日本の小売業は、マーケティング(顧客の維持深耕・創造)にはことのほか無頓着である。
これまでに唯一、成功したのはマスマーケティングだ。
1990年代前半まで、不特定多数に向けて打つTVCMやチラシなどの媒体は有効に機能した。1億総中流の意識を持つ中でそれは当然のことだった。
しかし、そこから2000年代に向けて、消費者ニーズは、10人1色から10人10色に、そして1人10色へとどんどん変化し、小泉政権以降は所得格差も生じるようになり、従来のマスマーケティングは通用しなくなっている。
そこで市場のセグメンテーション(細分化)が必要とされるようになった。
ところが日本の小売業のセグメンテーションの手法は、年齢軸によるものが主流でいまだに続けている。
その結果なにが起こっているかといえば、「30代ニューファミリー」神話だ。
現在の日本人の平均年齢は約45歳だというのに、小売業がターゲットにするのはいつも「30代のニューファミリー」というものだ。常識的に考えれば、そこに大きな塊としてのお客はいない。
セグメンテーションの切り口には年齢のほか、家族構成、性別、所得、職業、教育水準、宗教、人種、世代、国籍、社会階層などがある。そのほかにも、ライフスタイルやパーソナリティといった切り口もある。
最近面白いと思ったのは、「時間帯別」という切り口だ。
ある企業のショッパーズ調査によれば、20時~22時に食品スーパーに来店する客の特徴は総菜売場に立ち寄る習性があることだという。その比率は実に80%。店中央部分の回遊は低くなり、飲料売場へ行く傾向も見られる。極端に導線が短く、コンビニエンスストアのような購買行動になっている――。
そんな切り口を踏まえて、売場をつくってみることはとても価値のあることだろう。
そして、マーケティング上で重要なのはセグメンテーションだけではない。
「パソコン」「アイフォン」が生活の中心となる今後は、「私」「I」「me」「only one」をキーワードにするインディビジュアル(個)マーケティングが重視されるようになるはずだ。
にもかかわらず、そんなことは、自社には関係ないとばかり、従来からのマスマーケティングの手法に盲信する小売業が何と多いことか。
多くの日本の小売業が同質競争から抜け出せない理由の一端は、マーケティング欠乏症にある。