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企業努力限界、迫る「値上げの波」=コロナ・ウクライナ、想定外続く〔潮流底流〕

 新型コロナウイルス禍、ロシアによるウクライナ侵攻と想定外の危機の連続が企業心理に影を落としている。日銀が1日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業の景況感は製造業、非製造業とも7四半期ぶりに悪化。日本経済全体への影響が懸念される。コロナ禍の収束が見えない中、ウクライナ危機が資源や原材料価格の高騰に拍車を掛けており、これまでなかなか転嫁が進まなかった販売価格にも「値上げの波」が迫りつつある。
 ◇コスト削減で吸収できず
 「企業努力は限界。苦渋の決断だった」。1日からショートケーキなど一部商品を値上げした銀座コージーコーナー(東京)の幹部は声を絞り出した。小麦、乳製品、砂糖など、洋菓子の主な原材料の仕入れ価格は軒並み上昇。商品の絞り込みなどでコスト削減を進めたが吸収し切れなかった。政府が買い付けて国内の製粉業者に売り渡す輸入小麦の価格は同日、約17%引き上げられた。今後も一段の穀物価格高騰や円安による物価上昇の影響が見込まれ、「2回目の価格転嫁をしないとは断言できない」と身構える。
 日銀短観では、仕入れ価格の上昇感を示す指数が大企業非製造業でリーマン・ショックが発生した2008年9月以来の高水準となった。居酒屋大手ワタミの渡辺美樹会長兼社長は、ウクライナ危機が水産物の仕入れに影響していると指摘。円安も背景に「必ず値上がりがしっかり来る」との厳しい見方を示す。
 資源価格高騰の影響は、半導体不足による供給制約に苦しんできた自動車メーカーにも及ぶ。景況感のマイナスが続く自動車業界からは、資源高について「過去に例のないスピード」(トヨタ自動車)、「コストダウンでカバーしたいが、あまりにも額が大きい」(ホンダ)と悲鳴が上がる。
 ◇おぼろげな回復
 昨年末以降、猛威を振るった新型コロナ変異株「オミクロン株」の流行で、ワクチン接種進展とともに膨らんだコロナ収束への期待は急速にしぼんだ。帝国データバンクの調査では、新型コロナの業績へのマイナス影響を見込む企業は今年1月、2月とも7割を超えた。2カ月連続で7割を超えたのは、感染の第5波があった昨年8~9月以来。まん延防止等重点措置拡大の影響で「百貨店などの客数が減少し厳しかった」(J・フロントリテイリング広報)という。
 3月22日に同措置が全面解除されたことで、「購買意欲は上がっている」(別の百貨店関係者)と回復に期待する声も上がる。旅行予約サイトのエクスペディアグループの木村奈津子リテール日本統括ディレクターは、入国時の水際措置の段階的緩和で「インバウンド(訪日外国人旅行者)が戻る兆しがある」と需要復活への手応えを示す。
 もっとも国内外の経済は、コロナ禍とウクライナ危機の直接的・間接的影響により不確実性に満ちている。中国・上海では3月下旬、感染が拡大し、事実上のロックダウン(都市封鎖)措置が取られた。ウクライナ危機が長期化すれば、「(設備投資の先送りなど企業の)投資マインドへの影響が懸念される」(日本工作機械工業会の稲葉善治会長)。世界的な景気減速への不安も抱え、回復への道筋はおぼろげだ。
 ◇予想ほど悪くない=宅森昭吉・三井住友DSアセットマネジメントチーフエコノミスト
 全体としては市場が予想していたほど悪い結果ではなかった。半導体生産の回復が寄与したとみられ、サプライチェーン(供給網)の混乱がさらに悪化することはなさそうだ。非製造業では、まん延防止等重点措置で対個人サービス業などが厳しかったが、需要が減退しているわけではない。ただ、先行きでは業況が「悪い」の割合が減る一方、「さほど良くない」と答えた企業が増えた。ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナウイルス感染拡大などの影響を慎重にみているためだろう。
 ◇物価高、景気回復抑制の恐れ=上野剛志・ニッセイ基礎研究所上席エコノミスト
 販売価格判断の先行きが上昇しており、資源価格高騰に伴うコスト増を背景に、先々も製品への価格転嫁が続く見通しだ。転嫁による物価高で家計の負担が高まり消費が下振れすれば、景気回復を抑制しかねない。一方、コストを転嫁しなければ企業収益が悪化する。本来は生産性を高めて実質賃金をプラスにしていくことが求められるが、日本では賃上げが全然進んでいない。経済が物価高に対し弱い構造にある。
〔写真説明〕日本銀行本店=東京・日本橋本石町
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