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オイシックス代表取締役社長 髙島宏平
お客さまの期待値を超える商品・サービスを提供し、ナチュラル&オーガニック市場をさらに拡大する!

インターネットを通じて食品の販売を手掛けるオイシックス(東京都)は3月13日、東証マザーズに新規株式上場する。2000年の創業から順調に売上を伸ばし、12年3月期(単体)の売上高は126億円まで拡大。髙島社長にインターネットで食品を販売する勘所や今後の注力ポイントについて聞いた。

聞き手=下田健司 構成=小木田 泰弘(ともにチェーンストアエイジ)


打てる手を着実に実行して新市場を創出

オイシックス代表取締役社長 髙島宏平(たかしま・こうへい)
1973年、神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了後、マッキンゼー東京支社に入社。2000年5月の退社までEコマースグループのコアメンバーの1人として活動。00年6月にオイシックスを設立し代表取締役社長に就任。開発途上国の飢餓と先進国の肥満や生活習慣病の解消に同時に取り組むNPO法人「TABLE FOR TWO International」理事、東日本大震災によって被害を受けた東日本食品関連産業の長期的支援を目的とした一般社団法人「東の食の会」代表理事を務める。

──3月13日に東証マザーズに新規株式上場します。創業からこれまでを振り返って、株式上場をどのようにとらえていますか。

 

髙島 株式上場を強く意識してこれまでやってきたわけではありませんが、結果的に上場までかなりの時間がかかってしまったというのが正直なところです。株式上場はシンボリックな出来事ではありますが、ある意味でやっと食品流通業としてのスタートラインに立つことができたと考えています。

 

──時間がかかってしまったとはどういうことでしょうか?

 

髙島 単純にわれわれの力不足という面はあります。

 

 当社がやってきたのは、これまでになかった新しいマーケットをつくる仕事です。インターネットで食品を販売することに特化した企業としては、おそらくわれわれがパイオニアだと思います。

 

 2000年の創業当時は、主婦が食品をインターネットで購入するということが考えられなかった時代です。若い男性の一部が「Amazon」で書籍を購入し始めたというタイミングですから、お客さまのほとんどはインターネットで食品を購入するのは当社が初めてという状況でした。

 

 有機野菜や減農薬野菜といった商品についても、従来からの根強いファンではなく、今までそのような野菜を食べたことのない人たちにご購入いただくという意味で、われわれがそのマーケットを切り拓いてきたと自負しています。

 

 すでに誰かが創り出した市場を奪ったのではなくて、新しいマーケットをつくってきたのです。この新市場をつくるということに関して、思った以上に時間がかかってしまいました。

 

──それでも創業から順調に売上を拡大してきました。食品をインターネットで販売することについて、いつごろ成功すると確信したのですか?

 

髙島 われわれが「うまくいくぞ」と確信したのは創業後の早い段階です。それは1回ご購入いただいたお客さまが2回、3回と繰り返し当社をご利用くださったからです。事業開始直後、1日の注文はたった2件しかありませんでしたが、お客さまが徐々にリピーターになってくれたことでわれわれの事業は成功すると確信しました。「成功物語」的なものはなく、一つひとつ打てる手を着実に実行してきたことがここまで成長することができたポイントだと思います。

 

──具体的にどのような手を打ったのですか?

 

髙島 当時のインターネットの世界では、私たちがいくら「安全です」と言っても信じてもらえませんでしたから、いかに客観的にわれわれの価値をお客さまに伝えていくのかが重要でした。

 

 00年の創業後すぐのタイミングで、食材の安全性を学識経験者と主婦が監査する第三者機関「食質監査委員会」を設置し、その様子をウェブサイトで発信していくようにしましたし、ウェブサイト上にお客さまからの商品に対する感想を掲載するなど、客観性を高めて信用を獲得することに取り組みました。そういったことが奏功して徐々に当社のサービスをご利用いただけるようになりました。

 

──女性向けの雑誌やウェブサイトでもオイシックスの商品を紹介しています。

 

髙島 はい。当時は女性向け雑誌など各種メディアがインターネット戦略に取り組み始めていましたが、掲載するコンテンツは多くありませんでした。そこでわれわれが持っているレシピをメディアのウェブサイトに提供し、その代わりにお客さまを当社に誘導してもらえるようにしたのです。そのような営業を地道に続けて認知を広げていきました。

