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アスクル代表取締役社長兼CEO 岩田彰一郎
消費者向けネット通販に本格進出、アマゾンとは違う切り口で対抗する!

オフィス用品通販最大手のアスクル(東京都/岩田彰一郎社長兼CEO〈最高経営責任者〉)が2012年10月、ポータルサイト大手のヤフー(東京都/宮坂学社長)と組んで、日用品など生活消費財を販売するネット通販サイト「LOHACO」(ロハコ)を立ち上げた。競争が激化する消費者向けネット通販市場。アスクルはなぜこの市場に参入し、どのような戦略で成長をめざすのか。岩田社長に聞いた。

聞き手=千田直哉 構成=下田健司(ともにチェーンストアエイジ)


コモディティ市場でどう利益を出すか

アスクル代表取締役社長兼CEO 岩田彰一郎(いわた・しょういちろう) 1950年(昭和25年)生まれ。73年慶應義塾大学商学部卒業後、ライオン油脂入社。86年プラス入社。92年同社アスクル事業推進室室長。97年アスクル代表取締役社長就任。2000年代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)就任。06年資生堂社外取締役就任。

──12年10月、ヤフーと組んで、ネット通販サイトのロハコをスタートされました。

 

岩田 1日1回のPDCA(仮説・実行・検証・改善)サイクルを回していますが、その都度新しい発見や学びがあります。オフィス用品通販の「アスクル」では、カタログを基点としたサービスのため、100%ネットでモノを売るという経験はありません。しかも、カタログは年に2回の発行ですから、6ヵ月に1回のPDCAです。どんなときにお客さまが反応して、どんな見せ方をすれば買っていただけるのか、そんなことが、PDCAを回す中で見えてくるのです。

 

──具体的にはどんな発見があるのですか。

 

岩田 テクノロジーのすごいところなのですが、画像や説明文を複数パターン用意し、利用者の反応を調べる「A/Bテスト」では、お客さまの反応を見て、合理的、科学的に判断できます。これはカタログではできません。

 

 また、リアル店舗では、お客さまは売場を回遊しながら商品を購入されます。同じことがネットの中でも起こっています。それも、ネットの“海”のどこからお客さまがやって来るのか、ネット全体の中で今、どういうキーワードで商品を探しているのか、といったことが見えてくるのです。これがウェブの面白さです。ロハコのサイトからほかのサイトに行くケースも当然あります。そういうダイナミックな世界での競争なのです。

 

──日用品のように、品質や機能に大差がなくなり、コモディティ化した商品は儲からないと言われています。

 

岩田 われわれは、すでに洗剤や飲料などをかなり扱っていて、大量に購入されるお客さまがいらっしゃることが強みです。

 

 コモディティはレッドオーシャン(競争の激しい市場)で儲からないと言われます。しかし、アスクルのオフィス用品通販も当初は、「中小事業所では購入量が少なく、配送費ばかりかかって儲からない」と言われました。

 

 コモディティは、1品1品は薄利ですから、どのようにして利益を出せるようにするかがポイントです。実は、われわれはB2B(企業間取引)で、コピー用紙を日本でいちばん売っています。コピー用紙を中小事業所に販売しても採算が合う仕組みを構築し、重かったり、かさばったりする商品をお客さまに届けて成長してきました。飲料や洗剤など、単価が安くて儲からないと言われている商品を届けるのは、もともと得意な会社なのです。

 

──既存の機能をそのまま生かせるということですね。

 

岩田 ロハコのメーンターゲットは、「働くお母さん」です。働くお母さんは凄まじく忙しい日常生活を送っています。たとえば、朝早く起きて子どものお弁当を用意して、保育園に連れていってから会社で働き、残業したあと、保育園に迎えに行って、帰りに買物をして帰る。それで、週末にやっと休める──。朝通勤時にスマートフォンで注文したらその日の夕方、あるいは週末に届いている、そんなふうに、働くお母さんを応援したいと思っています。価格や機能がわかっている馴染みのある商品や、重かったり、かさばったりする商品をお届けするという意味から、ロハコは「かるい生活」をコンセプトにしています。

 

