[東京 7日 ロイター] – 経済活動を重視する菅義偉政権が再発令する今回の緊急事態宣言は、対象地域・期間とも限定的だが、医療の専門家からは、期待通りの効果が出るか疑問の声が出ている。経済への影響を試算するエコノミストらも期間や地域が拡大する可能性を見越しており、1─3月期の経済成長率が想定より大きく落ち込むのはもちろん、4─6月期も低迷し、景気回復は「L字型」の軌道をたどるとの見方もある。
2021年1─3月期の実質国内総生産(GDP)成長率(前期比年率)はもともと、個人消費や製造業の回復の鈍化などを背景に、20年10─12月期に比べて弱くなる見通しだった。日本経済研究センターが民間エコノミストを対象に実施している「ESPフォーキャスト調査」の最新調査(回答期間:12月3─10日)のコンセンサスでも10─12月期の3.44%から、1─3月期は1.31%に低下する見込みが示されていた。
これに緊急事態宣言の再発令が下押し要因として加わることになる。住友生命・運用企画部の武藤弘明エコノミストは前回のサービス消費の落ち込み具合を踏まえ、緊急事態宣言が1都3県で1カ月間実施された場合、GDP成長率は前期比年率で2.4%ポイント程度下がると推計。「1─3月期はマイナス成長になる公算が大きい」とみる。
今回の宣言は対象地域が東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県に限られ、期間も1カ月。営業時間の短縮要請も飲食店が中心となる。7都府県から全国に拡大し、期間も2カ月弱に及んだ前回に比べれば、経済への影響は限定的との見方がエコノミストの間では少なくない。
ただ、新型コロナの国内感染者数は足元で急増している。厚生労働省によると、1月5日には全国で4885人、6日には5946人の感染が新たに確認され、連日最多を更新した。このうち最も深刻な東京都は、6日の新規感染者が1591人と過去最多となった。
仮に緊急事態宣言の期間が長引き、対象地域が全国に拡大する展開となれば、経済成長率は1─3月期の落ち込みにとどまらず、4─6月期にも影響が出てくる恐れがある。経済の回復は前回の緊急事態宣言解除後のようにV字型とはならず、「L字型に近い軌道になる可能性がある」と、住友生命の武藤氏は言う。
BNPパリバの河野龍太郎チーフエコノミストは、限定的な宣言のまま解除された場合の個人消費への影響をマイナス1.1ポイント(1─3月)、対象が全国に広がり、期間も2カ月程度に延びた場合をマイナス4.2ポイントと試算する。
京都大学の西浦博教授は、前回の緊急事態宣言と同レベルの対策をしたとしても、都の感染者が落ち着くのは2月末になると予測する。政府は最も深刻なステージ4から3に移行することが宣言解除の条件の1つとの見解を示しているが、政府分科会の尾身茂会長は5日夜の会見で「宣言そのものが感染を下火にする保証はない。1カ月未満でそこ(ステージ3)までいくことは至難の業だと思う」と指摘した。
消費者マインドも注視
緊急事態宣言の長期化に伴う消費者マインドや労働市場への影響も注視する必要がある。日興アセットマネジメントの神山直樹チーフ・ストラテジストは、先行き不安感に伴う生活必需品の買いだめが一巡すれば、緊急性のないレジャー、観光、贅沢品などへの出費が絞られてくると指摘。それが家計の貯蓄率を上昇させ、GDP上昇の抑制要因になり得ると話す。
日銀が12月に発表した最新の資金循環統計では、昨年9月末時点で家計が保有する金融資産残高は前年比2.7%増加の1901兆円となり、過去最高を更新。これも新型コロナへの懸念が残る中、「現金・預金」が大きく積み上がったことが背景とみられている。
日興AMの神山氏は、消費者マインドの悪化がさらに幅広い悪影響をもたらし、経済成長率を悪化させる恐れもあるという。「例えば地域のお寿司屋さんとか、サービス業の中でも家族経営の業態でやっているところがある。そういう人たちが耐えきれずに廃業し、店舗の営業などに関わっていた人たちの雇用が失われるというようなリスクは念頭に置いておくべきだ」と話す。
帝国データバンクによると、コロナの感染が広がった2020年の飲食店倒産件数は、過去最多の780件だった。4月から5月にかけて政府の緊急事態宣言が出るなどし、営業自粛や営業時間の短縮を迫られた。外出自粛も呼びかけられ、客数の落ち込む店が多かった。