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イオンの入社式で岡田元也社長が話したこと(下)

(昨日の続きです) 

 

 イオンの歴史――。

 これまで日本でやってきたビジネスをアジア全域でも展開していく。実際、イオンは現在、千葉県幕張以外に、中国(北京)、アセアン(クアラルンプル)に本社を持っている。

 このビジネスはまだ緒に就いたばかりなので、100%、みなさんの仕事になるはずだ。

 これからアジア全域のお客様の生活向上に向けての挑戦が始まるのだ。

 

 現在、猛烈なスピードで増えつつあるのが、新しい中産階級だ。

 アジア全域のお客様の生活や消費が猛烈な勢いで変化している。国ごとにその速度は異なり、たとえばマレーシアでは、ずいぶんたくさんの中産階級が現出している。

 そして、まだまだ沢山現れるはずだ。

 これは非常に大きな市場だ。イオンは、この大きなマーケットと対峙していかねばいけない。

 

 こうした新興国では、お客様の権利は、誰も守ってくれないことを知っておいてほしい。

 

 消費者の権利を政治が最初に認めたのは米国第35代大統領のジョン・F・ケネディで、1963年のことだ。日本にしても、小泉純一郎政権の時に初めて認められたくらいであり、多くの国では、いまだ認められていないのが現実だ。

 もちろん、今の日本でも現実には政治が消費者の権利を守っている訳ではない。消費者の立場に立って、消費者を守っていけるのは、「お客様第一」に徹する小売業だけだ。

 

 だから、イオンは各国でそれをしなければいけない。

 一消費者は、組織があるわけでもなく、まったく無力だ。「お客様第一」というのは、小売業がお客様になり代わって、商品やサービスを用意しようということだ。

 

 そして「お客様第一」において最も重要なのは、何よりも正直であるということだ。洋の東西を問わず、これは普遍的なことだ。

 

 たとえ法律がなくとも、「安全」「安全」「美味しい」「楽しい」を担保して提供すべきだ。お客様にお金を払ってもらうわけだから、裏切りがないように、そういった商品やサービスを届けることが非常に重要になる。

 

 そういえば、みなさんの1人に「トップバリュに製造者名が入っていないのは正直ではないのでは?」と聞かれた。

 しかし、そのことはきっぱりと否定したい。

 

 いまやPBは世界中どこの国にもある。しかし、PBをつくって、製造者名のみを印刷して平然としているのは日本だけだ。製造者責任よりも重いのは販売者責任だ。

 

 だから、イオンは販売者のみを記している。連絡先もサイトアドレスも住所も、印刷されているのはイオンのものだけだ。

 

 すべてのお客様の不満、事故…についてはイオンが責任を負う。

 

 実は、「製造者はメーカーです」と責任を丸投げすることの方が正直ではない。不満や事故の時にはメーカーに連絡が行くようにするのは、異常だと気づくべきだ。

 

 トップバリュで起きたどんなことでもすべて他人の力を借りることなく、お客様に満足していただけるまで、対応するのがイオンだ。

 そしてそれが日本以外の世界の常識だ。よく覚えていてほしい。

 我々は何かを隠すために製造者名を書かないわけではない。責任転嫁しないために120%イオンの責任であることを明々白々とさせるためにイオンの名前だけを書いている。

 

 ただし、なかなかこのことは日本では分かってもらえない。今年は、イオンのPB40年だから、もっときちんと広く消費者に対して訴えていきたいところだ。

 

 いずれにしても、正直でない限り、「お客様第一」は務まらない。それを再度確認してほしい。

 

 イオンの250年の歴史は特権階級や金持ちへの奉仕ではなく、常に中産階級への奉仕だった。その250年の経験を活かし、アジアでも十分に近代化した小売業を展開していく。積極的に取り組んでいってほしい。

 

 さて、国内市場も大変な時代を迎えている。

 

 現在、最大の問題として考えているのは、GMS(総合スーパー)改革だ。これは緒に就いたばかりなので、みなさんは、いきなりその改革の渦中の巻き込まれていくと思う。 

 「今のお客様と何がずれているのか?」そんなことを中心に新しいことにチャレンジしてもらいたい。

 

 もうひとつは、競争のボーダーレス化だ。すでに流通業界の競争は同業間で行われているのではなく、他業態が入り混じって競って行く時代になっている。

 たとえば、化粧品業界は、以前なら、資生堂さん、カネボウさん、コーセーさん、花王さんでほぼ決まっていた。ところが最近は、富士フィルムさんや食品メーカー、名も知らぬ町工場、韓国などの新興国からも化粧品が入ってきている。ネット販売もある。

 こうした傾向は化粧品業界だけではなく、全ての分野において起こっている。今の競争はボーダーレスな競争なのである。

 GMSの競合相手はGMSだけではないし、食品スーパー(SM)の競合相手だってSMだけではない。

 今日も誰かが新しいビジネスを秘かに始めているに違いない、ということを肝に銘じておきたい。

 

 最後にイオンは企業市民としての重要性を早くから訴えて実践してきた。

 30年前から環境問題に取り組んできた日本企業はそれほど多くはない。現在は、実に様々な環境保全活動、社会貢献活動を行っている。

 直近では、3月29日にミャンマーへ学校建設の第1ステップを終えてきた。2000年から、アジアの各地で学校建設に取り組んでいるがすでに350校あまりをアジアの人たちに贈っている。

 

 また、植樹活動も「木を植えています。わたしたちはイオンです」ということでずっと行ってきた。

 今年は1000万本突破を迎える。

 

 30年前には、本当に少数派だったが、このように企業の社会的責任や社会貢献活動はイオンではすっかり定着している。そしてさらに、この責任は大きくなっている。

 

 本来の企業活動と社会貢献活動、または、この2つがより一体化して、大きくなっていくはずだ。

 

 そのようなことにもみなさんには積極的に参加していってほしい。

 みなさんには、それぞれの会社の一員として、なくてはならない人になっていただくことに加えて、グループとしてもそうした一員としてなってほしいと切に思う。