故・筑紫哲也さんに恫喝されたことがある。
といっても学校で開かれた講演会受講者の1人としてだが――。
筑紫さんは講演会終了後に質疑応答のコーナーを設け、指された学生が質問に立った。
学生は「いまの政治は金権で腐敗しているような気がしますが、筑紫さんはどう思いますか?」と聞いた。
それを受けて筑紫さんは、「あなたは、いま『腐敗しているような気がする』と言ったけど、僕は、そんな気がしない。だから議論は成り立たない。この質問への答えはこれでおしまい」と言い切り、学生を席に返してしまった。
筑紫さんは、この時51歳。いまはなき『朝日ジャーナル』誌の編集長であり、「若者たちの神々」「新人類の旗手たち」などの連載でジャーナリストとしても編集者としても脂の乗り切った時期だった。
あえて挑発的な態度と物言いで、学生からの反発を待っていたのだろうが、私を含めた受講者たちは、内心では怒りながらも誰も行動には出なかった。
筑紫さんにしてみれば、自らが「新人類」と命名した私たちに挑戦状を送りつけたつもりだったのだろうが、カラ振りに終わらせてしまった。
いまも当時のことを鮮明に思い出すことがある。
あの時、もう少し勇気があればと後悔するのとともに、学生の質問にキレるふりをしてみせたのは筑紫さんの“親ごころ”だったと理解できる。