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ZホールディングスとLINEの経営統合ついに完了! 経営トップが語る今後の戦略と方針

ソフトバンク傘下で検索大手ヤフーを事業会社に抱えるZホールディングス(以下、ZHD)と、SNS大手のLINEが今日付けで経営統合を完了した。両社の統合は2019年12月に発表され、当初は20年12月の完了を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で一部手続きに遅れが生じたため延期となっていた。国内最大級のインターネット企業として新たな船出を迎えた、新生・ZHDの共同CEOを務める川邊健太郎氏と出澤剛氏が、今後の経営戦略について語った。※3月1日に開かれた戦略方針説明会での発言内容を抄録

川邊健太郎&出澤剛共同CEO「4つの集中領域を設定」

川邊 統合を経て我々の国内サービスの利用者数は述べ3億人を超えた。実に多くの方々にサービスを利用いただいている。
 世の中を便利にし、多くの人々に”機会”を生み出してきたインターネットが大好きだ。インターネットが持つ可能性を信じている。情報技術の力と可能性を解き放ち、人々の世の中をより豊かにしていく。

出澤 今後ヤフーやLINE単独では創出できなかった価値を作りたい。ユーザーにとって意味ある経営統合にできるかどうかが全てだ。

川邊 情報技術の力で、この国を今よりもっと豊かで便利にすることができる。コロナ禍は、これまで見えていなかった不満や不便を顕在化させた。店頭での品切れや病院の受診など、便利にできることはまだまだある。

出澤 パーソナライズされた解決を提供する、ローカルに根ざした企業でありたいと考えている。国内最大のプラットフォーマーとして、リソースを全力投球してきた。そういう我々だからこそ取り組めるテーマだと考えている。

川邊 結果として、皆様から圧倒的な支持をいただける存在でありたい。情報技術の力で「できるを、もっと」を新生ZHDはめざしていく。

出澤 (統合により)情報・決済・コミュニケーションの強い3つの基点を持つことができるようになった。ユーザー、事業者に最適解を提供できるようになった。

川邊 根幹領域である「検索・ポータル」「広告」「メッセンジャー」の他、集中領域として「コマース」「ローカル・バーティカル」「フィンテック」「社会」の4領域を設定した。

※以下、川邊氏・出澤氏による発言が交互しますので発言者名は割愛します

①コマース:ソーシャルコマースと実店舗との連携を提供

 まずはコマースについて。既存のECの利便性は引き続き向上させていく。品揃えや欲しい時に届くといった利便性を重視するとともに、新たな買物体験として「ソーシャルコマース」と「実店舗との連携(Xショッピング)」を提供する。

 例えば、「ソーシャルギフト」というLINE上で気軽にプレゼントを送ることができるサービスや、気に入った商品の購入をLINEで友人に呼びかけ共同購入するサービス、インフルエンサーなどによるライブコマースをLINEのライブ配信機能を用いて提供する。これらがソーシャルコマースのサービスとなる。

 次に、オフラインとオンラインの連携であるX(クロス)ショッピングについて。例えば急に炊飯器が壊れてしまった時。そんな時に、様々な購入手段を提供できる。①インターネットで注文、自宅配送、②帰宅時にお店で受け取る、③近くのお店から自宅に配送してもらう、といった複数の提案の中から、自分に一番あった手段を選び、欲しい商品が手に入る、便利でストレスのない買い物体験を作っていく。

 また、一人ひとりの利用状況によって価格が変動する「My Price構想」によって「できるを、もっと」を届けたい。また、ユーザー向けのロイヤリティプログラムを統合予定である。

 事業者に向けてもより良いサービスを提供する。実店舗、EC、SNSなどを全て運営するのは負荷が大きいが、これらを一括で運用・管理できるソリューションを提供する。2021年上半期に、ECサイトの構築運営や分析などが可能な、「Smart Store Project」をリリース予定である。これらの取り組みによって2020年代前半には、EC物販取扱高国内ナンバーワンをめざす。

②ローカル・バーティカル:出前館の加盟店10万店をめざす

 もう1つの注力領域は「ローカル・バーティカル」だ。日本の実態にあったDXの支援や、ユーザーマッチングの支援で役に立ちたいと考えている。

 幅広い起点からの送客を実現し、AIを活用した最適なマッチングなどを可能にする。複数のサービス、予約サイトから送客が可能になる。また、位置情報をベースとした店舗情報サービス「LINE PLACE」もリリース予定だ。

