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落語家・立川志ら乃のスーパーマーケット徒然草 第9回 志ら乃軍団、「ビオセボン」に参上!

人生何があるかわからない。新進気鋭の落語家として活躍する志ら乃師匠だが、いろいろあって声優、俳優、プロレスラーなど、落語家ではない人々に落語を教え、落語会まで開くことも多いという。もちろん、スーパー打ち上げにも参加してもらうのが鉄則。今回は代々木八幡という東京屈指の高級エリアで敢行したスーパー打ち上げのお話…。

プロレスラーに「おい!ワテを弟子にしろや!」と凄まれて…

 「人生成り行き」とは私の師である故・立川談志がよく口にしていた言葉。

  確かに人生何があるかわからないもので、現在私は落語家ではない人たちに落語の稽古をつけ、一緒に落語会を行うという機会が増えています。なぜそんなことになったのか? 最初はイベントプロデューサーなどからの依頼で始めたのですが、特に落語に興味があるわけでもなく、ただのコンテンツの1つとして「落語が使える」という思惑で開催される類のものに嫌気がさし、「落語に興味のない人からの依頼は受けない!」という決断を下したのです。

  しかし、「やっぱり落語会は落語家同士で開くもの」と心に決めてから割とすぐのこと。当時は「華名(かな)」、現在はアメリカのプロレス団体「WWE」の女子レスラーとして大活躍中の明日華(あすか)選手が、「後楽園ホールでのプロレス興行を落語とコラボして開催したい」と、私の落語会へやって来ました。「またか」と思いましたが、会ってすぐに「この人は今までの人と違う!」と、とても気分よくその依頼を受けたことをよく覚えています。

  そして、私と華名選手がそのプロレスイベントの記者会見を行うことになったのですが、その場で突然

  「おい!師匠!ワテのことを弟子にしろや!」

  と弟子入り志願。いろいろあって”客分”の弟子としてとることになりました。

  さらにそれから数カ月後、とあるトークイベントで声優の関智一さんと初めてお会いした時、上記のプロレス興行の話しをしたら、

  「僕も弟子になりたい!」と。

 その時はリップサービスだろうと思ってましたが、その日家に帰り関さんのツイッターをみたらプロフィール欄に

  「立川志ら乃二番弟子!」とありびっくり。「あの人本気だったんだ…」と。

  そんなこんなで、「落語に興味のない人とは落語会をやらない!」と固く決意したにもかかわらず、それからわずか数年の間に何と100人以上の「落語家ではない方々」と落語会を開くことになったのでした。

 まさに、人生成り行き――。そして現在一緒に落語会を行うばかりではなく、運営スタッフとしても動いてくれる人たちが現れるようになりました。現在5人ですが、今回は女優やナレーターとして活躍する「我妻(あづま)麻衣」「児玉美樹」の2人に登場してもらいます。

渋られながらも代々木八幡のハナマサへ

 2人が所属するのはアクロスエンタテインメントという山寺宏一さんや金田朋子さんも所属する芸能事務所。場所は渋谷区富ヶ谷にあり、最寄り駅は小田急線の代々木八幡駅か千代田線の代々木公園駅。私の家からだと徒歩20分という立地です。現在週1回のペースで事務所の会議室をお借りして稽古会を開いてます。稽古後スーパー打ち上げを行うこともあり、よく行くのが代々木八幡駅前の「マルマンストア代々木八幡店」。

 しかしとある時、ふと「富ヶ谷の交差点のハナマサは行くの?」と2人に聞くと、

  「この近くのハナマサがあるんですか?」と。

  「おい!自分の所属する事務所近辺のスーパーを知らないでどうするんだ!今日はハナマサに行くぞ!」と、謎なテンションな私に対し、

  「…じゃあ場所の確認ということで…」

  と、あまり乗り気じゃない返事。

 しかし現地に着いた途端、

  「あれ?ハナマサってお肉の店じゃないんですか?こんなに果物とかも置いてあるんですか?」

 「師匠!私このバナナ買っていいですか?」

 「魚もあるんだ!」

 「家が近かったら、このバラ肉買ってるな~」

  など、場所の確認のために来た人たちとは思えない発言と行動。

オーガニックが過ぎるぜ!富ヶ谷のビオセボンへ突入

うっかり高級オーガニックスーパーのビオセボンへ行くことに(写真は別店舗)