 

流通業は十分にマーケティングできていない

──オイシックスが切り拓いてきた「ナチュラル&オーガニック」食品の市場はだんだんと広がってきていますが、既存の食品スーパー(SM)では取り扱いはあるものの、あまりうまくいっていないのが現状です。

 

インターネットで食品の販売を手掛けるオイシックスは3月13日、東証マザーズへ新規株式上場する
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髙島 そうですね。

 

 ナチュラル&オーガニックのマーケット自体はすごく成長しています。ただし、市場自体はまだまだ小さい。食品全体に占めるオーガニック食品の割合は米国が4%である一方、日本は0.2%ほどです。

 

 米国ではSMチェーンのホールフーズマーケットがオーガニックの市場をつくりだしました。その後、トレーダージョーズやウォルマートが追随してマーケットが大きくなっていったという経緯があります。

 

 それまでは、日本の場合もそうですが、既成の価値観に縛られない思想を持った人たちがオーガニック食品の市場を担っていました。ホールフーズマーケットは、従来からの生産者支援のスタイルから、マーケティング発想のスタイルに変えて新たな市場をつくり出したのです。

 

 そういった意味では、日本のオーガニック市場がまだ大きく広がっていないのは、市場のニーズが足りないからではなく、われわれ流通業が十分にマーケティングできていないことが大きいと思います。お客さまに「通常の野菜とオーガニック野菜のどちらがいいですか?」と聞けば、大多数の人が「オーガニック」と答えるはずです。しかし、「近くで売っていない」「宅配には『セット』商品しかない」「値段が高い」など、興味はあるものの買えない理由がたくさんあるのです。これはわれわれ流通業次第で解決できる問題なのです。

 

 食品のEコマース(電子商取引)とナチュラル&オーガニックの食品マーケットは、当社の売上高の数十倍、つまり数千億円のオポチュニティ(成長機会)があります。それをしっかりとつくるのがこれからのわれわれのミッションだと考えています。

 

──ナチュラル&オーガニック食品はインターネット販売と親和性があると考えていますか?

 

髙島 どのようにマーケットをつくってきたのかを振り返ると、われわれは「インターネットの力」を上手に使ってきたということが大きいと思います。インターネットを利用すれば、お客さまによいものの理由を説明して販売することができます。つまり、なぜこの商品がいいのかをお客さまの左脳(思考・論理)にお伝えし、販売していくという方法です。

 

 これに対して米国のホールフーズマーケットは、ビジュアル・マーチャンダイジング(VMD)をはじめとした右脳(知覚・感性)へのアプローチでオーガニック食品のよさをお客さまに伝えたのです。

 

 インターネット販売とリアル店舗では、バリュー(価値)の伝わり方が少し異なると思います。リアル店舗では売れないものを当社が多く販売できるのは、左脳に対して説明していることが大きいと思います。

 

 ただ築地市場やスペインのサン・ジョゼップ(ボケリア)市場を見ると、「何かいいよね」という右脳へのアプローチが多いように思いますので、われわれは、そのような方法も身に付けたいと考えています。

 

加工度を高めた生鮮食品を増やす

──今回の株式上場によって、今よりも多くの生活者がオイシックスを知ることになるでしょう。今後、注力する分野はどこになりますか。

 

髙島 いくつか考えています。

 

 まず1つめですが、昨年、神奈川県海老名市にある物流センターを刷新しました。そこには農産物や畜産物を加工できる機能が備わっていますから、カット済みの野菜や半調理した生鮮食品をラインアップに加えていきます。

 

 当社がメーンターゲットにしているのは、料理ができて、やる気もあるお客さまですが、それ以外の「料理を簡単につくりたい」「でも冷凍食品やお総菜はイヤ」「料理が簡単・便利にできるオーガニック食品があったらいいのに」と考えるお客さま向けに、もう少し簡単にご自宅で料理ができるようなサービス・商品を増やしていきたいと考えています。

 

 そして2つめはリアル店舗の展開強化になります。

 

 実は当社は、東京都渋谷区の恵比寿三越内と、世田谷区の二子玉川ライズ・ショッピングセンター内にリアル店舗を計2店舗展開しているほか、最近では東急ストア(東京都/須田清社長)さんの店舗内に5平方メートル前後の「Oisix専用コーナー」を設けたりしています。

