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夏休み特別企画 ウォルマートに打ち勝つ経営(4-4)

 当たり前のことだが、相対的に経費率の高い企業は、赤字覚悟などのムリをしない限り、NB(ナショナルブランド)の“安売り”では、経費率の低い企業に勝てない。

 

 相対的に経費率の高い企業は、高い粗利益率、高い粗利益額の商品を販売していかない限り、生存確率はぐんと下がってしまう。

 

 すなわち、右側の事象(低い売上高販売管理費率)にいられない企業であるならば、高い粗利益率、高い粗利益額の商品販売の左上の事象を目指すべきであろう。

 実際に、いくつかのGMS(総合スーパー)企業は、高い経費率を支えるために高額商品の接客販売やサービス販売で、自社の立場を左下事象から左上事象にシフトさせるように注力している。

 

 だが、粗利益をたくさん稼ぐという左上の事象の商売は非常に難しい。

 典型的例としては、ブランドビジネスを想定できるが、一朝一夕でブランドを確立していくことは至難の業だ。

 また、ドミナントエリアに浸透した「小売業のコーポレートブランド力」によって、“王者”の“安売り”に対抗することも考えられるが、消費者は、店舗が同じ位置にあり、同じ商品を購入するのであれば、“安い商品”を求めるので、左上の事象における小売業のコーポレートブランド力はあまり期待できない。

 そして、左上の事象の商売は、過去のビジネスの延長線上にはないものが多い。SPA(製造小売業)やCVS(コンビニエンスストア)、ライフスタイルフォーマットなど、天才肌の経営者が突発的にビジネスモデルを思いつき、事業化に乗り出したものが多いからだ。

 たとえば、売上高販売管理費率28.3%、売上総利益率30.5%(ともに連結)のコメリ(新潟県/捧雄一郎社長)は、その典型だ。捧賢一という天才的な創業者によるホームセンターの小型店舗「ハード&グリーン」という発想がなければ、このビジネスモデルは成り立たなかった。

 

 ニトリホールディングス(北海道/似鳥昭雄社長:経費率38.1%、粗利益率54.8%)やファーストリテイリング(山口県/柳井正社長:経費率35.4%、粗利益率51.7%)、セブン‐イレブン・ジャパン(東京都/井坂隆一社長:経費率54.9%、粗利益率85.7%)なども、天才肌の創業者の突拍子もない発想が事業の起点になっている。

 

 そう考えていくならば、“王者”に打ち勝つ経営とは、低経費率を死守しながら、“王者”が不得手とする分野を攻撃することでA2の事象に身を置く経営と言っていいだろう。

 

 (本稿の初出は『ダイヤモンドホームセンター』誌2007年10月1日号。大幅に加筆・修正した)