 気分よく店を出て、じゃあ今日はこれでお開き…と思ったのですが、つい、

 「ついでに『ビオセボン』も行っとく?」と口に出していました。

  そう。富ヶ谷の交差点の傍らに立つ高層マンションの1階に「オーガニックが過ぎる」でおなじみのビオセボンがあるのです。「オーガニックが過ぎる」というのはもちろん私一個人としての印象なのですが、所得や意識の高い消費者を対象としているスーパーであるのは、そう間違えじゃないと思ってます。

  そんなことを2人に説明しながら店内へ。

 体感として、オーケーやライフなどと比べて2~3倍と思しき値段に対し、

  「うわっ、高っ!」と、思わず口にしてしまう面々。

 そんな中、3割引きのシールが貼られているデカフェインスタントコーヒーを手にした私。

  「100グラムで1800円…3割引きだから1300円くらいか。それでも高いな…」

  と、子供をあやしてんじゃないんだから、そんなに高い高い言わなくてもいいだろと思いながら瓶の裏側を見ると「株式会社おもちゃ箱」という表記が。ずいぶん変な名前の会社だなと思い、目の前にいた我妻麻衣に向かって、

  「株式会社おもちゃ箱だって」と話掛けると、

  「…あれ?その会社、私の知り合いが勤めています」と。

 後日調べてもらったら、その方はすでに他の関連会社に移っていたようですが、「おもちゃ箱に勤めていた」のは間違いありませんでした。

  そんな偶然があったならもう買うしかないだろと、人生で初めてデカフェのインスタントコーヒーを買うことに。そしてそれがまさか、後日参戦した「スーパーマーケット・トレードショー」での顛末につながるとはまだこの時知る由もありませんでした。

  こういう”出来事”が欲しくてスーパー打ち上げをやっているんだということを思い出し、同行の2人にも「何か買いなさい!(支払いは私)」と指令を出しました。

 

1切れ約450円のバナナタルトを3つ買わされる

これが件のバナナタルト。3つも買わされた

 するとスイーツコーナーの前で児玉美樹が、

  「私、パティシエの経験があるんですけど…」

  と、知り合ってから1年半の間、なぜそれをもっと早く言わないんだ!という情報を口にしながら、

  「このバナナタルト買ってもいいですか?」

  どうも”噺”の構成がうまくない児玉美樹。

  「パティシエやったことがあると、バナナタルトが欲しくなるのか?」

  と聞くと、

  「いえ、これくらいなら作れそうだなって」

  おいおい!ビオセボンで売ってる商品を簡単に「作れそうだな」って言っちゃう感じ!嫌いじゃないよ!

  「よし!じゃあこれのコピーを今度作って来な」

 「わかりました!…でも、ちゃんとコピーできているかがわかるように、ビオセボンのタルトを食べておかないと…」

 「…わかったよ!3つ買えばいいんだろ!」

  と、1ピース450円くらいのバナナタルトを3つ購入。

 現在、「私の落語を一生懸命コピーしなさい。そしてスーパーで売っているスイーツのコピーもしなさい」と児玉美樹には指示を出しております。

  「人生成り行き」という偶然を楽しみながら、今日も私はスーパーに通うのでした。

 

立川志ら乃

1974年2月24日生まれ。98年3月、立川志らくへ入門。2012年12月に真打ち昇進。16年7月に「スーパーマーケットが好きである」ことを突如自覚。スーパーに関する創作落語に「グロサリー部門」「大豆なおしらせ」など。

Twitter:@tatekawashirano

ブログ:https://ameblo.jp/st-blog/