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「トリプルメディア」の近未来 小売マーケティングで変化続けるメディアの役割とは

今回のテーマは小売業において「トリプルメディア」活用の展望についてです。トリプルメディアとは何かといえば、文字通り3種類のメディアのこと、①オウンドメディア、②アーンドメディア、③ペイドメディアです。

マーケティング業界では、マス広告の時代からSEOの時代を経て、情報を提供・拡散するためにSNSが当たり前のように活用されるようになるなど、時代と共に主流となる役割は変化を続けてきました。このような、「トリプルメディア」の役割とそれに傾けるべきリソースの比重は、時の流れと共に今後も非常に流動的なものであると言って良いでしょう。

そこで今回は、それぞれの役割と相互作用を紐解き、これからの小売業におけるトリプルメディア活用の今後について考えてみましょう。

トリプルメディアの現在地

図表1

現在、情報を発信するメディアは一般的に①オウンドメディア、②アーンドメディア、③ペイドメディアの大きく3つに分類されます。企業が発信するTVCMやチラシのようなペイドメディアは相対的に見られなくなっており、広告=ペイドメディアだった時代のような分かりやすい効果は期待できなくなっています。

さらに、消費者の情報源は加速度的に広がり続けており、小売関係者の得手・不得手を問わず、それぞれに適切な対応が求められる時代になっていることは、大前提として理解しておく必要があるでしょう。

ただし、よく言われるようなペイドメディアの終焉論や、これさえやっておけば売上が伸びるといった近視眼的な論調には、慎重になる必要があると考えています。

トリプルメディアには、それぞれ異なる特性があります。その中でも、オウンドメディアは『理解』のメディアとされており、一般的には企業が発信するウェブサイトの他、公式ブログや公式SNS、オフラインでは会社案内やパンフレットなども該当し、昨今では実店舗もブランド理解を深めるためのツールとして考えられるようになるなど、多角的に企業が発信するPUSH型のメディアと言えるでしょう。

一方で、現在消費者の信頼度が最も高いメディアがアーンドメディアであり、一般的なSNSによる口コミやレビューサイトなど外部サイトに取り上げられるものまで多様に含まれ、アーンドメディアに強い小売業者が、現在有利なポジションを得ることができているのも事実です。

図表2

例えば、SNS上で強力な影響力を持つ無印良品・ユニクロ・ニトリなどは、アーンドメディアを通じて商品やブランド認知を高める拡散能力を有しており、極論を言えば『商品が良ければ放っておいても売れる状況』を作りだすことができています。

今後、小売事業各社はこのような状況を作り出すことが重要と言えますが、それはアーンドメデイアにだけ力を入れておけば手に入るような単純な話ではないのです。

成長著しいワークマンを事例に考えてみましょう。彼らはペイドメディアにおける広告宣伝費を大幅に削減しつつ、アンバサダー制度やSNSといったアーンドメディアを活用して集客を行うなど力を入れています。一方で実店舗数を大幅に拡大する戦略も取っており、WEBから実店舗への送客といったオウンドメディアとの連携にも膨大なリソースを注ぎ込んでいます。アーンドメデイアによる情報拡散の受け皿として、実店舗を含めたオウンドメディアをしっかりと拡大しながら売上を最大化しているのです。

図表3

理解のメディアと評価・拡散のメディアにおける関係性

過去にはGoogleによるSEO重視の時代がありましたが、今やSEOだけでメディア展開を網羅することはできなくなっています。また、いわゆる公式サイトや公式SNS(インスタグラム・YouTub・、TikTokなど)によるオウンドメディア的な拡散能力にも、現実的には限界があると言わざるを得ないでしょう。しかし、だからといってオウンドメディアが不要という訳ではないのです。

同じように、ペイドメディアが完全に無価値になってしまったのかというとそういう訳でもありません。一般的に、SNSやアーンドメディアで拡散されて注目を集めているコンテンツを、さらに広める役割を担う局面が多くなっています。また、「特定の時期」には依然として価値があり、例えば年末のクリスマスやお中元、お歳暮といった季節性のイベントに対しては、ペイドメディアの広告を通じてオウンドメディアやECサイトに誘導したり、実店舗に誘導することにも役立ちます。ただし、局所的な使い方による限定的な効果に限られるため、従来のような量的な広告展開には注意が必要でしょう。

弊社の見解では、今後アーンドメディアとオウンドメディアを組み合わせて戦略的に活用することが、小売業におけるメディア活用の鍵と見ています。特にオウンドメディアを伸ばすためには、アーンドメディアをいかに活用できるかが最も重要なのです。次回から、そんなオウンドメディアを活用するための新たな役割について深掘りして考えてみましょう。