1次産業や2次産業出身者を採用
──「皿の上だけで考えない」という持論が大変印象的でした。そもそも「川上」に遡っていった理由は何ですか。
米山 最初から第1次産業を活性化しようと考えていたわけではありませんでした。もともとは仕入原価の高い地鶏を“感動価格”で提供したら喜ぶお客さまがいらしたということが始まりです。でも、それではビジネスとしては赤字になってしまいます。そこで“感動価格”を維持したまま、企業努力によって商売として成立させるにはどうするかを考え、その方法を探しました。魚の場合も同じで常にこの順番でビジネスを進めています。
当社は早い段階で1次産業や2次産業出身者を採用しました。だから、飲食業の常識だけで考えるのではなく、食品産業全般のノウハウを当社のビジネスモデルに生かすことができました。これが競合他社との大きな違いになったと思います。
生産者や地方の行政がビジネスパートナーになると、第1次産業の厳しい実態が見えてきました。従事者の高齢化が進み、安く買いたたかれて疲弊しているのです。当社の生販直結の取り組みが従事者の生活に貢献できるということに途中で気づかされました。
──現在、小売業界では「利は元にあり」と「川上」に遡ろうとする企業が増えています。
米山 当然、当社も価格優位性については考えています。しかし、ただ単に価格優位性を追求すると「安売り」だけになってしまいます。
農業や食品関連産業の国内生産額は96兆円と言われています。そのうち、農業・漁業生産額は11兆円です。生鮮食品や加工食品の原料をつくる生産者は安く買いたたかれ、消費者は高く買わされていると言えます。そこに焦点をあてて企業努力をすることが、お客さまに響くのだと考えています。
国内には最大400店が出店可能
──APカンパニーのビジネスモデルは生産が拡大すればするほど販路の開拓が欠かせません。
米山 当社と組んで生産地を活性化したいとたくさんのオファーをいただくようになりました。ただし、販売先があってはじめて産地との提携が成り立ちますので、外食や中食、卸売業や小売業など、販売チャネルを開拓しているところです。将来的には収益性の高い外食を中心として、大量消費が期待できる小売業とミックスした事業ができればと考えています。
卸売業や小売業との事業に莫大な収益を求めているわけではありません。在庫を抱えるリスクを回避できるのであれば、それだけで当社にとって十分なメリットがあります。
当社には16の外食業態があります。この10年、マーケットやターゲットに合わせた実験をしてきました。今は、地鶏は「塚田牧場」に、魚は「四十八漁場」に集約しているところです。業態をつくり上げたときがゴールではありません。これらの業態をブラッシュアップし続けて進化させることが課題です。
──中長期の経営計画はどうなっていますか?
米山 地鶏の店舗は、国内に最大400店が出店可能と考えています。400店体制では、地鶏の年間必要生産数は約120万羽になります。そうなると既存の生産地での生産量の拡大と、新たな生産地の開拓が必要です。ほかにも、豚肉をメーンに取り扱う店舗を出店していけば、おそらく300億から400億円の事業になるはずです。一方、魚については未知数で目標数字は立てられません。卸売業や小売業など、販売チャネルの開拓が長期的な課題です。
──海外への出店も進めるのですか。
米山 そうです。まずはシンガポールへの出店を計画しています。今のところ日本から鶏肉を輸出できませんから、海外での自社養鶏場の開設も視野に入れています。今のうちから少しずつ出店していき、日本で400店体制が整う5年後以降に海外へ集中出店したいと考えています。