[東京 14日 ロイター] – 7―9月の国内総生産(GDP)は辛うじて4四半期連続のプラス成長を確保したが、消費増税前でも潜在成長率を下回り、足取りはひ弱だ。増税や災害により10―12月はマイナス成長に陥る見通しで、来年も五輪後の特需剥落などで通年で低成長が予想されている。
政府の経済財政諮問会議では、災害からの復旧や防災など建設国債の対象となるインフラ投資だけでなく、持続的成長に必要な消費活性化や人材投資などに大規模な財政資金を投入するため、赤字国債活用の声も浮上している。
<増税前でも潜在成長率に届かず>
消費増税を前に駆け込み需要が期待された7―9月GDPは年率0.2%成長と、1%弱とされる潜在成長率を大きく下回る結果となった。
政府が需要平準化対策に力を入れたこともあり、消費増税前後の山と谷は前回より小幅となっているとはいえ「潜在成長率を下回ったという意味で、景気は消費増税を待たずに停滞していたことが確認された」(伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミスト)との声がある。
10―12月期について、調査機関のエコノミスト35人による「フォーキャスト調査」では年率マイナス2.6%程度の落ち込みが予想されている。SMBC日興証券は「消費増税に伴う駆け込みの反動に加えて、貿易摩擦の深刻化が寄与する世界経済の失速を映じてマイナス成長へ転落する」(丸山義正チーフエコノミスト)との見方を示している。もっとも、来年前半は五輪に向けてプラス成長に復帰する見通しで、10―12月期のマイナスも景気の腰折れを示すものとは受け止められていない。
<来年の予測はわずか0.4%成長>
フォーキャスト調査では、五輪後の特需剥落を含めると、20年度全体ではわずか0.4%の低成長が予測されている。
ある政策当局者は、クレジットカードの請求が来る年明けに、使い過ぎたと感じる消費者が消費を控えることを懸念。また、増税対策として実施されているキャッシュレス決済に対するポイント還元は、20年6月末に終了する。さらに、五輪特需が終わった後の対策を促す声もある。
今月7日の経済財政諮問会議の議論では、需要減退により再びデフレに逆戻りするのではないか、との声も強まった。
安倍晋三首相は、7日の諮問会議で「3年間で7兆円のプランとなっている国土強靭化をパワーアップしていく」と述べ、台風被害なども踏まえた新たな経済対策を近く発表する予定だ。7兆円のうち、今年度終わりまでにうち7割程度の5兆円が実施される見込みだ。
政府は19年度補正予算と20年度予算を合わせて、15カ月予算を編成する。諮問会議では、来年6月以降もキャッシュレス決済を支援して消費活性化を図るほか、来年の五輪後の経済落ち込みも勘案し、スタンスの長い事業を今から次々手を打っていかなければいけないといった意見も出ている。
こうしたことから、民間エコノミストも停滞する景気は経済対策により、ある程度相殺されるとみている。
<成長投資も大規模に 赤字国債活用で>
景気対策として公共工事の拡大論ばかりが進めば、民需主導の成長を促す施策がおろそかになるとの懸念もある。
諮問会議では、財政支出の拡大に慎重な財務省の立場を代表して麻生太郎財務相が「公共工事でいくには人の絶対量が不足している」と述べ、民需主導の持続的成長を促す施策を考えるべきとした。
民間議員からも、公共事業だけでなく人材投資など成長力強化につながる無形資産にも財政資金を大規模に投入すべきとの意見が相次いだ。
竹森俊平・慶応義塾大学教授は建設国債は認められるが、それ以外のものに特例(赤字)国債がなかなか認められないという問題を提起。
「人材への投資促進は有形資産への投資ではなく、人間の頭脳の中に宿る無形資産への投資であって、国内産業の開発力、技術力を高めるのに一番大事なこと。それなのに、ここに向けて公共投資をすることが難しくなる」と指摘した。同様に柳川範之・東京大学大学院教授も、景気対策を打つなら人材投資など無形資産も対象に「税制や金融政策も総動員して、一気に押し上げていくということがやはり必要なのではないか」と述べ、大規模な対策を求めている。
新浪剛史・サントリーホールディング代表取締役社長も経済成長を第一に考えてのプランを作るべきであり、「ワイズ・スペンディングでありかつ乗数効果の高いところであれば、赤字国債も考えてもいいぐらいのプランを作っていく必要がある」と述べている。
すでに19年度予算では増税対策として2兆円の臨時・特別措置が計上されたが、これは一部20年度予算にも適用される。公共工事一辺倒の議論が諮問会議でやり玉に挙げられたことを踏まえると、五輪後に向けた新たな需要対策や、成長投資としての無形資産を対象とした「公共事業」も含め、20年度も財政支出は膨らみそうだ。