏)を入れることで差別化を図る構想が功を奏したのだ。
事実、売場でも、「手に取って質感やサイズ感を確かめたい」というお客の声をよく聞くという。
「内製化」でコストカット
もう一つ、フォーマルな洋服のレンタルサービスを始めるにあたって、不可欠な要素があった。それは、商品の発送作業、ドレスやスーツ専門のクリーニング業者との連携などを管理する「バックオフィス業務」を「内製化」したことだ(配送業務は外部委託)。
同様のサービスを展開するEC事業者は、バックオフィス業務を外注しており、そのぶんコストが嵩む。対するルルティは内製化に成功。EC事業者にはできない、元々リアル店舗で長年ビジネスをしてきたイオンリテールが培ってきた在庫管理の技術などを活かした。結果、顧客一人あたりの損益分岐点が他社より圧倒的に低くなった。
店舗を駅直結で休日の商圏人口が多いレイクタウンkazeに選んだのも、クリーニング業者や、物流網との関係性を考慮してのことだ。
「バックオフィス業務を内製化したことによるコストメリットは絶大で、3年周期のアパレル業界において、ルルティでも50%の商品を入れ替えられるほどの原資があった。通常の物販のように、レンタル事業は『売って終わり』の商売ではない。4年間、継続的にキャッシュフローを増やしながら事業を運営できたのは、約5000点ある商品の一つ一つを管理できるバックオフィスの体制があったからだ」(小林氏)
店舗への流入の7割が「スマホ検索」から
フロントエンドでも、デジタルとリアルを融合させたタッチポイントを多数つくるOMO(Online Merges With Offline:オンラインとオフラインの融合)を志向した。ターゲット層が10~30代だということもあり、スマホ検索を含めたデジタルからの店舗流入はこの事業に不可欠だと考えていた。
ルルティで、主にWEBマーケティングを担当する入領氏は言う。
「『レンタル ドレス』や『レイクタウン ドレス』といった検索キーワードから、多くのお客様が来店されている。店舗流入のうち、スマホからの検索が約7割を占める」(入領氏)
支払い方法においても、クレジットカードの所持率が低いZ、ミレニアル世代に対して「後払いサービス」を導入した。冠婚葬祭用のドレスやスーツは値が張り、手に届かない。だけど、レンタルなら買うことができる――。「普段着ることできない洋服を着て、いつもと違う自分を楽しむ」というルルティのブランドメッセージが顧客ニーズとぴったりはまったのだ。
Z世代、ミレニアル世代は「モノを持ちたくない?」
2018年のサービス開始から約4年。Z、ミレニアル世代を相手にビジネスをしてきた結果、この世代特有の顧客インサイトを肌で感じるようになった。
「彼らから『モノを持ちたくない』、という意思を強く感じる。例えば、リクルートスーツのサブスクリプションサービスでは、1か月間借りたお客様の、2~3カ月目の継続率は約80%と非常に高い。3か月目以降も利用した場合は最初から商品を購入したほうがトータルの金額は安くなるにもかかわらず、継続するのは『所有すること』を懸念している証左だろう」(小林)
また、ドレスからスーツ、キッズ用洋服とラインナップを広げることで、ミレニアル世代の家族の姿もよく見かけるようになった。それほどまでに、「洋服を借りる」という概念は、若い世代に浸透しているのだ。
リピーター率は20%と、一部の層にとっては生活習慣の一つになりつつあるルルティ。小林氏は、新店舗出店も考えていると言い、「シェア洋服」ビジネスの躍進に自信を見せる。
ミニマリストという単語が流行するなど、財布の紐が固く、必要最小限のモノで暮らしたい人が多い、Z、ミレニアル世代の若者たち。そんな彼らの「ちょっと背伸びがしたい」というニーズにうまく応えたのがルルティなのだ。