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加藤産業代表取締役社長 加藤和弥
特定商社の色が強くなれば、デメリットのほうが大きい

三菱商事(東京都/小林健社長)系4社の経営統合協議入りで、業界再編が加速するという見方が広がる中、総合商社系卸と並んでその動向に注目が集まるのが、独立系大手の加藤産業(兵庫県)である。複数の総合商社から出資を受け入れ、各社と等距離の関係を築いている同社だが、この路線に今後変化はあるのか。加藤和弥社長に話を聞いた。

聞き手/千田直哉(チェーンストアエイジ)


営業と連動し物流を改善、筋肉質の企業体質に

加藤産業代表取締役社長 かとう・かずや。1969年(昭和44年)7月10日生まれ。94年3月一橋大学大学院経済研究科修士課程修了、加藤産業入社。95年11月社長室長、同年12月取締役社長室長。96年取締役物流部長。97年取締役ロジスティクス担当兼営業企画部長。99年常務取締役ロジスティクス担当兼営業担当補佐。2000年常務取締役システム本部長兼営業本部長補佐。01年専務取締役管理本部長兼システム本部長兼関連事業本部長。03年代表取締役社長(現任)。

──消費は今夏の猛暑でやや上向きましたが、先行きの見通しはよくありません。現在の経営環境についてどう見ていますか。

 

加藤 2008年9月のリーマンショックから2年が経ちました。当初、われわれの取引先である食品スーパー(SM)を中心とした小売業には直接的な影響はありませんでした。しかし、半年ほど経過した09年春くらいから徐々に変化が出始め、以来、取引先の売上は低迷しています。

 

 確かに今夏は少し持ち直したものの、この1年を振り返れば、売上という面ではおおむね厳しい状況でした。われわれ卸売業の売上は取引先の業績と密接に連動しています。当社は減収にはなっていませんが、今期(10年9月期)は、第3四半期まで対前期比1%前後の微増で推移しています。

 

──小売業の売上が伸び悩む中、卸売業として重要なことは何でしょうか。

 

加藤 卸売業はメーカーがつくった商品を預かり、小売業へ提供するというかたちで商売をさせてもらっています。われわれの売上が伸び悩む、または減少するということは、メーカーや小売業の売上も同じ状況にあるということです。食品卸売業の使命としては、基本的には売上を伸ばしていく必要があるだろうと考えています。しかし、最近は景気動向が不透明であり、がんばって売上をつくろうとしても現実的ではない一面がありました。

 

 ただ、どのようなときでも取り組むべき課題はあります。最も大きいのは経費削減で、それによりムダのない、筋肉質の企業をめざす必要があります。前下半期(09年4~9月)からとくに効果も表われてきています。

 

──コスト削減の対象になるのは何ですか。

 

加藤 食品卸売業の効率化できる余地が大きいのは物流費です。20年ほど前までは自前で物流を手がけていましたが、アウトソーシング化を進めてきました。ただ、外部に委託しているせいで、その中身を把握することができていませんでした。また、物流だけで完結させるコスト削減には限界があることもわかってきました。物流改革は以前から継続的に行ってきていて、とくに4年ほど前からは配送車両の削減など具体的な数値目標を設定し、営業と連動させるかたちで合理化を進めています。

 

 たとえば以前、業界の風潮として店舗への毎日配送が当たり前の時期がありましたが、現場の意見を聞くと、配送回数を減らしても支障がない場合が少なくないことがわかりました。そこで、取引先の協力を得ながら配送回数を減らしていきました。配送コースを変えるだけで、輸送効率が上がったケースもあります。

 

 先行き不透明な状況が続いていますが、業務の効率化により足場を固めていく方針です。売上は厳しく10年9月期も第3四半期まで微増収でした。ただ、なんとか増益で着地できそうな見通しです。

小売業・食品メーカーにどんな価値を提供できるか

──三菱商事系の食品卸売業4社が経営統合に向かうことになりました。この動きについて、どのように見ていますか。

 

