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【特別対談】小さくても勝てる!ネットスーパーの成功条件とは? スーパーサンシ高倉照和常務×10X矢本真丈CEOが徹底討論!(後編)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、需要が大きく伸びているネットスーパー市場。食品スーパー(SM)をはじめ、食品小売各社はこぞってネットスーパーの強化を急いでいる。ただ、慢性的な人手不足に起因する人件費・配送費の高騰や、ネットスーパー単体での収益化が難しい面もあるなど課題も少なくない。コロナ禍を経て急速な拡大フェーズに入った日本のネットスーパー市場は、今後どのように進化していくのか。そして小売各社はどのような成長戦略をとるべきなのか。その答えを探るべく、およそ40年前から食品宅配サービスを展開し、昨年から全国で同事業のフランチャイズ展開もスタートさせたスーパーサンシ(三重県)の常務取締役NetMarket事業本部長の高倉照和氏と、ネットスーパー向けのシステム開発を行う10X(テンエックス)社の代表取締役CEO・矢本真丈氏による特別対談が実現。後編では、ネットスーパーを安定運用する上での組織体制の在り方や、リアル店舗の持つべき役割について語ってもらった。
前編はコチラ


聞き手=雪元史章(『ダイヤモンド・チェーンストア』副編集長) 構成=松岡由希子(フリーランスライター)

※本対談は10月にウェブ上で行いました

ネットスーパーの売上は必ず店舗の成果にすべき

――ネットスーパー事業を運営するうえで、食品スーパー(SM)の組織体制そのものにも変化が求められますか。

高倉 もちろんです。経営者がネットスーパーを新たな収益基盤と位置づけ、きちんとやりきるとの覚悟を持ったうえで、店舗事業とネットスーパー事業を一体化させることが必要です。そのためには、業績評価において、ネットスーパーの売上を店舗の成果とすることも鉄則です。トップの本気度、店全体の一体感がネットスーパー導入の成否を決めます。

矢本 私はそれに加えて、社内での情報共有やコミュニケーションのデジタル化も必要だと感じています。われわれのようなデジタル業界の人間にとって、日常的なコミュニケーションにおけるチャットツールの活用や、既決事項を必ずドキュメント化して残すことは当たり前のことです。一方、店舗の現場では口頭でのやり取りや電話でのコミュニケーションがまだ主流ですので、この部分をデジタル化することで業務効率を上げることも必要でしょう。

日本のネットスーパーでは「店舗出荷型」が最適解

――お二人が考える、日本の消費者、あるいは社会環境に合ったネットスーパーの形とはどのようなものでしょうか

矢本 約40年前から宅配サービスを運営してきたスーパーサンシさんのような会社や、生活協同組合(生協)が基本的なロールモデルになると思います。人件費が比較的安く、店舗内のスペースに余裕があり、戸建て住宅が中心の地方では、そういったモデルが適しているでしょう。
 一方、都市部では、人件費が高く、店舗スペースに制約があり、中~高層マンションが多いといった事情に合わせて、オペレーションや仕組み、課金方法などを工夫する必要があります。たとえば、クックパッド(東京都)が運営する生鮮ECサービス「クックパッドマート」では、マンションの共用部分に専用の宅配ボックスを導入する取り組みを進めていますが、個人的にとても興味深い動きです。都市部では、ピッキングや配送などに要するコストを前提として収益モデルを組み立て、「時間に対して適正に課金する」というアプローチを採るのが一般的になりつつあるのでしょう。

スーパーサンシの高倉照和常務

高倉 付け加えると、配送は必ず自社で賄ったほうがよいと思います。根本的に、ネットスーパーの配送は委託方式ではまず採算が取れません。簡単なことではありませんが、自社で運営することが不可欠です。また、コストの一部をユーザーに負担してもらうことも必要でしょう。ちなみにスーパーサンシでは、宅配サービスに月額利用料を課すサブスクリプション方式を導入しています。

