インターネットが、まだSFの世界の出来事だった当時、私の生活は『ぴあ』誌を抜きにしては語れなかった。及川正通さんの表紙のイラストが何よりも目を引く雑誌で、独特の臭い、欄外の「はみ出しぴあ」もヒマに任せて貪り読んだものだ。
学生時代はデートスケジュールの設計に随分活用した。『ぴあmap』や『グルメぴあ』を一体、何冊買っただろう。若者の“健全な遊び場”探しの情報ソースとしての役割は大きく、社会人になってからも、パーティや接待会場探しなどの目的でページを繰った。
『ぴあ』誌は、1972年の創刊。「ぴあ」は、社長の矢内廣さんが中央大学在学中に起こした会社で、ベンチャービジネスのパイオニアとしても存在感を見せていた。
それだけに、今回のセブン&アイ・ホールディングス(東京都/村田紀敏社長)との業務・資本提携と傘下入りの発表は、寂寥の感がある。“尖った企業”の代名詞的な存在であった「ぴあ」も時代の流れに抗うことができなかったのだから。
とくに、インターネットでの情報収集が当たり前になったいま、『ぴあ』誌事業は、今後も明るさを見いだすことは難しいだろう。
それでも、チケット販売最大手の「ぴあ」には大きな強みがある。700万人の会員を組織し、2万6000社の主催者/興行主と取引があり、イベントコンテンツは常時2万公演を抱えているからだ。
セブン&アイ・ホールディングスの村田社長は、この強みを「チケット創造力」と評した。競争力のあるオリジナル商品を開発できるノウハウは、どんな世界でも通用する。「ぴあ」は、今後さらに、「地産地消的な小規模のイベント」の開発とチケット創造にも乗り出すという。
矢内社長は記者会見の席上で「感動のライフラインの実現は1社ではできない」と提携の理由を語っていたが、この言葉が負け惜しみに聞こえなくなるくらい、1兆1600億円と目される「ライブ・エンタメ市場」での今後の活躍に期待する。