本日発売の『チェーンストアエイジ』2013年5月15日号の特集のテーマは「カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)」である。
横文字ばかりで一見難しそうに聞こえるかもしれないが、決してそんなことはないのでぜひお読みください(宣伝でした)。
さて、カスタマー・エクスペリエンスとは、まさに顧客の体験を意味している。
特集記事中でも紹介しているが、もっともわかりやすい例はコストコだ。
コストコは、言わずと知れたアメリカ出身の会員制の現金卸売クラブである。
売場面積約1万㎡に品揃えはグンと絞り込んで3500SKUほど。天井高8m、通路幅3mという超ド級の広い店舗を顧客は大型カート(長さ95cm、幅65cm)を押して買いまわる。
年会費(約4000円)を支払い会員登録すると、顧客は、これら商品を現金(一部カード)で購入することができるというシステムだ。
本国アメリカでは、レストランや居酒屋、零細企業の経営者などコストコを原材料や事務用品などの仕入れに利用するビジネス会員がほとんどだが、日本では一般消費者の数が多い。
同社の仕入れ値と売価はほぼ一緒であり、年会費分が利益として計上されるというビジネスモデルなので、価格は安く買得感がある。
値下げ原資を確保できないのにナショナルブランドを低価格で販売している多くの流通企業にとって、そのユニットプライス(単位当たり価格)は驚異のひとつとなっている。
しかし、極論してしまうと、コストコの魅力は低価格だけにあるのではない。
同店を訪れるユニークな客層を見れば一目瞭然だ。
3人で集ってやってくる“ママ友軍団”は、購入後に大きなパックに入った商品を3等分している。夏季休みや年末年始休みならジジババ+パパママ+子供の一家総出でハレの日の食事の用意をする。
日用品を買うにしても、これまで日本では見たこともない非日常品を買うにしても、コストコにはエンターテインメントにも近いワクワクするほどの興奮がある。
それが顧客体験だ。
では、コストコの顧客体験を具体的な言葉で表現するとどうなるか?
私は「日帰りのアメリカ旅行」だと思う。
どぎつい色の大きく四角いケーキ、ビビッドカラーのタオルなどアメリカナイズされた商品とその展示方法。「トイレットペーパー43.16m(ダブル)36個入、2028円」「ディナーロール36個入、523円」「ヨシダソース、1360g、518円」といったサイズの大きさ…。
異文化を目の当たりにすることは、観光地における高揚感のようなものを喚起し、顧客の購買意欲は自ずと高まっていく。
そして、精算が終わったあとには、フードコートでビッグサイズのピザにかぶりつき、クラムチャウダーをすすり、まっ黄色のマスタード、オニオンのすり身を山ほどかけてクォーターホットドックをほうばり、ドリンクバーを楽しむ。
コストコに一歩足を踏み入れた瞬間、そこにはアメリカがある。
それこそが、価格競争には存在しない“顧客体験”という名の差別化軸だ。
しかも、コストコは1億2000万人の人口を数える日本にまだ16店舗しかない。約3億人のアメリカには439店舗存在しており、いまだに成長しているので、まだまだ伸びる潜在性がある。
ただ唯一の難点は、顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス)も飽和し、希少性がなくなり日常(コモディティ)化すると、差別化軸にはならなくなるということだ。