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AEON PayにヤオコーPay、メルコイン……決済の新たな動きを専門家が解説!

キャッシュレス決済比率を2024年までに40%、将来的には80%をめざしている日本では、コロナ禍を契機にモバイル決済事業者をはじめ小売各社においてもキャッシュレス対応が加速した。「PayPay」をはじめとしたモバイル決済事業者の大規模なポイント還元合戦が落ち着きを見せ始めた今、各決済事業者の動向や今後の企業各社がめざす方向性についてNCB Lab.代表の佐藤元則氏に伺った。

whyframestudio/iStock

ポイント経済圏の確立に各社が注力

 昨今、モバイル決済事業者によるポイントの“大盤振る舞い”は減少傾向にあるが、ポイントによる独自経済圏の確立と顧客エンゲージメントの向上をめざす流れは変わらず、各社がしのぎを削っている。消費者の決済利用回数を増やすためにも、当然のマーケティング費用として、ポイント還元に力を注いでいる。

 また、各モバイル決済事業者は同業同士の合従連衡から一歩進み、現在は銀行など異業種とのアライアンスに積極的だ。「モバイルウォレット」「スーパーアプリ」といった構想の中で、1つの決済アプリの中に保険、投資、融資、生活サービスなどをAPIで紐付けていくためにも、さまざまな業種・業態との協業が重要なポイントになっている。

 「同じ業界におけるM&A(合併・買収)ではなく、『投資』という観点でスーパーアプリ化や多角化をめざす、あるいは加盟店手数料の下げ圧力に対し収益を確保するためにさまざまな業種・サービスとタイアップ・協業をしているというのが実態だ」と佐藤氏は話す。

キャッシュレスサービスを牽引するPayPay

 そのような中で存在感を示しているのがPayPay(東京都)である。保険を含め多様な商品やサービスを次から次に世に送り出す開発体制や、地方公共団体との連携などは佐藤氏も驚きをもって見ており、「開発力と営業力、スモールビジネスも含めた加盟店化のパワーが凄まじく、日本の決済を変え、牽引している存在だ。2018年にスタートし、この短期間でここまでのシェアをとり、日本のキャッシュレス風景を変えたその功績はとても大きい。」と評価する。

 ただ、「楽天ペイ」を擁する楽天グループ(東京都)では、金融(フィンテック)事業がグループの収益を下支えしている。同事業を、楽天ペイを含めた「総合金融サービス」として捉えると、事業黒字化に至っていないPayPayに大きく先行している。「d払い」「dカード」を抱えるNTTドコモも、全社業績では巨額の利益を稼いでいる。「利益」という面を見れば、PayPayが他社を追いかける状況にあるのだ。

 「今後PayPayが黒字化するためにはゴールドカードなど、ローン後払いやキャッシングのような与信系の商品をいかに伸ばせるのかが勝負となるだろう」(佐藤氏)

小売企業が提供する決済サービス

 2021年9月からイオン(千葉県)で導入されている「AEON Pay(イオンペイ)」や、2023年3月より提供されている「ヤオコーPay」など、小売業が提供している決済サービスが「カード」から「モバイル」に切り替わっている点にも注目だ。

 クレジットカードには、「国際ブランドカード」と「ハウスカード」とがあり、モバイル決済もPayPayのような汎用的なモバイル決済と「ハウスモバイル決済」が存在する。イオンペイやヤオコーPayなどは、このハウスモバイル決済にあたるサービスだ。

 小売業がハウスモバイルを提供するメリットは、加盟店手数料を低く抑えることができるという点だ。国際ブランドを介さないことでコストダウンができ、各種サービスやその告知によって顧客の利便性を向上させられると共に、スマホによって顧客接点や顧客との接触機会を簡単につくることができる。

 海外でもプラスチックのカードに代わり、アプリのようなストアモバイルが普及しており、その流れが小売にもハウスモバイル決済というかたちで現れている

 小売が提供するハウスモバイル決済がPayPayなどのモバイル決済と競合する点について、佐藤氏は「アプリのUI/UXが良ければ、消費者はそれぞれのサービスを使い分けるだろう。TPOに応じて、使い分ける人達をマーケティングによって自社顧客にできるかがポイントになる。そのためにも、加盟店手数料を下げることに注力するだけではなく、消費者目線でどのような利便性が提供できるのかを踏み込んでアプリをつくり込むことが大切だ」と述べている。

「ペイ」から「ウォレット」へ 

 加えて、「今後は決済だけではなく、『ウォレット』という概念が非常に重要になる」と佐藤氏は話す。「決済ができること」は今や当たり前になっており、世界は「ペイ」から「ウォレット」の競争になっているというのだ。

 実際に、グーグル(Google)の「Google Pay(グーグルペイ)」アプリが「Google Wallet(グーグルウォレット)」に切り替わり、サムスン(Samsung)の「Samsung Pay(サムスンペイ)」が「SamsungWallet(サムスンウォレット)」の一部になったように、大手テック企業は自社の決済関連サービスのブランドや名称を「ペイ」から「ウォレット」に変更している。具体的には、上位概念としての「ウォレット」があり、その下位概念の1つに「決済(ペイ)」があるイメージだ。

 ここで重要になるのは、“自前主義”だけではウォレットとしての魅力が出せないという点だ。そのために、各事業者は先述のようにさまざまな異業種とアライアンスを組み、自社のウォレットでいかに魅力的なサービスを提供するかを検討しているのである。
 
 暗号資産関連の規制強化が進んでいるタイミングではあるものの、フリマアプリのメルカリ(東京都)が「メルコイン」をスタートし、従来の「メルペイ」による決済に加えて、暗号資産の取引サービスを始めている。これも、既存のサービス体系に「投資」という要素をプラスし、アプリの利用頻度向上をめざした「ウォレット」構想の一環ととらえることもできる。

 「これらキャッシュレスサービスの拡大と浸透を促すためにも、セキュリティ対策、踏み込んだマーケティングを行いつつ、顧客とのエンゲージメントをいかに高めていくかが重要になるだろう」(佐藤氏)。