Yさん「うちの娘は今年大学に入学して、いま〈g.u.(ジーユー)〉でアルバイトしているの。もちろん、〈ジーユー〉は知っているわよね?」
私「知っていますよ。ファーストリテイリング(山口県/柳井正社長)の〈ユニクロ〉のセカンダリーラインですよね。超低価格とファッション性強化で、すでに年商は500億円を突破。コアブランドのひとつとして完全に定着していますよ」
Yさん「時給は900円くらいで別にそれほど割がいいという感じじゃないんだけど、アルバイトの競争倍率が異様に高いのよね。なかなか採用してもらえないそうよ」
私「どうしてなんですか?」
Yさん「学生の時にアルバイトで採用してもらって、そこで一生懸命頑張って頭角を現して、アピールして、卒業時に正社員に登用してもらおうと考えている人たちが多いからみたい。実際、そういう学生は増えているらしいのよ。要するに就職活動よ。〈ジーユー〉もそうだけど、〈ユニクロ〉の場合はバイトで採用してもらうのがもっと大変らしいわよ」
私「なるほど。昔は、アパレルの販売は、なり手がなくて、人事担当者は泣かされたものだけれども、時代は変わりますね」
Yさん「ファーストリテイリング以外は、相変わらず同じような状況のようよ」
私「そうかもしれません。ダイヤモンド・ビッグアンドリード(東京都/筒井智之社長)が発表した文系・男子の就職人気企業ランキング150位(2011年度版)の中に登場する小売業は、69位にニトリ(北海道/似鳥昭雄社長)、135位に髙島屋(大阪府/鈴木弘治社長)の2社のみで、ファーストリテイリングさえ出てこないですからね」
Yさん「食品スーパー企業の多くは、不景気なのに相変わらず人材難だしね。だから、とくに需給バランスが崩れているわけじゃなくて、柳井さんのようなカリスマ経営者が夢とロマンのある経営戦略を打ち出して、生産性の高さで好業績をキープしていれば、給料も高くなって…。それは入社したいと考える学生も増えるわよね。もうひとつは、相変わらず『寄らば大樹』の学生が多いせいかもね」
私「それでも人材確保にあえぐ流通業界において、ファーストリテイリングのような企業があるというのは励みになりますよね」
Yさん「やっぱり何だかんだと言っても、“月給取り”としては実入りがいいのが一番よ。親の立場からも言えるわ」
私「Yさんの話を聞いていて、ある大学の教授が話してくれたことを思い出しました。自分のゼミの学生がカクヤス(東京都/佐藤順一社長)でバイトしていると聞き、『この企業のビジネスモデルは素晴らしいから、必ず成長する。いまならウチの大学からでも入社できるからバイトを全うして、そのまま就職しろ』とアドバイスしたと言うんですよ」
Yさん「それでどうしたの?」
私「ところがそう指示を出した次の週のバイトの配達中に過失のある交通事故を起こしてクビになっちゃったんだって」
Yさん「あらあら。それは残念な話ねえ。若い子たちにとっては、本当に厳しい世の中よね」