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アングル:コロナで変わる職場ライフ、感染予防で企業に難題

2メートル弱の作業空間を確保したコンセプトオフィス
新型コロナウイルス感染の世界的流行で閉鎖されたオフィスの再開を控え、企業トップらは従業員の健康を守るため、職場スペースの抜本的な刷新を検討している。写真は2メートル弱の作業空間を確保したコンセプトオフィス(2020年 Cushman & Wakefield提供)

[ミラノ/ロンドン 7日 ロイター] – アクリル樹脂越しの会話からクリエ-ティブな発想は生まれるだろうか。冷水器エリアでの井戸端会議は遺物と化すのだろうか。

新型コロナウイルス感染の世界的流行で閉鎖されたオフィスの再開を控え、企業トップらは従業員の健康を守るため、職場スペースの抜本的な刷新を検討している。

手指消毒液や体温測定器の設置など序の口だ。机が列をなすレイアウトは過去のものとなり、くしゃみの飛沫を遮断する保護ガラスもお目見えするかもしれない。

イタリアのタイヤ大手ピレリの人事責任者、ダビデ・サーラ氏は、同国各地で従業員数千人が職場復帰するのに備え、同社の中国事業で既に採用されたオフィス慣行を導入しようとしている。体温測定、マスク着用、机と机の距離確保などだ。

「中国モデルを他の場所でも採用するつもりだ。従業員同士の空間を広げ、部屋にいる人数を減らし、オフィスのレイアウトを変更しなければならない」

サーラ氏は、職場フロアへの出入りに階段を使うよう従業員に指示すべきか思案中だ。エレベーターを使うなら1人ずつとすること、ランチのシフト制導入、在宅勤務の一部継続、時差勤務、机のレイアウト変更など、検討事項は多い。

「真の過去との決別は、オフィスの設計変更によってもたらされるだろう」

中国は諸外国に先駆けて経済活動を再開しており、ピレリは既に同国で「ロックダウン後」の実験を始めた多くの多国籍企業の1つだ。

こうした企業が採用した戦略を見る限り、世界中の政府がオフィス再開を認めても、人口密度の高いビルにオフィスワーカーがひしめいて午前9時から午後5時まで働くという、典型的な光景が戻ることはなさそうだ。

昼食持参

世界最大の広告代理店、WPPのマーク・リード最高経営責任者(CEO)はロイターに対し、従業員は段階的かつ自発的に職場に戻ることになると言う。

「確信を持って言えるのは、将来は在宅勤務の人が増えるということだ。そしてわが社としてはオフィスも残す」

WPPの全世界の従業員10万7000人は大半が3月中旬から在宅勤務に入った。ただ中国では3月以降、事務所50カ所で徐々に総勢約7000人が出勤を再開している。そこでは勤務時間を柔軟化し、エレベーターの利用人数を制限し、社員食堂でのビュッフェを廃止して昼食を持参させるようにした。

英人材企業ページ・グループの中国事業責任者によると、同社は中国の各事務所で、従業員が体温測定を受けてマスクを受け取るために並ぶ入り口を指定した。また昼食持参を奨励し、大人数の会議は最小限にとどめるようにしている。こうした措置は、同社の他の地域のオフィスへの従業員約7500人の復帰を監督する経営チームにとって、まさに青写真になるだろうという。

害虫駆除の英レントキル・イニシャルは4月、中国の主要拠点7カ所を再開したが、広報担当者によると従業員の職場滞在時間は1日4―5時間程度。机と机の間に1席分の空きができるよう、配置換えを行った。

各自の作業空間を確保

国際的な不動産会社クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドは顧客企業に対し、最低6フィート(2メートル弱)の対人距離を確保する職場設計を、目に見える形で示している。

同社の新型コロナ対策チームのビル・ナイトリー氏は「カーペットを色分けするとか、もっと素朴で低コストの仕様では、6フィートの距離を保つ一人一人の作業空間がどんなものかをテープ張りで示すなど、基本的なものだ。これで見た目に非常に分かりやすくなる」と話した。

同社は状況に応じ、追加的な保護措置として、くしゃみや咳の飛沫を避けるアクリル樹脂などの設置を提案することもある。

しかし、開かれたフロアで会話を交わすのに慣れた会社員にとって、こうした職場環境になり在宅勤務も拡大すれば、アイデアを交換する機会が減り、企業文化が弱まる可能性もある。新入社員が企業に溶け込むのも、以前より難しくなるだろう。

マッキンゼーのパートナー、ハウケ・エンゲル氏は「注意しなければならないのは、ひょんなことから生まれる発想や井戸端会議が失われることだ」と言う。

現在の状態が永続しない可能性もあるため、本格的な新しい設備の投資には消極的な企業もある。

一方で、一部の企業はビル設計を抜本的に見直す準備を進めている。英設計事務所スコット・ブラウンリッグのダレン・コンバーCEOによると、抜本的見直しとは、会議室のレイアウト柔軟化、個人スペースの拡大、空気を清浄化してウイルスや病原菌を殺せる換気システムの導入などだ。エレベーターの空間を大きくし、階段を快適にしてその利用を促進し、ウイルスを殺すはずの塗料やフィルム、資材を活用することなども考えられる。

「まだマスクを着用する必要があるなら、つまり問題に対処していないということだ」とコンバー氏は将来像を語る。

ピレリのサーラ氏は、こうした構造的な変革も視野に入れている。同氏は、職場を徐々に再開するのに4カ月をかけた後、建築士やコンサルタントの助言を得て、オフィスの設計変更を考える第2フェーズに入ると予想する。

サーラ氏にとって、工場設備を一新する方が簡単な仕事だった。「オフィスの設計をやり直すことこそが、本当の試練だ」