商業施設への出店を中心に、「サンクゼール」「久世福商店」の2業態の食のセレクトショップを展開するサンクゼール(長野県/久世良太社長)。前回は2業態のコンセプトや取り扱い商品、コロナ禍の状況、今後の出店戦略について解説した。今回は同社のSPA(製造小売)戦略やEC事業、商品戦略について紐解いていく。
その地方独自の商品や製造方法に着目
サンクゼールはジャムの製造をきっかけに創業していることから、商品の企画・開発から調達、販売に至るまでを自社で展開する食のSPA(製造小売)企業である。仕入れ商品に関しても多少原価率が高くてもその分売価を高く設定し、クオリティの高い商品を展開する方針だ。また、サンクゼールの店舗は約7割がフランチャイズ(FC)であるため、FCオーナーに利益をできるだけ残すことも重要である。そのためには、自社で商品を開発して売価決定権を持つことも大事なポイントとなっている。
原材料の調達に関しては、バイヤーが全国各地を周り各地方伝統の独自のおいしさを追求しているのが特徴だ。「日本にはその地方、その土地でしか共有されていない商品・製造方法がたくさんある。こういった各地のおいしいものを全国的に売り出したい」(常務取締役 リテール事業本部長 久世福商店ビジネスユニット ユニット長 山田保和氏)。
海外での卸事業が好調
これまであまりその地方で食べていなかったものを全国的に展開することで成功した例もある。山田氏によると、たとえばわかめの産地は宮城県や岩手県などの東北地方が有名だが、今は収穫量が減少し貴重になっているという。そこで目を付けたのが消費量が比較的少なく、天然のわかめがたくさん獲れる島根県だ。「地元であまり食べられていなくても販売を全国に拡大することでロットが増え、収穫する漁師にも安定的に仕事を提供できるというメリットがある」(山田氏)とのことだ。
そのほか、サンクゼールは日本だけでなく、現地で自ら新鮮で品質の高い原材料を仕入れて加工できるといったメリットから、アメリカのオレゴン州にも自社工場を保有している。ベリー系のフルーツを加工したジャムなどを中心に製造しており、日本での展開はもちろん、現地のスーパーマーケット(SM)などにも商品を卸している。柚子を使った商品など、アメリカで取り扱いが少ない商品などが好調だ。
海外での卸事業は単独で黒字化を達成しており、今後もさらなる事業拡大をめざす。台湾や香港の小売店からも引き合いがあり、アジアでの展開も行っていく考えだ。今のところ海外で実店舗を出店する予定はなく、まずは卸事業でさらなる利益確保をねらう。
ECプラットフォーム事業を開始
前回の記事で述べたように、サンクゼールはコロナ禍を機に出店を郊外や地方都市にシフトさせているが、それと同時に力を注いでいるのがEC事業だ。同社はもともと20年ほど前から自社ECを展開しているが、コロナ禍の20年4~5月では売上が前年同期と比べて500%ほど伸長するという驚異の成長をみせた。対応キャパシティを超えるほどの注文があったため、倉庫の改装などを実施したことで出荷スピードの向上に取り組んだという。現在は昨対で約200%増の売上で推移している。
さらに20年10月には、自社ECとは別にプラットフォーム事業にも参入。「旅する久世福e商店(通称:たびふく)」と題したモール型のECプラットフォームの運営を開始した。リアル店舗で取り扱う商品を調達するときと同じくバイヤーが直接現地に赴き、実際に話を聞いた生産者が出店しているのが特徴だ。もともと21年4月ごろをめどに開始する予定だったが、コロナ禍で飲食店向けに食品を卸していた生産者が困っているという声を聞き、開始を早めた。
同事業開始の理由の1つは、リアル店舗で不足していた部分を補えるからだ。リアル店舗では日持ちがしない生鮮食品をあまり取り扱えなかったが、モール型の「旅する久世福e商店」では生産者がお客に商品を直送できるというメリットがある。魚関連の商品の出品が多く、全体の約3分の1を占めている。
現在は約150の企業や生産者が出店しており、計3000アイテムほどを取り扱っている。今後も出店者・商品を拡大していく考えで、現在の出店者のほかに約100社が出店の意思を示しているという。各出店者のページ制作はサンクゼールが行っており、順次ページを開設していく計画だ。また、地方自治体などからも地元の生産者向けの説明会を開いてほしいという依頼もあり、今後は月10~20社を目標に出店者の数を増やしていく。
健康志向にとらわれず、伝統の食品は“そのまま”販売する
リアル店舗では、「サンクゼール」「久世福商店」ともにコロナ禍で売れる商品に変化が起きており、酒類、珍味、冷凍食品、ギフトの4カテゴリーがとくに伸長している。SMなどほかの食品小売店と同じく、外出控えによる家飲み需要を受け、酒類とそのおつまみとなる珍味の売上が伸びた。ギフト商品については、「ちょっとした手土産などの『プチギフト』の需要が伸びており、こだわり商品を取り扱う当社の店舗が支持されている」(山田氏)という。
冷凍食品については、以前から業務用の商品を一般家庭用に販売する取り組みを7年ほど前から続けていた。コロナ禍では備蓄需要の高まりも相まって売上が伸長している。「業務用の冷食は開発が進んでいるが、一般家庭用に売られているものは少ない。レストランで使われているような商品を家庭にもっと広めていきたい」(山田氏)。魚や肉のほか、スイーツの冷凍食品など、業務用の商品を家庭用の数量にアレンジして展開したい考えだ。
コロナ禍で伸長している健康志向の商品も「久世福商店」では取り扱っているが、近年ではイオン(千葉県)系列の「ビオセボン」や、ライフコーポレーション(大阪府)の「ビオラル」など、健康志向のこだわり商品を取り扱う小売店が増えている。しかし、山田氏はこれらの店舗は直接競合しないとみている。
「安心・安全はもちろん大事だが、最も追求すべきはおいしさだ。珍味や地方の変わった特産品などは、おいしいが塩分が多いなど必ずしも健康によいわけではない。もし塩分を抑えれば昔からのよさが失われてしまう。伝統の食品は“そのまま”販売したい」(山田氏)。その一方、国産大豆を使った減塩しょうゆなども取り扱うなど、バラエティの豊富さが重要だという。
今後もサンクゼールは、商品の企画・開発から調達、販売に至るまでを自社で展開する食のSPA企業であることを強みに、こだわり商品の追求を継続していく考えだ。