メニュー

メトロ キャッシュ アンド キャリー ジャパン 代表取締役社長 石田隆嗣
「お客さまと一緒に」をキーワードに顧客のビジネスの発展をサポート!

世界第3位のグローバル流通企業、メトロ(ドイツ)の日本法人であるメトロ キャッシュ アンド キャリー ジャパン(東京都/石田隆嗣社長)。2010年9月末現在、BtoB(企業間取引)の登録制ホールセールクラブ(MWC)7店を展開している。本年10月28日には辰巳店(東京都)、12月下旬には市川店(千葉県)を開業、日本市場で存在感を増す。

聞き手/千田直哉(チェーンストアエイジ)


顧客の目的はショッピングではなく仕入れ

メトロ キャッシュ アンド キャリー ジャパン 代表取締役社長 いしだ・たかし 1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。93年、丸紅入社。2001年、メトロ キャッシュ アンド キャリージャパン入社。同社管理企画部長、メトロ キャッシュ アンド キャリーインターナショナル財務監査部長を経て、06年、メトロ キャッシュ アンド キャリー ジャパン取締役管理本部長に就任。09年から現職。

──08年度、メトロ キャッシュ アンド キャリー ジャパンの売上高は07年度比で15%伸びました。09年度はどうでしたか?

 

石田 売上高は対08年度比で25%伸びています。もちろん2店の新規出店効果もあります。また、既存店は安定した売上を確保しています。これまで決して平たんな道のりではありませんでしたが、お客さまからの支持は確実に高まっており、当社のビジネスが日本に着実に根付いてきていると自負しています。

 

──どのような部分に好調の要因があると考えていますか?

 

石田 お客さまとの信頼関係をしっかりと築いていることが大きいと思います。

 

 お客さまはショッピングではなく、仕入れに来店されます。したがって、有益な情報を提供できていることが信頼の獲得につながっています。

 

 各店舗の従業員には、お客さまの顔を見ただけですぐに名前が出てくるよう徹底しています。しかも、そのお客さまが何を求めているのか、何に困っているのかなどの情報も従業員に共有されています。

 

 お客さまとの接点の中心になるのは各店舗に3~5人配置している「カスタマーコンサルタント」と呼ばれる営業部員です。自らお客さまの店舗に出向いて直接コミュニケーションを取り、お客さまのビジネスを理解し、要望を聞きます。困ったことがあったら解決方法を一緒になって考えます。

 

 「お客さまと一緒に」をキーワードに、われわれはお客さまのビジネスの発展のお手伝いをしているのです。食材となる商品を提供することはもちろん、メニュー提案やビジネスの効率化といった付加価値の部分も合わせて提供できる点が当社の強みです。

 

──その強みを発揮するため、顧客にどうアプローチしていますか?

 

石田 まず、お客さまを業種や売上規模、成長度合いなどによってグループ分けします。そのうえで営業本部(店舗運営)、商品本部(バイヤー)、マーケティング本部の3部署からなるクロス・ファンクショナル・チーム(Cross-functional Team)が各グループのニーズを分析します。そして、(1)マーケティング本部がお客さまの潜在ニーズをあぶり出し、(2)商品本部が品揃えし、(3)営業本部が店舗運営に生かす、すなわち提案する──というような具合です。さらに、付加価値を提供すべく、各グループに合った方法でお客さまにアプローチします。

 

──顧客一人ひとりのニーズは異なります。きめ細かく対応するポイントは?

 

石田 各店舗の置かれた状況、たとえば食文化や地域の食材の流通事情などによってお客さまへの対応方法は異なります。お客さまのニーズをしっかりと吸い上げ、店づくりに反映するにはどうしたらいいのかというのを、その場で考えながら対応しています。

 

 「これが当社の提案の標準パターンです」と対応方法をがっちりと固定すればお客さまから支持は得られません。あくまでもお客さまのニーズに合わせるためにはどうしたらいいのかをまず考えるのです。ただし、毎回異なる方法で提案すると、お客さまは混乱します。地域性を考慮しつつどう標準化するのか、そのバランスをうまく取ることが重要です。当社が展開するプライベートブランド(PB)商品についても、お客さまの声を聞き、ニーズにしっかりと応えられるよう開発することを第一としています。

 

──成功した提案にはどのようなものがありますか?

 

石田 以前、試食会で赤ワインと鴨フィレ肉のお寿司を提案しました。「お寿司と赤ワインも結構合うね」とお客さまからの評価は上々。これは、今までビールと焼酎だけを取り揃えていたお客さまに、赤ワインを購入してもらうきっかけにもなります。当社の店舗にはソムリエが常駐していますので、赤ワインに詳しくないお客さまでも、希望する価格帯やメニューに合わせてワインリストを作成することができます。メトロでは、こうしたトータルサポートができるのです。

お客さまが欲する商品を品揃えする

──9月17日に開業した高崎店(群馬県)を見ると、真空パックされたポテトサラダやきんぴらごぼうなど、簡便商品が充実している印象を受けます。この1年間、商品政策(MD)に変化はありますか?

