もう10年以上前のこと。酒席で「ダイエーの中内功CEOの商魂の源泉は何か?」と後輩に問われ、「消費者を中心に据えた流通革命実現のミッションだよ」などと偉そうに答えたことがあった。
横で聞いていたある先輩は私にだけ聞こえる小さな声で、「千田クンね、商人が商売を大きくしようとする執念はそんなもんじゃないよ」とこそっと言った。
中内さんのことはともあれ、机上論や皮相だけでなく、欲望や妬み、利己心など人間の奥底に流れる目には見えないモノにもっと目を向けなくてはいけない、と諭されたようで大変、恥ずかしい思いをしたことを覚えている。
それ以来、人間の本当の姿とは何であるのかを見誤るまいと気を付けるようになった。
『私の履歴書』などの自叙伝にある人間像はその人のほんの一部に過ぎないし、何度取材を重ねようと、懇意になろうともその人の本質には決して近づけていないことを前提に考えるようにしている。
大体、この年齢になって、自分のことさえ、よくわかっていない。
わかったつもりになることの愚かさを戒め、その人がなぜ、その時、その考えに至り、その行動を取ったのか突き詰めてみたいものである。