加藤 4社はいずれも三菱商事さんの連結子会社ですから、それらが一緒になることについては、それほど驚くようなことではないと思います。

 

──4社が経営統合すると単純合算で売上高は2兆円超で、最大手の国分(東京都/國分勘兵衛会長兼社長)を抜いて断トツの規模になります。脅威はありますか。

 

加藤 4社のうち最も規模が大きい菱食さんで売上高1兆4000億円弱。当社の2倍もの売上規模です。今度は4社がまとまって、さらに大きくなりますが、すで

 

 規模の差はかなりあるわけで、脅威の度合いが極端に増すかと言えば、決してそのようなことはないでしょう。

 

──総合商社の住友商事(東京都/加藤進社長)、三井物産(東京都/飯島彰己社長)、三菱商事からそれぞれ出資を受けられています。総合商社との関係についてはどのように考えていますか。

 

加藤 基本的なスタンスには、各社と一緒にできることがあれば積極的にやっていきたいと考えています。どの総合商社も得意な分野がありますから、協力していただける部分があればお願いしたいという姿勢です。

 

 ただ当社は得意先や仕入れ先に、どのような価値を提供できるのかを考えながら、つねに事業展開しています。その中で、特定の総合商社のカラーがついて、それが濃くなることのメリットがある一方でデメリットも存在します。現時点ではデメリットのほうが大きいと判断していて、今のようなスタンスをとっているわけです。繰り返しになりますが、総合商社は大きな力をお持ちなので、いろいろな関係をつくっていければと思っています。

 

──特定の総合商社との関係が強まることによるデメリットとはどのようなことですか。

 

加藤 たとえば、一つの総合商社のカラーが濃くなると、他の商社とつながりの強い小売業とは取引がしにくくなります。また得意先の中には、総合商社系の食品卸売業を好まない経営者もいらっしゃいます。そういった視点に立つと、現時点ではデメリットが多いという判断なのです。

 

──三菱商事系の4社のほかにも、伊藤忠商事系列に日本アクセス(東京都/田中茂治社長)と伊藤忠食品(大阪府/濱口泰三社長)の2社があります。今後、総合商社系列の食品卸売業がまとまっていく可能性はどう見ていますか。

 

加藤 可能性ということであればあるでしょう。伊藤忠商事さんが、2社が一緒になったほうがいいと考えれば、一緒になるでしょう。ただし、あくまでも得意先があってのことになりますから、一緒になるのもデメリットを上回るメリットを見出すことができれば、ということになるとは思います。

 

現場力を強くする支店独立採算制

──食品卸売業の中で安定した収益力を維持されていますが、加藤産業の強みはどうとらえていますか。

 

加藤 当社は歴史的に、現場で活躍する営業マンをいかに強くするかということを意識してきました。この10年は、営業マンを対象とした集合教育を定期的に実施するなど、レベル向上に力を入れてきました。その意味では、取引先から一定の評価をいただいているのではないかと自負しています。

 

──営業マンの強化というと、どんなことがあるのですか。

 

加藤 食品卸売業の機能として重要なのは、まず商品を運ぶということ、それから情報を提供することです。小売業間の競争が激化する時代にあって、とくに重要性が増しているのは情報です。当社では、得意先から得たPOSデータを分析するのは、得意先とじかに接する現場にいる従業員が担当しています。本部にも情報分析をする組織はあるのですが、取引の現場や小売店のことを知っている営業マンが対応しなければ、あまり意味がないと考えているからです。

 

──現場の判断力に任せるメリットは何ですか。

 

加藤 現場の実状に即した情報を提供できることです。得意先とやりとりするにしても、何かが起こったときスピーディに対応できるという点も大きいでしょう。

 

 じつは06年、組織を改編し機動的な営業体制がとれるようにしました。かつては全国に支店や営業所が30カ所ほどありましたが、それを新たに北海道、東北、北関東、中部、南近畿といったエリアごとに11の支社を設置し、この下に整理した20数カ所の支店・営業所を配置しています。これにより、現場がスピーディに判断し、対応しやすくなりました。取引先からの要請に対し、どう対応するかの判断は支店長自身で考えさせています。