 

──リアル店舗はインターネットとの相乗効果も見込める。

 

オイシックスは東急ストアの店舗内に「Oisix専用コーナー」を設けている。写真は東急ストア駒沢

 とくに東急ストアさんの「Oisix専用コーナー」の売上は好調に推移しており、13年2月の2店舗に加えて、3月以降も毎月1~2店舗ずつコーナーを増やしていく方針です。通常はあまり売れない有機野菜やこだわり野菜であっても「オイシックス」というブランドで括ると売れるようになります。SMにとってはそれまであまり売れなかった高付加価値商品の売上が見込め、われわれとしてはお客さまとの接点を増やせるというメリットがあります。

 

髙島 そうです。

 

 リアル店舗のお客さまには、すでに当社のことを知っている若い主婦層がおり、「店舗ができてうれしい」という声を多くいただきます。一方でオイシックスのことを知らなかったシニア層のお客さまもいます。シニア層の中にはリアル店舗で当社の商品のファンになり、ヘビーリピーターになる方も多くいます。そう考えると、リアル店舗はインターネットとシナジーがあると言っていい。インターネットではリーチできていなかったお客さまに当社のファンになってもらえるのですからとても有益だと考えています。

 

──そもそも、リアル店舗のねらいは、お客との接点を増やす点にあったのですか?

 

髙島 リアル店舗はプロモーションだけではなく事業としても考えています。

 

 オープン当初は売上が伸びず、廃棄や値引きロスが多くてとても苦労しました。「素人が店舗事業に手を出すと痛い目を見る」と思いましたが、商品力があるので徐々に売上が伸び、今では繰り返し利用してくださるお客さまが増え、ようやく軌道に乗ってきました。ですから今後2~3年内に本格的に事業化できると思います。

 

──新たなマーケティング施策として、どのようなことを考えていますか。

 

髙島 今後、新しいアライアンス(業務提携)によるマーケティング施策が増えていくと思います。

 

 たとえば最近では、東京都渋谷区にある代官山蔦屋書店さんのマルシェ(朝市)に出店しました。するとスマートフォンを通じてその場で当社の会員になる方をたくさん目にしました。スマートフォンの普及でリアル店舗のイベントを通じたマーケティングの効果が高まっています。ですから全国の小売業さんなどと連携してお客さまとの接点をさらに増やしていきたいと考えています。

 

ネットスーパーとは上手に共存できる

──さて、現在の小売業界は「O2O(オンライン・トゥ・オフライン/オフライン・トゥ・オンライン)」をはじめとした「ネットとリアルの融合」が1つの大きなテーマになっています。食品分野ではネットスーパーが右肩上がりの成長を続けていますが、どのように見ていますか。

 

髙島 「ネットとリアル」はそもそも分断されているのではなく、生活者から見れば両方を使うことが当たり前だと考えています。「Amazon」でも買うけれど本屋さんにも行く。それが普通の生活者だと思います。生活者から見れば最初から融合していて、ただ単に企業が別々だったということではないでしょうか。

 

 われわれの事業は「生活者はネットとリアルの両方を使うよね」というところからスタートしています。ネットもリアルも両方あって、それぞれが連動していると「便利だよね」と考えてサービス内容を進化させてきました。

 

 ネットスーパーをはじめ食品をインターネットで販売する企業はたくさんありますが、お客さまはコモディティ品とプレミアム品の購入先を使い分けているように思います。こだわり商品の多い当社とコモディティの扱いを主力とするネットスーパーは「食い合う」というよりは、むしろ上手に共存できると考えています。食品をインターネットから購入する生活者が増えること自体は当社にとってすごくよいことです。

 

 私たちがライバルと考えているのは「お客さま」です。「いかにお客さまの期待値を超えることができるか」ということに常にチャレンジしていますので、ネットスーパーをライバル視することはありません。むしろ、いいところはどんどん参考にさせていただこうというスタンスです。

 

 インターネットで食品を購入することが、5年後、10年後、どのぐらいまで増えるのか。私は将来的なマーケットは非常に大きいと考えています。当社をまだご利用されてない、あるいはインターネットを使っていない、あるいはヘルシーフードを食べていないお客さまにどうリーチしていくのかがわれわれの大きなテーマです。