 ロハコという名称は、「Lots of Happy Communities」の頭文字からとりました。東京に1人で住んでいても、地方にいる親御さんのためにネット通販で商品を買ってあげることもできます。家族や地域、もっと大きく言えば日本や地球の中に、たくさんのハッピーが生まれるようなインフラをつくりたい、そんな想いを込めています。

ローコストの物流プラットフォームを構築へ

──ロハコは初年度売上高180億円という高い目標を掲げています。

 

岩田 確かに高いハードルです。ただ、アスクルは売上2億円くらいのときから、何千億円という市場で仕事をするんだと考えていました。日本の小売市場の中で、B2C(企業対消費者取引)市場は135兆円といわれています。ロハコは、5年後には2500億円の売上を目標にしていますが、その巨大な市場にチャレンジしているということを社内にも対外的にも伝えるために、高い目標を掲げました。

 

 

 ヤフーは、月間利用者数が5000万人、「Yahoo!ウォレット」登録者2300万人で、日本最大のネットのハブです。その利用者にいい商品を紹介して、たくさんのお客さまにロハコを使っていただきたいという思いがあります。ですから、逆に低い目標はつくれません。ただ、商売はそんなに簡単なものではないですから、ヤフー流に言うと「爆速」で、試行錯誤して日々学びながら組織として成長していきたいと考えています。

 

 アスクルもそうなのですが、ロハコは独占や覇権を志向するのではなくて、プラットフォームをオープンにしていこうと考えています。「Yahoo!ショッピング」の出店者にプラットフォームに乗ってもらい、一緒に買えて、ロハコの商品と一緒に受け取ることができるようにするフルフィルメント(注文から発送までの業務)の提供も検討しています。その核となる店舗がロハコということになります。

 

──今期387億円を投じて物流を整備される計画を発表されています。事業の要は物流になりますか。

 

岩田 われわれは、ECR(効率的消費者対応)を基本においています。メーカーの工場からお客さまの玄関先までのプロセス全体を効率化するという考え方です。

 

 そこでは、商品をいかにローコストで運べるかが勝負です。ヤフーとの業務・資本提携によって、物流投資を積極的に推し進め、よりローコストの物流プラットフォームをつくる。そうすると、コモディティを運んでも利益を出せるようになる。先に物流センターをつくるのが大事だと思っています。

 

 既存の6カ所の物流センターは、柔軟な対応をするため賃貸物件でした。現在、B2Bで約2000億円の物量があります。さらなるコスト競争力をつけるためには、所有したほうがいいという判断から、国内の東西2カ所に基幹となる物流センターを所有する計画です。そのあと、地方を埋めていくのは、引き続き賃貸ベースを考えています。投資の大半は基幹の2カ所の物流センターに充てる計画です。

 

顧客の使用シーンに合わせた商品を開発

──既存のB2B事業をベースに立ち上げてきた新規事業も広がりを見せています。

 

岩田 われわれの企業理念は、「お客さまのために進化する」ということです。新しい事業はすべてお客さまの声から生まれてきました。おもに大企業向けのオフィス用品の企業一括購買の「アスクルアリーナ」、間接材の一括購買の「ソロエル」などがあります。ソロエルは今、非常に好調で、購買を「見える化」してどう効率化するかについて、利用企業でベストプラクティスやノウハウの共有化も始まっています。アスクルアリーナは、あらゆる間接材が買えるようなサービスとして「ソロエルアリーナ」に切り替えているところです。大企業においては購買革命が進行しています。それを今、アスクルはお手伝いしています。

 

 企業では文房具などの間接材は部署ごとに購入しています。これをシステム化することで「見える化」したのが「ソロエルエンタープライズ」です。「電子篩(ふるい)」と呼んでいますが、篩にかけることによって購買額も抑制されます。何を買っているかがオープンになるだけでも効果がありますが、値段を比べてみると、いちばん安く買っていると思っていても、意外とそうでもないことがあるのです。

 

 

──プライベートブランド(PB)を積極的に開発されています。

 

岩田 今、強い商品をつくろうということで、PB開発を始めています。「現場のチカラ」という名称ですが、この春には一気に増やす予定です。

 

 メーカーとの開発商品も増やしています。伊藤園さんとは「会議のための緑茶」を開発しました。350ml/66円で、非常に売れています。

 