 

 当社の特徴かもしれませんが、得意先の管理や対応は支店で完結させています。独立採算制ですので、支店で働く営業マンも全体の収益を把握しています。そのため、たんに売上を上げればいいという感覚ではなく、自分たちが利益を稼ぐのだという意識を営業マン一人ひとりが持っています。現在は支店長への権限をさらに委譲するなど、現場重視の方針を強めています。

 

──支店単位で管理するとなると、得意先によっては複数のエリアにまたがるケースも出てきます。その場合はどう判断するのですか。

 

加藤 ケースバイケースですが、全国展開されている大手小売業については本部が中心となって対応しています。またいくつかの支社にまたがっている取引先については、リーダー的な支社を決め、そこが中心に対応するということになっています。いずれにせよ、支社を中心とした現場対応を基本にしていることが、当社の企業風土のベースにあります。

 

中国で求められる日本の卸売業のノウハウ

──兵庫県を拠点に事業展開されていますが、やはり関西エリアにおける売上が大きいのですか。

 

加藤 売上として大きいのは関東です。関西で商売を始めて60年あまり(会社設立は1947年)、関東へ進出したのが1962年ですから、もうすぐ50年。年月としてはそれほどの差がありません。ただ、やはり同じエリアということで、とくに関西の小売業との結びつきが強いことが多いですね。

 

──昨年は、大手SMのライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長)の配送や商品仕分けといった物流業務を受託されました。現在、SMからこういったニーズは増えているのでしょうか。

 

加藤 いいえ。以前に比べ各社の成長は鈍化していますし、一時期のブームからすれば、案件はむしろ減っているのが現状です。配送センターを持っていない大手小売業は、もうほとんどありません。現時点で施設を持っていない企業は、将来も持たないほうがいいと判断しているのだと思います。今後、物流センターの処理能力が限界に近づいているとか、物流センターの立地を変える必要があるといった事情がなければ、そういった案件はあまり増えないでしょう。

 

──国内市場はデフレ傾向が続き、売上を拡大しにくい環境にあります。長期ビジョンとして、売上高1兆円、経常利益130億円を掲げていますが、これから成長をどう図っていく考えですか。

 

加藤 新しい顧客を獲得することで売上を増やすという考え方は重要です。しかし売上は低迷している時期にあっては、それだけでは成長を続けることは難しいでしょう。やはり自分たちの売上を上げるというよりも、得意先や仕入れ先のお役に立ち、先方が売上を拡大するお手伝いをするという意識が必要なのだと思います。

 

──M&A(合併・買収)という手段についてはどのように考えていますか。

 

加藤 これまでの歴史を見ても、数十件のM&A案件を手がけています。ここ数年では、とくに大きな事例はありませんが、現在、連結子会社となっている企業についてはM&Aをした企業が少なくありません。もはや、M&Aは特別な手段ではなくなっており、それを使わないという理由はないという認識です。

 

──住友商事と共同で中国の食品卸売業の子会社に対して出資されています。今後、中国でのビジネスについて展望を聞かせてください。

 

加藤 同じ食品流通でも、中国と日本では大きな違いがあります。たとえば流通業界の商慣習という点では日本は特約店制度で、中国では代理店制度。消費環境という点では、日本はモノが余っているのに対し、中国はモノ不足に近い状況です。モノがないということは、売り手が強いわけで、日本とはパワーバランスがまったく違っています。

 

 また中国においては、食品卸売業はまだ新しいビジネスで、20年そこそこの歴史しかありません。中国では、小売業の変化のスピードがかなり速いのが特徴です。その中で、日本の卸売業が持つノウハウへのニーズが増しているのも確かです。まだ時間はかかりそうですが、少しずつ伸ばしていければと考えています。