 出前館では、日本最大規模のデリバリーインフラを構築する。現在のおよそ2倍の10万加盟店を目指していく。また、出前館の配送網をグループ内の他サービスでも活用できるよう検討する。

 広告面でも、リーチ、興味喚起、決済、再購入などのフェーズに合わせた最適なソリューションを提供する。コンビニ、ドラッグストアなどで利用できるクーポンの配布を実施。実際に購入されたお客にはPayPayなどでの特典を付与する。また、LINEを使用し、継続的な情報発信を実現することができる。また、オンラインとオフラインを横断した顧客とのコミュニケーションが可能になる。

③フィンテック領域:LINE Pay はPayPayに統合へ

 フィンテックについては、金融をもっと身近に、もっと便利に感じられる世界を目指す。「買う」「予約する」「支払う」といったユーザーのアクションに合わせて、最適な金融商品を提供する。また、お金を「借りる」「増やす」「備える」といった、お金にまつわるサービスの利便性も向上させる。

 連携する金融機関は自社に限らず、マルチパートナー化する。たとえば、旅行保険や、手持ちのお金が少し足りない時、「LINEポケットマネー」での融資、PayPayでのボーナス運用など、お金にまつわる体験をアップデートする。

 また、LINE PayをPayPayへ統合する方向で協議を開始した。Line PayがPayPayのQRコード読み取りに対応するなど、より利便性を高める取り組みを行う。これらによって、フィンテックをメディア、コマースに次ぐ第3の柱としていきたい。

④社会領域:行政、防災、ヘルスケアの領域でDXを推進

 社会事業については、官民連携による日本のDX支援、社会課題の解決に取り組む。このうち「行政DX」については、全国の自治体で進むコロナワクチン接種の予約システムを提供する。これは全国約200自治体で導入見込みとなっている。

 また、行政手続きの課題の解決もねらう。転出届・転入届などの手続きをスマートフォンで完了できるよう、行政と協力し煩わしさを減らせるよう尽力する。行政の手続きにオンラインという手段を用意する。21年度中に、網羅的かつわかりやすい行政手続き情報の拡充と、行政手続きのオンライン申請サービスの開始を目指す。

 防災については、これまでヤフー・LINEどちらも注力してきた。平時から災害時、復旧・復興まで、ユーザー一人ひとりに最適な情報を発信する。平時にはハザードマップなど、生活エリアの危険度チェックを提供し可視化を行う。災害警戒時には、避難のタイミングなど身を守る情報をリアルタイムに発信する。

 将来的には、安全な避難のためのナビゲーションも行う。災害発生時には、大雨は地震など、どのような行動をとるべきか、ユーザーが今いる場所に合わせた情報を発信する。救助要請が必要な場合にも、位置情報の利用によって要請が行えるようにする。復旧復興時には、必要な手続きや、支援のマッチングの最適化を目指す。ユーザーのニーズが刻一刻と変化する災害時にも、必要な情報を提供できる存在になっていく。

 ヘルスケアでは、遠隔医療をもっと便利で身近なサービスにする。病院に行きたいが忙しくて行けない、といった課題にも答える。その一環として「LINEドクター」で、予約・診療などをスマホ一つで実現できるようにする。また、オンライン服薬指導や薬の配送なども行えるようにする。21年度中にオンライン服薬指導を開始、オンライン診療「LINEドクター」国内ナンバーワンの提供数を目指していく。

全サービスにAIを実装 5年間で5000億円を投じ5000人増員へ

 ここまで触れた集中領域のサービスを成功させるキーワードはAIだ。全てのサービスにAIを実装し、新たな価値の創造を推進する。5年間で5000億円を投資、5000人を増員する。

 また、LINEは台湾、タイ、インドネシアなどで強いシェアを誇っている。海外での成功事例を国内にも取り入れていく。

 サービス利用を通じて生まれたデータの活用は、安全安心が大前提だ。わかりやすい説明、国内法に基づく運用、有識者による助言評価を受け続けること、プライバシー・セキュリティファーストの4つに努める。加えて、ユーザーの課題やサービス・機能を広く募る課題解決ボックスを本日より設置した。

 日本に住む人々に、最高のユーザー体験を提供し、社会課題を解決していく。また、アジアにも最高のユーザー体験を提供する。日本、そしてアジアから世界をリードするAIテックカンパニーへ、”課題解決国・日本”への転換の起点となるべく挑戦を続けていく。

