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食品小売の物流を激変させる「サプライウェブ」時代が到来へ!待ち受ける天国と地獄とは?

物流大

「既存のサプライチェーンの構造は崩壊し、『サプライウェブ』の時代がやってくる」。こう唱えるのは、サプライチェーン/ロジスティクス分野に深い知見を持つ、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏だ。デジタル化や効率化が進んでいくなか、既存の流通の枠組みはどのように変わっていき、小売業はそれに対してどのように対応すべきなのか。

“戦略”が存在しない食品小売の物流

小野塚征志
●慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て現職。サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なプロジェクト経験を有する。近著に『サプライウェブ』『ロジスティクス4.0』(いずれも日本経済新聞出版)など

 小売業、とくに食品小売の物流について考えたときに、まず課題として挙げられるのが、そこに「戦略」が存在していない点である。そもそも、長年のチェーンストアの歴史の中で、日本の食品小売業は物流にほとんど気を留めていなかった。

 その背景の1つには日本独自の商慣習がある。欧米の流通業界では一般的に、商品の供給を受ける側が物流費を支払うため、小売側は物流コスト削減のために配送システムや配送ルートの効率化などに主体的に取り組んできた歴史がある。そのため、米ウォルマート(Walmart)や英テスコ(Tesco)など、物流に自社で莫大な投資を行い、成果を出している企業が多いのだ。

 一方で日本では、商品代金に物流費が最初から含まれている(=実質的に出荷元が物流費を持つ)ケースが多いため、物流は小売側がコントロールできる範疇ではなかった。小売にとっては「(出荷元に)商品を運んでもらっている」という感覚が強いため、全体の物流費を考慮せず、納品時間を指定するということが普通だった。

 同じ小売業でも、SPA(製造小売)化が進むアパレルや、店舗密度の非常に高いコンビニエンスストア業界などでは、共同配送や小売側が主体となった物流効率化といった取り組みが活発化している。しかし食品小売業界ではサプライチェーンの構造が固定化しており、部分的な省力化や自動化といった取り組みこそ増えつつあるものの、サプライチェーン全体の最適化につながるような革新的な事例は限定的だ。あくまでもたとえ話だが、関東にあるメーカー倉庫から東北の卸拠点を経て関東の店舗に納品するようなレベルの、明らかにムダと思える配送フローが平然と稼働しているのである。

 しかし周知のとおり、物流を取り巻く環境は大きく変化している。コロナ禍でのEC・ネットスーパーへの需要急増、その一方でのトラックドライバーなど物流業務における人手不足の問題、さらにはSDGs(持続可能な開発目標)への対応など、取り組むべき事項は多い。サプライチェーンの川下に位置する小売業にとっても、商品の安定供給を維持するために既存の物流の仕組みを変革することは、経営戦略的にも喫緊の課題といえる。

サプライチェーンから「サプライウェブ」の時代へ

 物流を戦略的に考えるためには、まずは物流の世界が今後どのように変わっていくのかを考察することが重要だ。

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