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アマゾンが物流ベンチャーへの投資を加速する背景

米アマゾン(Amazon.com)は、AIとロボティクスを融合する技術開発を手がけるスタートアップ(新興企業)への投資を拡大する計画だ。そのねらいは、物流の効率化と職場環境の安全性向上にある。

「より効率的に、従業員にとってより安全に」

アマゾンは「産業革新ファンド」を設立し、AI・ロボティクス系スタートアップへの投資を加速している

 アマゾンは2022年に10億ドル(約1560億円)規模の「産業革新ファンド(Industrial Innovation Fund)」を設立した。こうしたコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)は一般に、有望なベンチャー企業への出資を通じて自社の事業領域を拡大する、あるいはその可能性を模索するといったことを目的とする。だがアマゾンの場合、物流の効率化による配送スピードの向上や倉庫などの職場の安全性向上をめざしている。

 アマゾンのCVC責任者であるフランジスカ・ボーサート氏は24年2月、英『フィナンシャル・タイムズ』紙のインタビューで、「より効率的に、従業員にとってより安全に、配送スピードを向上させるという目標を支援するスタートアップに投資する」と、その目的を明らかにした。

 同紙によると、アマゾンは産業革新ファンドを介してこれまでに約12件の投資を行った。これには、センサー技術を用いて人間と共に作業するロボットアームを手がける米マンティス・ロボティクス(Mantis Robotics)への出資などがある。

 ボーサート氏によれば、アマゾンは今後も、①最終物流拠点から顧客宅へ荷物を配達する「ラストマイル配送」に関わる企業、②新興市場に拠点を置く企業、③より成熟段階にある企業へと投資対象を拡大していくという。

コスト削減と労働環境改善の両面ねらう

 アマゾンにはこれまでもロボティクス分野に投資してきた実績がある。12年には倉庫向け搬送ロボットを手がける米キバ・システムズ(Kiva Systems:15年に「アマゾン・ロボティクス」に改称)を7億7500万ドル(当時の為替レートで約650億円)で買収し、物流業務の自動化に力を注いだ。

 21年には、米マサチューセッツ州ボストン市郊外のロボット開発・製造拠点(延べ面積約3万2500㎡)を開設。22年には物流施設内ロボットシステムなどを開発するベルギーのクロースターマンズ(Cloostermans)を買収した。

 こうして自動化を進めるのには2つの理由がある。1つはコスト削減だ。22年11月に同社が報道陣に披露した商品仕分けロボットアーム「スパロー(Sparrow)」は、大幅な人件費低減につながる技術とみられる。スパローは、AIを活用しラックの中の異なる商品パッケージの形や色などを瞬時に認識。アームの先端で吸い上げて、仕分け用の箱の中に移動する。商品はプラスチック製の円筒形ボトルやDVDのケースなどさまざまだが、スパローはこれらを個別に認識する。

 もう1つの理由は、労働環境の改善だ。同社のような企業の物流施設で働く従業員は、反復ストレス障害や筋骨格障害を発症するリスクが高いと指摘される。そのため同社は、労働災害低減のための安全プログラムを導入し作業スケジュールを管理している。アマゾンのグローバルロボティクス&テクノロジー担当副社長のジョセフ・クインリバン氏は、「スパローは安全手順の次のステップとなることを目的としている」とし、「私たちが直面している反復動作の課題において、物流ネットワークを変革させる一助となる」と強調した。

ラストマイル配送と当日配達拠点でAI活用

 アマゾンが23年に始めた「リージョナリゼーション(地域化)」では、AIを活用して商品がどの地域で需要があるかを予測し、ラストマイル配送を迅速化する。アマゾンによれば、AI活用の成果は数値に表れているという。たとえば、ラストマイル配送の商品移動距離は以前に比べて15%縮小。ミドルマイルと呼ばれる倉庫間移動における荷物取り扱い回数(タッチポイント)も12%減少した。

 アマゾンは米国で「セイムデーサイト(当日配達拠点)」と呼ぶ倉庫のネットワークを拡大している。その1施設当たりの大きさは、アマゾンの一般的なフルフィルメントセンター(発送センター)の数分の1程度。主に大都市圏近くにあり、ECサイトで人気のある数百万点の商品を常時置いている。アマゾンは、フルフィルメントセンターやソートセンター(仕分けセンター)、デリバリーステーション(宅配ステーション)といった物流拠点を連携させて商品を配達している。セイムデーサイトはこれらの機能を1つに集約した比較的小規模な施設であり、ここでもAIを活用している。

 だが、アマゾンはまだやれることがあると考えている。フィナンシャル・タイムズ紙によれば、アンディ・ジャシーCEOは「コスト削減しつつも、より迅速に配送できる方法はあるはずだ」と改良を続ける考えを示した。今後もCVCを通じて技術革新に取り組む意向だ。