質疑応答①「グループの総合力」でGAFA&BATに対峙する

--一昨年の経営統合の記者会見の際、GAFAや中国のBATなど巨大IT企業が接近していることへの懸念を示していた。コロナ禍の状況も踏まえて、どのように存在感を示していく考えか。

川邊 この1年、ヤフーもLINEも、それぞれのユーザーのために様々なサービスを展開してきた。そのなかで、日本においては我々のサービスの方が使われたり、日本に根差したやり方で支持されていると感じている部分もある。例えば、給付金のもらい方など、グーグルの検索結果よりもヤフーの方がわかりやすいといった声もある。

 今後、重要なのは2つ。一つはローカルに根差した対応力をより高めていくこと。もう1つはGAFAやBATよりも優れているのは、検索、EC、決済など、グループの守備範囲の広さだと感じている。グループの総合力を生かしていきたいと考えている。

出澤 統合発表から1年4ヶ月、コロナもありいろいろなことがあった。ユーザー視点だと、どこの会社が提供しているかというのは関係なく、便利であるかどうかが全てだと思っている。日本のユーザー、アジアのユーザーの不便に感じている点に真剣に向き合っていく。

—―ヤフーとLINEそれぞれの企業カルチャーをどう融合していくか。

出澤 志や競合の環境という意味ではヤフーとLINEは非常に似通っている部分が多いと感じている。一方で、細かいアプローチの部分については、良い意味で差異があると感じている。良いプロダクトを作っていく中で、そういったカルチャーの差異を生かして化学変化を起こし、新しい文化を作っていければなと思っている。

川邊 お互いに良い文化を持っている。尊重し合い、相互に理解した上でお互い良いものを取り入れて融合していく。19年にZOZOを買収したが、ZOZOにも良いカルチャーがあり、その時も良い化学変化があった。そういったことがLINEとの間でも起こることを期待している。

—―海外戦略について、サービスを融合・統合させたいわゆる「スーパーアプリ」化でアジアなどに出ていく考えはあるか。

川邊 まず「ヤフー」については、米ベライゾン社から提供されているライセンスは日本限定のもの。そのため海外に出ていく予定はない。ただしLINEについては、どんどん海外で身近なサービスをスーパーアプリ化していくことについては投資をしていきたいと考えている。

出澤 海外には海外のニーズがある。日本でうまくいっていることがそのまま展開できるわけではない。ただし、日本・海外それぞれの良いところを取り込むという側面では、今までよりも早く取り組めるようになると思う。海外展開はこれまで以上に加速していきたい。

—―AI人材を5000人採用とのことだが、新卒採用の内訳などに変更はあるか。

川邊 ソフトウェアエンジニア、データサイエンティストの採用を重要視している。中途採用でも世界からどんどん人材を招き入れたい。日本においては各大学の修士・博士といった方々を多く招き入れたいと考えている。22年度からは新卒採用も倍増させていきたい。

質疑応答②サービスの統廃合はユーザー価値や利便性を考慮し慎重に進める

—―経営統合による相乗効果について。相互送客、ポイント付与などに留まるのか、もっと先に目指すものがあるのか。

川邊 既存のヤフーとLINEサービスには、それぞれ既に多くのユーザーがいるが、使う層も異なっている。ヤフーは40~50代の男性、LINEは比較的若い女性が多い。

 考えられるシナジーとしては、相互送客やポイントプログラムの統合など、既存サービスを前提としたものが1つあるだろう。また、ユーザーから見たときに、2つ存在していることに意味がないサービスは一つにまとめることもある。未来に向けては、ヤフーとLINE、それぞれの人間が一つになって新しいサービスを生活の中に提供していきたい。

出澤 先ほど、ペイメントでは統合を進めると発表した。一番大事なのは、ユーザーにとって本当に便利かどうかということ。ユーザー価値を考えながら、統合するのか、別サービスとして残すのかはよく考えていかなければならない。統合によって、議論ができる環境がようやく整ったので、これから進めていきたい。

—―世界レベルで不足しているエンジニア人材の獲得策について。

川邊 AI人材の獲得については、世界各国の大学の研究室にいるような優秀な人材を招聘したりすることも増えると思う。口説き文句は「実世界であなたの研究は役に立つ」ということ。加えて、マルチビッグデータを活用することができる、様々なサービスから集めたデータを活用したAIをつくることができるという点も、魅力になるはずだ。