 UCCさんとはコーヒーを初めて開発しました。コンセプトは「接客にぴったりのブレンドコーヒー」ということで、飲みやすくて、おいしいものをつくってもらいました。飲料のPB化も切り口を明確にしてやっていくと、買っていただけるようになります。われわれにとって新しいチャレンジです。

 

 かつてのヒット商品に、トイレの消臭剤があります。高級飲食店のトイレに派手なパッケージの消臭剤が置いてあるより、店の雰囲気にマッチするお洒落なデザインをスウェーデンのデザイナーとともに開発し、パッケージから派手な「消臭剤」という文字もなくしました。

 

 お客さまの使用シーンに合わせて、メーカーと一緒になって商品を開発する。店頭を通じて売る場合は、消費者が求めているものと、店頭で売れるものが違ったりすることがあります。それが通販になると、お客さまが求めるものをそのままつくることができるのです。

 

ネットで勝てる術を学ばないと生き残れない

──消費者向けネット通販では、「Amazon.co.jp(アマゾン)」の存在感が増しています。

 

岩田 アスクルは、オフィス用品から始まりました。そのオフィス用品は間接材市場の中でまだほんの一部だということがわかってきました。

 

 間接材は、物販15兆円、サービス17兆円の30兆円強の市場です。オフィス用品は1兆円強ですから、ごくわずかしか占めていません。われわれが強みをもつ市場ですが、アマゾンがここも取り込んでしまうのではないかという危機感もあります。今われわれが持っているインフラを生かせば、日本の135兆円の消費市場においても、ネット通販でチャンスがあるだろうということで乗り出したのです。

 

 ネット通販で、15兆円の間接財市場チャンピオンになっていても、135兆円の消費市場のチャンピオンには負ける。強迫観念かもしれませんが、タイミングは今だと感じたのです。物流インフラを持つわれわれは、B2Bよりも135兆円の小売市場を対象にしていったほうが効率的なのではないかと考えています。

 

 仮想ライバルはアマゾンというモンスターですから、負けるのではないかという怖さもあります。ただ、ここが世界の流通を握ってしまうということでいいのか。そうなると、つまらないですよね。そもそも流通業では、1つの業態ですべての需要を満たすことはできません。だから、違う切り口で対抗できるようなインフラをつくっていきたいという思いもあります。

 

──アマゾンに対するロハコの強みは何ですか。

 

岩田 ロハコは働くお母さんにとって、使いやすかったり、親しみやすかったりというように、お客さまとの距離を近していこうと考えています。かたちだけアマゾンを追いかけても、敵うわけがありません。お客さまに近い、お客さまと一緒に考えるサービスにしていきたいと思っています。

 

 それと、B2B事業を持っていることが、われわれの強みです。ロハコを立ち上げるに際して、そのプラットフォームを使うことができます。たとえば、B2Bでは注文が平日の午前中に集中しますが、B2Cになると、夜間あるいは土日の注文が多くなりますので、われわれの持っている資産をフル活用できるのです。

 

──アスクルは中国の上海に拠点がありますが、アジア市場についてはどのように考えていますか。

 

岩田 次の次に来る競争といいますか……。アジアの巨大な市場をどう取り込んでいくかというと、やはり規模と調達力が非常に重要だと思います。アマゾンに市場を取られてしまわないように、規模を拡大しておかないと、太刀打ちもできなくなってしまうでしょう。

 

 そういう意味で、日本を含めたアジアの流通において、世界の覇者であるアマゾンが勝つのか、あるいはアジアですでに巨大な規模をもつメーカーが勝つのか、そこはわかりませんが、いずれにしても巨大な市場で調達力をつけておかないと、その次の戦いに勝てるかどうかわかりません。アジアは非常に重要な市場であるという認識はしています。

 

──長期的には、アジアが主戦場になるということですね。

 

岩田 どう勝ち残っていくか、あるいは生き残っていくかということです。今、世の中が激変しています。われわれの主力はカタログ通販ですが、ネットが拡大していく時代に、ここで勝てる術を学ばないと生き残っていけません。一定量以上の物流の規模ももたなければいけないし、効率的な物流の仕組みも必要になります。アジア、ひいては世界の需要を取り込むためにも、その次も見据えておく必要があるのです。