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京都ですき焼きをリーズナブルに楽しむ、地元民が教える隠れた名店

京都で食事といえば、和食を想像する人が多いだろう。せっかく古都に来たのだからと、本格的な京料理を堪能したいという気持ちはわかる。しかし地元民としては、実は名店が多い「すき焼き」を選択肢のひとつに入れてほしいと思う。

京都駅からタクシーで約10分

 京都市中心部の寺町エリア。飲食店や土産物店、雑貨店などが立ち並び、観光スポットとしても知られる。仕事や修学旅行で京都を訪れた人なら、一度は歩いたことがあるだろう。

 四条通と寺町通の交差点、「寺町京極商店街」の入口に立つ。アーケードが続くこの先に、今回、オススメしたいすき焼き店がある。

京都市中心部にある「寺町京極商店街」。この先に今回、オススメしたい店がある

 京都ですき焼きというと意外に思われるかもしれない。しかし実は、日本で本格的に牛肉が食べられるようになったと言われる明治の初期から営業する名店もあり、古くから市民に親しまれている。

 交差点から約1分。左手に見えてきたのが創業昭和3年の「キムラすき焼店(すき焼キムラ)」。

昭和3年創業の「キムラすき焼店(すき焼キムラ)」

 どうです、風格ある外観。ここ寺町の地に100年近くも店を構え、京都の町を眺め続けてきたと考えるだけで気分が高揚してくる。

 今回、この店を選んだのには2つの理由がある。第1はアクセスがよいこと。「京都」駅からだと、混んでいなければタクシーで10分強、地下鉄と阪急電鉄を乗り継げば20分強なので、気軽に行ける。

 第2にリーズナブルである点。1人前3000円台で、本格的なすき焼きが味わえるというのは素晴らしい。夜になると大幅に値段が上がる店も多い中、昼と夜で同一価格というのはポイントが高い。

 さっそく入店、玄関で靴を脱いで2階へ。営業開始したばかりの12時だったからすぐ座席に案内されると考えていたが、実際には少し待ち時間があった。椅子に座りながら周囲を見ると、週末なのでいつもより多くの人が来ていた。しばらくしてようやく奥の部屋に通される。

入店し、テーブルに着席

 これが私が座ったテーブル。簡素だが必要十分である。壁にはメニューが掲げてあり、「ロース一人前三千三百円」「普通一人前三千百円」とある。迷わずロースを注文。ちなみに牛肉は国産黒毛和牛である。もちろんビールも頼んだ。

完全セルフでも心配は無用

 7~8分して目の前に届けられたのがこのセット。牛肉の上には牛脂、砂糖。向こう側には長ネギ、玉ねぎ、さらに奥には豆腐、糸こんにゃく、麩などが盛られた皿が見える。今から食べると考えると、気分が盛り上がる。

キムラすき焼店は完全セルフサービス。鍋に具材を入れ、味付けまでをすべて自分でやるシステムとなっている。自由度が高く、私は好きだ

 京都のすき焼き店と言えば、スタッフが鍋に具材を入れ、味付けまでしてくれるところも少なくない。しかし、ここキムラすき焼店はすべて自分でやる必要がある。つまり完全セルフサービスなのだ。低価格を実現できる理由のひとつはここにあるが、自由度が高いため私はこのスタイルが気に入っている。

説明書「すき焼の炊き方レシピ」があるので、この通りにつくればおいしくできあがる

 すき焼きをつくった経験がないという人もいるだろうが、心配は無用である。なぜなら説明書がすき焼きセットとともに運ばれてくるからだ。説明書「すき焼の炊き方レシピ」は、たくさんの写真を使い、料理の手順を丁寧に解説してくれている。読みながら進めればまったく問題はない。

 私も早速始める。

 最初は「①火をつけて(強火)牛脂を全体に広げます」とある。牛肉の上にあった牛脂を、割りばしでつかんで温めた鍋に乗せ、くるくると円を描く。次は「②タマネギ、ネギ、糸こんにゃく、豆腐から炊きはじめます」。ふむふむ、簡単じゃないか。

まず牛脂を鍋に入れ、くるくると円を描く
タマネギ、ネギ、糸こんにゃく、豆腐などを入れる

 途中から解説を読まず、適当に具材を放り込んだ。牛肉を野菜の上に乗せて砂糖、しばらくして“だし”を投入した。

 ここで気づいたが、火の通りがよい麩と三つ葉は、完成が近づいたところで入れるみたい。慌てて、鍋から取り出し退避させる。ほかにも「肉を糸こんにゃくの隣にすると、肉が硬くなります」という重要情報もあるので、やはり説明書はしっかりと読み込んだ方がよいのかも。まぁ、そんなに神経質にならなくてもおいしくできるとは思うが。

 そして完成──。さっそく牛肉からいただいく。溶き卵につけ、口に頬張る。そしてビールをごくりと飲んだ。最高である。その後、野菜→牛肉、そして麩、糸こんにゃく→牛肉、と食材の順番に変化をつけながら楽しんだ。

完成、まずは牛肉から
あらかじめ溶いていた卵につけ頬張る

 夢中で食べた。ご飯も注文していたので満腹である。私は視線を遠くにやったまま放心状態となり、しばらく動けなかった。どれぐらいの時間が経過しただろうか。ようやく正気に戻った私はお勘定を済ませ、店外に出た。

 時計を見るとまだ13時過ぎである。昼からビールを飲んでしまったという背徳感が、密かな喜びを増幅させる。あぁ、これを幸せと言わずして、何を幸せと言おうかと思いながら、私は再び歩き出した。