出澤 世界に向けてチャレンジすることを宣言し、やり続け、結果が出てくるというサイクルを回し続けることが魅力につながると思う。その意味で、今回の統合自体もチャレンジの1つだ。こういった姿勢が、企業文化やサービスに滲み出てくることで人が集まるきっかけになればと思う。

—―海外事業に関しての目標は。

川邊 ヤフーの場合、日本だけのライセンスだったため海外という考えがなかった。もっと海外の人々にサービスを使ってもらいたいと考え、ホールディングス化・海外進出の道をつくった。ラインは日本の中でも数少ない海外進出に成功している会社。まずはラインの力を借りて進出していこうという考え。

もう一つは、ソフトバンクビジョンファンドとのユニコーンとの連携。伝統的に我々はタイムマシン経営が得意である。PayPayもインドのモデルをよく学んだもの。AIを中心にしたユニコーンファンドの事業を日本に持ってきたり、全世界で一気にサービスを広げる手伝いも増やしていきたいと思っている。

出澤 2社で新しいことをやろうという文脈においては、一気にグローバルを目指したプロダクトを作っていきたい。

—―ガバナンスに関して。「対等」を重視した組織になっているが、対立したときに意思決定ができるのかという不安はないか。

川邊 対等経営統合の精神に基づいたガバナンスになっている。それぞれの文化を尊重しあって、手を取り合って一つにしていくためには、対等の精神が良いという思いでこうなった。

 もちろん、現実には乗り越えなくてはならない問題は多いと思う。そこを乗り越えるための共同CEO制度だと思っているし、決めきれなければ取締役会でしっかり決めていくということになると思う。日常の業務においては、私が最終的な決定権を持って進めていくことになると思う。

—―統合発表から今日までの約1年4ヶ月を通じて、ライバルからパートナーに変わってた中、どのような発見がお互いにあったか。

川邊 この1年4ヶ月はとても長かった。統合作業も進めながら、コロナ禍で困っている目の前のユーザーのためにも時間を費やしてきた。そのなかで私が感じたのは、LINEには社会課題の解決に突っ込む力があるということ。

 例えば、「ダイヤモンドプリンセス」号の中にiPadやスマホを持ち込んで、LINEドクターのサービスを提供した。もう1つは、LINEを介した全国一斉健康アンケート。ヤフーでも様々な協力を国に対して行ったが、LINEの持つ突破力やユーザーとの強力な関係性は素晴らしいと思っている。そこが、新たなデータの可能性を解き放つと考えている。上記のような取り組みで得たデータはヤフーにはないもの。ますます今後一緒にやっていくことについて期待している。

出澤 発見ということでは私は3つある。1つは、ヤフーは大企業でありながらスピードが早い。意思決定の早さ、物事を進めるスピードは見習わなければならないと感じた。また、どうやって社員やマネージャーが気持ちを通じさせるか、コミュニケーションのマネジメントの設計がとてもうまくなされている。1on1ミーティングの仕方一つとっても優れているし、役員間の情報共有の仕方、メンタリング、コーチングの仕組みなども最先端で、LINEではやりたくてもできなかったことをいち早く取り入れている。最後に、社員の皆さんのパッションが強さだ。

質疑応答その③広告・マーケティング・ECが成長の柱に

—―(すでに海外で成功している事例がベースとなった)タイムマシン経営的な取り組みが多いように感じる。世界に先駆けたサービスはいつごろ出るのか。

川邊 インターネットの世界は同時進行している。「どこからの発信」という話ではないのかなと思っている。その上で、我々のアセットとして、ユーザーにたくさん使ってもらえるサービスを優先的に作っていこうと考えている。ユーザーに使ってもらいたいと思って提供したサービスが、気づけば”日本発”だったね、という順番。21年度中にはそういったものも出していければ良いと考えている。

—―23年度に売上収益2兆円という目標を達成するためにどの分野をどれくらい伸ばしていくのか。

川邊 目標達成のためには、3年で数千億円引き上げなければならない。そのなかで強化する分野は、まずは広告とマーケティング。お互い強みのある分野で、相乗効果が出やすいと考えている。まずはここで大きく引き上げたい。もう一つはECで、LINEの強みを生かしたECサービスも取り入れていきたい。フィンテックも、どの程度まで貢献できるかはわからないが1つの軸として考えている。

出澤 ECはすでに現在も伸びている一方、広告領域では市場が大きくデジタル化が進んでいない。その意味で十分に伸び代がある領域だと思っている。フィンテックは戦略領域として、今後花開いてくるのではないか。

