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お客の大半は外国人! 京都・烏丸、夜にだけ行列ができる飲食店の謎

京都市中心部の「烏丸」エリアは、金融機関はじめ企業のオフィスが集積するビジネス街。その一角に、行列ができる飲食店がある。京都では決して珍しくないが、よく見ると大半が外国人で、しかも皆、共通の何かを感じる。この不思議な光景の謎を解くため、店で食事をしてみた。

このラーメンを求め、外国人が集まってくる

多い日は30人以上の行列が……

 ビジネス街として知られる、京都中心部の烏丸エリア。その一角に、木造建築も目立つ京都風情漂う小道がある。

 古くは呉服関連の業者の事務所もあったと記憶するが、繊維産業の衰退もあり飲食店が増加、狭い通りに多くの店が並ぶようになった。その様子は、鴨川近くの「先斗町」に似ているところから「裏先斗町」とも呼ばれる。

烏丸エリアの一角にある京都風情が漂う「裏先斗町」と言われる小道

 仕事場が近い私は、よく小道を歩く。毎日ではないが、数日に一度、時間帯は朝、昼、夜と一定ではない。

 その中、少し前から気になっていたのは、夕方6時前後、ある飲食店の前にできる長い行列だ。あまり並ばない日もあるが、多い日は30人以上が待っている。最初は「人気があるんだな」ぐらいに思っていたが、一度、意識のアンテナが立って以降は、毎回、通り過ぎる際、“チラ見”しながら新たな情報を収集していた。

ビジネス街として知られる烏丸エリアの一角にある飲食店は、夜になると外国人の長い行列ができる

 そうして得た情報とは、おおよそ次のようなものだ。①飲食店はラーメン店、②並んでいるのはほぼ外国人、③よく観察すると、皆、肌の色が似ており、身なりにも共通項がある、④長い行列が見られるのは夕方で、昼にはできない──。

 といっても差し迫った事態ではないため、すぐに究明するような行動は取らなかった。そんなある日、「もしや」と、行列についての仮説が頭に浮かぶ。すぐにスマホで検索すると、やはり思った通りだった!

 つまりその店はハラールに対応したラーメン店だったのだ。店名は「鶏そば Ayam-Ya(あやむや)烏丸店」。ハラールラーメンとは、イスラム教徒の「ムスリム」が食べてもよい仕様であることを意味する。つまり原材料に豚を使用せず、スープは鶏ベースである。もちろん具材や麺も。

 店を運営するのは海外でも事業展開している大阪の企業。さらに調べると当初、京都でラーメン店を出したが苦戦したという。一般に和食のイメージがある京都だが、実はラーメン激戦区。何か特徴を出さないと埋もれてしまう。

女性はヒシャブを着用している

 厳しい状態が続いていた時、「スープは鶏肉だけで作っているのですか」というインドネシア人の留学生からの問い合わせがあった。それをヒントにムスリム需要の存在を知り、ハラール対応する方針に変更、現在に至っているようだ。

壁には「ハラール認定証」が

 関心を持った私は「実際に食べてみたい」と思い、Ayam-Ya烏丸店にやってきた。ただ並びたくないため、空いている昼時に足を運んだ。

昼のAyam-Ya烏丸店。なお東京にはFC店の御徒町店がある

 早速、店内へ。入口すぐ左手にある券売機の前に立ち、定番の「醤油 鶏そば」(1080円)と「唐揚げ」(640円)のチケットを購入する。

 案内された席に座り、料理が来るのを待つ。お客は私のほか、カウンターに1名、さらにその奥のテーブル席に数組が座っていた。いずれも外国人である。

 壁には「ハラール認定証」が掲げられている。自主的に豚を使わない努力をするだけでなく、外部機関によって認証されているのは、利用者にとっては安心だろう。

壁には「ハラール認定証」が掲げられている。認証を受けたのは2015年とある

 約5分後、私の前に注文品が置かれた。白っぽい鉢に対し、ややオレンジがかったスープ、緑のネギ、トッピングとして乗せてある赤い糸唐辛子の対比がおもしろく、食欲を刺激する。チャーシューはチキンのようだ。

まずはスープ。意外にあっさりしているが、ニンニクの香りがよいアクセントになっている

 まずはスープ。れんげに少量をとって口へ運ぶ。意外にあっさりしているが、ニンニクの香りがよいアクセントになっている。続けて麺である。表面積が広い平打ち麺なので、スープがからみ、とてもおいしい。続けて、唐揚げも食べたが、こちらもうまかった。

まずはスープ。意外にあっさりしているが、ニンニクの香りがよいアクセントになっている
唐揚げも食べたが、こちらもうまい

 店を出る時、外国人の女性スタッフに質問すると、利用客はインドネシア、シンガポール、マレーシアからの観光客が多いとのことだった。興味深く感じたのは礼拝室を設けている点。向かいの建物の3階にあったが、ムスリムにとっては不可欠な施設のようだ。

 では夜に行列ができる一方、昼は空いているのはなぜだろうか。これについては「明るい時間帯は、京都各地の観光地に出かけているからだと思う」と女性スタッフは教えてくれた。なるほど、これですべての謎が解けた。

ムスリムにとり重要な施設である礼拝室も設けている

 京都でもムスリム需要は年々、拡大する傾向にある。市場を細分化、標的市場を定めた上で、自らの市場ポジションを決める。Ayam-Yaは、そうしたマーケティングの手法をまさに実践しているわけだ。

 標的市場をねらっているとはいえ、基本、鶏白湯ラーメンなので、日本人にとってもおいしい。興味がある人は行ってみるとよいだろう。