 

石田 現在のMDの基本は、われわれが売りたいものを取り揃えるのではなく、お客さまが欲している商品を品揃えすることです。たとえば一般的に、商品の入れ替えの際、数字だけを見て死に筋の商品をすぐにカットすることがあります。しかし、お客さまがメトロに来店する動機に、「その(死に筋の)商品が置いてあるから」ということもたくさんあるわけです。

 

 最適化を優先するとお客さまのニーズを置き去りにしてしまうのです。最適化というのは当社の問題であって、お客さまには関係がありません。

 

 だから、品揃えは数字だけで取捨を決めていません。お客さまの声に真摯に耳を傾け、時にはお叱りも受け、それをしっかりととらえて改善につなげていく。これを続けていくことがいちばん大切なことだと考えています。

 

 ただし、死に筋商品をカットする場合も当然あります。その際は、カットした商品に替わるソリューション、商品を提案する必要があります。

 

 簡便商品については、ご指摘の通り、徐々にではありますが品揃えが増えています。背景には、この不況下で経費を削減しなければならなくなったお客さまの事情があります。たとえば、「このメニューは自慢できる看板メニューだが、コストは下げなければならない」と悩んでいるお客さまがいたとします。そこで当社は何か手助けできることはないかと考え、たとえばカット野菜や皮を剥いた根菜類などを提案します。また、どのようなメニューをおいしく安く提供できるのか、原価や利益まで計算して提案します。われわれが提案したメニューでお客さまが成功することがいちばんの喜びなのです。

 

 従業員一人ひとりがお客さまのために何をしたらいいのか、何をすればお客さまに付加価値を提供できるか、利益になるのかということを常に考えているのです。

顧客の満足は従業員の満足から生まれる

──そうした姿勢を具現化するには、従業員の育成が何よりも重要になります。

 

石田 そうです。お客さまの満足度の向上を図ることは当然ですが、それは従業員の満足度と密接に結びついています。従業員の育成に力を入れ、プロのお客さまに的確に提案できるようなレベルにまで従業員の力を高める。それがメトロの社員としての喜びや誇りになり、ひいてはお客さまの満足につながるのです。

 

 当社にはメトロ本社と共同でつくった「ハウス・オブ・トレーニング」という研修プログラムがあります。お客さまのニーズは何かという思考訓練から始まり、品揃えの組み立て方や商品の知識まで全従業員が幅広く学ぶことができます。また、各店舗ではOJT(On-the-Job Training)も行われています。さらには、海外で行う研修も多数あり、語学を含め、国外でも通用する人材を育成する態勢をしっかりと整えています。

 

──そうすると新規の出店はある程度人材が育っていないとできない。

 

石田 そうです。従業員を育てずに出店ペースを速めてしまうとお客さまをがっかりさせてしまいます。当社はきめ細かなサービスを提供していますので妥協はしません。規模の拡大よりもお客さまから確実に信頼を得て着実にやっていきたい。昨年度は2店、今年度は高崎店を含めて3店を出店します。今後も同じかそれ以上のペースで出店していきたいです。

 

──今年度で店舗数は9店となり、商品調達や物流の効率化が進みますね。

 

石田 そうです。やっと物流の効率化やコスト削減に着手するところです。東京都にある物流センター─自前ではなく3PL(アウトソーシング)─の利用率を高めていきます。

 

 商品の調達は、メトログループのグローバルネットワークを活用できる規模になりつつあります。ネットワークを活用した海外からの商品調達は、現状ではまだごく小規模ですが、今年度で9店舗体制になりますので、当然直輸入を含めたグループのシナジーを今後ますます享受できるような態勢にしていきます。そしてインフラを整備しながら、今後は今までになかった品揃えや提案ができるようになると思います。

 

──最後に、今後の方向性について教えて下さい。

 

石田 商品以外の提案にさらに力を入れていきたいと思います。

 

 たとえば、以前、お客さまから「ワインをキーワードにしたイベントができないか」と相談されたことがあります。そこで弊社のソムリエが、ワインと料理を選び、イベントの運営もお手伝いさせていただきました。お客さまから大変評価され、その経験はわれわれにとって大きな財産となり、他のお客さまにも同じような提案ができるようになりました。お客さまと当社の双方にメリットがある提案を強化していきたいと考えています。

 

 つまり、われわれはソリューション・プロバイダーなのです。「お客さまのビジネスが繁栄していくためには何ができるか」を日々考えています。食品だけではなく、掃除の効率化から経営面での課題解決まで含めて付加価値を提供していきたいと考えています。ですから、洗剤や食器など、非食品カテゴリーのアイテムを什器・備品、厨房機器まで含めて品揃えを充実させていきます。お客さまが飲食店や居酒屋をオープンする際は、当社の店舗に来ていただければすべてが整うというところまで視野に入れています。

 

 また、都心部に出店を進める場合、クルマを持っていないなどの理由で、来店できないお客さまもいるはずです。配送サービスで対応することになりますが、配送の時間帯や頻度など、都心であればあるほどお客さまのニーズも多様になると考えています。われわれは先手を打ってお客さまの要望にかなう提案をしていきたいと思います。