襷(たすき)をつなぎ、チームで長距離を走る駅伝競走。毎年、正月に開催される「箱根駅伝」、秋の「全日本大学駅伝」などが有名だが、この競技の発祥地は京都であることを知っている人はどれほどいるだろうか。今回は、現地を訪ね、周辺の見どころを紹介した後、老舗食堂で食事をするという話だ。

待ち合わせにも使われる「高山彦九郎」像
毎年、正月になるとテレビ中継されるのが「箱根駅伝」である。往路、復路とも起伏の激しいコースが多く、優勝校はもちろん、熱い走りを見せた選手への注目度も高い大会だ。また「全日本大学駅伝」「出雲駅伝」も有名で、これらは大学三大駅伝といわれる。
駅伝は日本生まれで、海外でも「EKIDEN」の表記が使われることもある。フランスでは「パリ駅伝」「ストラスブール駅伝」、またベルギーやオーストラリアで各種大会が開催されている。柔道と同様、日本発の競技が世界で行われているのは喜ばしいことだ。
世界中で激闘が繰り広げられている駅伝だが、その発祥地は京都であるのをご存知だろうか。場所は「三条大橋」の東詰北側で、それを示すのが「駅伝発祥の地」という石碑。「日本初の駅伝は1917年(大正6年)、京都三条大橋から東京上野不忍池までを23区間にわけて開催された」と記されている。京都で開かれる「全国高校駅伝」のスタート地点でもある。
それにしても100年以上前、京都から東京までの508kmを駆け抜けたと想像するだけで、当時の人々の熱意と、途方もない挑戦に胸が熱くなる。駅伝の歴史を紹介したついでに、近くにある観光スポットにも触れておく。
鴨川には連日、多くの人が集まっており、とくにカップルが川べりに同じぐらいの距離を空けて座る現象が見られる。「鴨川等間隔の法則」ともいわれ、京都の名物となっている。
三条大橋の東側には、江戸時代後期の武士、尊皇思想家である高山彦九郎の像が置かれている。北西の方向に向かって頭を下げているのが特徴だ。像の横にある解説文には「十八歳の時以来、前後五回、上洛したが、京都に出入りする折には、この銅像の姿のように、京都御所に向かって拝礼した」と書かれている。インパクトの強いこの像は、待ち合わせの場所になることも多い。いかに地元で親しまれているかをうかがい知ることができるだろう。
あちこち紹介したところで今回の行き先を発表する。それは「篠田屋」である。今、見た高山彦九郎像は三条通の南側に置かれているが、その斜め向かいにある。私が足を運んだのは午前11時50分で、すでに複数の人が並んでいた。
列の最後に並び、順番が回ってくるのを待つことにする。意外に待ち時間も短そうで、入店への期待感が膨らんだ。
和風要素を取り入れた看板メニュー「皿盛」
「お次の方どうぞ」と声をかけられ中へ。運良く店内を見渡せる窓際の席を確保できた。お品書きをちらと確認したが、すでに注文するのは決まっている。この店の看板メニューのひとつ「皿盛(さらもり)」、そしてビール。なお、もうひとつの看板メニューは「中華そば」で、このツートップをセットで頼む人も少なくない。
料理が来るまで周囲を観察すると、利用客が多様だということが分かった。地元の常連客も多い一方、ランチ利用の会社員、また近年はネットの普及により京都以外からのお客も見られる。私の左隣に座った年配夫婦も旅行客だった。
あらためてこの「篠田屋」について説明すると、創業明治37年(1904年)の食堂だ。冒頭に触れた日本初の駅伝が開かれたのが1917年で、発祥地との距離は100mほどなので、選手はじめ関係者が利用した可能性も十分考えられるのである。
そうこうしている間に、私の目の前に届けられたのがこれ。
どうです、おいしそうでしょう。ごはんの上にこんがり揚がったトンカツ、そこに黄金色ながら半透明の“あんかけ”風カレーがかかっている。店の説明書きには、「カレーうどんのルー」とあり、だしを効かせて和の要素を取り入れているようだ。オリジナルメニューで、「皿盛」という名前も風情があっていい。
早速いただく。スプーンを手にまずはカツにカレーのルーを少しつけ、食べる。薄く、カリッとした食感がたまらない。ビールがいくらでも飲める感じの味わいである。なおカレーは見た目よりもスパイシーである。
続いて、ごはん、カツ、ルーを一気にすくって口へ。お〜!これはおいしい。再びビールを飲んだ後、次々と食べ進め、そしてフィニッシュした。
飲食店がおいしい料理を提供するのは重要だが、さらに「オリジナル」があると強いと改めて感じた。他の店にはない味を工夫することで、固定客の獲得、他店との差別化に強い武器となるためだ。入口を見ると、依然として行列ができている。身支度を整え、私は満足な気持ちで店を出た。