—―サービスの統廃合をどう進めていくか。

川邊 「プロダクト委員会」を新たに設置した。重要なサービスに関する重要な意思決定を議論・決定する場。ここでサービスの統廃合は話していく。

—―コンテンツ統合について、「Yahoo!ニュース」と「LINE NEWS」の統合も視野に入るか。

川邊 その予定はない。既に様々なサービスの統合について議論してきた。それぞれのユーザーがどういった使い方をしているかなどを検討した結果、2つのニュースコンテンツはユーザー属性がかなり異なっている。”混ぜるな危険”ではないが、棲み分けがはっきりしており、愛用されている”名物コーナー”もある。

—―事業統合に向けたこれまでの流れで苦労したことは。

川邊 統合を持ちかけたのはZHDからで、お互いキャッシュレス分野で切磋琢磨する関係だったが、統合した方が日本のキャッシュレス化の役に立つのではという気持ちがあった。コロナで直接会えないことも多かったが、オンラインで密に議論ができたことも返ってよかったな、と今では思っている。いよいよ本当に困難や苦労があるとすればこれからではないか。

出澤 これからが生みの苦しみのフェーズになると思う。実行フェーズを迎え、やってみたら難しかったことや、新しいサービス故の苦労が出てくるのはこれからだろう。

質疑応答その④フィンテック領域は2社での「総リーチ面積」を重視

—―GAFA、BATに対抗するにあたってエンジニアの確保以外の課題は。

川邊 資金力だ。海外プラットフォーマーは研究開発費が一桁違う。そういったものをいかに捻出していくかが課題なのかなと感じている。

—―フィンテックの領域での競合状況と今後について。

川邊 フィンテックに関しては重要なポイントが2つある。1つは、「ネット屋がやる金融事業」であるということ。もう1つは、PayPayの上ではマルチパートナー制でやっていくこと。どの金融事業者でもPayPayや「LINEウォレット」の上で事業を展開していける、一緒にやっていくことができる。ネット屋が金融事業をやることは国内ではあまり事例がないと思う。まずはそういった先行するユーザー体験を作り上げている会社を超えていきたい。
 LINEとヤフーそれぞれにパートナー企業がいる中では、ユーザーに対しての総リーチ面積が重要だと考えている。それぞれのサービスが存在していることで、ZHDとしてシェアが大きくなるということもある。

出澤 「PayPay証券」と「LINE証券」もユーザー属性が違う。銀行サービスも同様に属性は異なる。ユーザーからみて何が便利なのか、最大リーチをどうやって獲得するかという視点で棲み分けができると考えている。

—―人事制度について。2社合わせて連結で2万人を超える従業員数になる。現場レベルの人員の融合についてはどのように進めていくか。

川邊 ヤフーとLINEに関しては、人事制度についても共通化していきたいと考えている。採用に関しては窓口を一本化していく。ただし、急いでやりすぎると今までの働き方が変わってしまいかえって負担になる。時間をかけて共通化できるところはしっかりしていく。KPI(重要業績評価指標)としてはジョブ型、成果型を重視する。

出澤 従業員同士の連携については、重要事業のいくつかについては既にそれぞれのメンバーが合流して進めている。関連事業ごとに協業の場は増えていく。スタートの手応えとしてはうまく立ち上がっているのではないかと感じている。

—―スーパーアプリ化を志向する中で、中国の「WeChat」のような方向性を目指すのか。

出澤 スーパーアプリはLINE、ヤフーどちらの戦略でもある。単純にWeChatのようなものではなく、日本の事情に合わせて独自の進化をしていくと思う。

 ヤフーもLINEも、「利便性の追求」から始まっている。スーパーアプリは新生ZHDでもメーンの戦略になると思う。それぞれのサービスを自然な形でつなぎ合わせ、ユーザーにとってなくてはならない価値を提供できるものにしていきたい。

川邊 スーパーアプリは、生活に身近な異なるジャンルのサービスが、一つのアプリでシームレスに使えることだと理解している。ヤフー、LINE、PayPay、それぞれがスーパーアプリに発展していく可能性があると考えている。

 ただし、LINEはコミュニケーションツールというのがベースにあるため、そういった面を重視したスーパーアプリになるだおる。一方でPayPayは決済関連、ヤフーは情報取得と、それぞれ特化した形になっていくと思う。もともとあるサービスの特性を生かしながら、無理のない形で発展させていく。このように、3つものスーパーアプリ化にチャレンジができるのはZHDだけであり、強い信念を持って進めていきたい。