――物流のお話に関連して、今日のネットスーパーの配送手法は店舗出荷型とフルフィルメントセンター(FC)から広域に配送する方式に大別されますが、日本ではどちらが適しているとみていますか。

高倉 現時点で予見される市場規模を前提とすれば、日本では店舗出荷型で小商圏・高密度に展開するアプローチしか考えられませんね。店舗出荷型であれば、既存店を配送拠点として活用できるので初期投資も抑制できます。

矢本 ネットスーパーの配送拠点を店舗以外に設置することはすなわち、大量のユーザー獲得を前提とした固定費型ビジネスになるということです。ネットスーパーの需要が長期にわたって大幅に拡大し続ける国・地域ではFC出荷型が経済合理性に適う手段かもしれませんが、現時点では日本の大部分のエリアではその段階に至っていません。SMがネットスーパー事業を着実に成長させるためには、「店舗を中心としてどのように物流インフラを構築するか」が基本となるでしょう。

矢本真丈(10X代表取締役CEO)●青森県出身。東北大学大学院卒業後、丸紅にて資源投資業務、一般社団法人RCFにてグーグル(Google)とのイノベーション東北プロジェクト、株式会社スマービー(現・ストライプインターナショナル)にてママ向けEC・スマービーの責任者を務める。その後メルカリを経て、2017年6月に10Xを創業。

実店舗の重要性は不変も売場の姿は変わっていく

――ネットスーパーの市場が拡大するなか、SMの実店舗が持つ意義はどのように変わっていくのでしょうか。

高倉 店舗が運営されている商圏では、店舗のブランドが地域の消費者に浸透しています。店舗のブランド力を利用して、ネットスーパーでも商品を販売するというのが常道でしょう。つまり、店舗の売上にネットスーパーでの売上が上乗せされるという事業構造です。
基本的に、店舗とネットスーパーでは、客層が異なります。商圏内に競合店が出店すると、店舗の売上には多少の影響がありますが、ネットスーパーの売上にはほとんど影響がみられません。

矢本 店舗は消費者との距離を縮めてくれる存在です。食品という特性上、消費者は、馴染みがあり、信頼する購買チャネルから商品を購入しようとします。生活圏に店舗があれば、消費者がこれを認知し、店舗に出向いて実際に買物をして購買体験を評価したり、買って食べてみて商品の品質を知ることができます。ネットスーパーへのシフトが進むとしても、このような基本的な消費行動はおそらく変わることはないでしょう。

高倉 店舗はネットスーパーの物流拠点としても重要な役割を担います。将来的には、ネットスーパーの売上比率が店舗を上回り、「ネットスーパーで販売されている商品が店舗でも購入できる」といった買物スタイルに変わっていくかもしれません。

矢本 そうかもしれませんね。「ネットスーパーを展開するならば、実店舗を持つことが望ましい」のは、ほぼ結論として示されています。これまで店舗のみで展開していたSMが、店舗とネットスーパーの双方を運営するようになるという流れが今後も基本になっていくと思います。SMの店舗は、従来、来店客がセルフサービスで商品をピッキングするのに最適なレイアウトで設計されていますが、今後は、店舗での販売とネットスーパーの物流拠点としての役割を両立させることを想定して設計されるようになるでしょう。

――最後に、今後日本のネットスーパー市場において、お二人はどのような価値を創造していきたいとお考えですか。

高倉 日本各地の食文化を長年支えてきたのは、地域に根ざしたローカルSMです。地方での人口減少に伴い、ローカルSMの店舗事業を取り巻く環境がますます厳しくなるなか、ネットスーパーを新たな収益基盤として成長させることが求められています。スーパーサンシは、約40年にわたって培ってきた宅配サービスのノウハウを「ネットマーケット」を通じて積極的に共有し、ローカルSMのネットスーパー事業の持続的な成長をサポートしていきます。外資や大手のEC企業の攻勢からローカルSMを守り、彼らの地元に広がる“ネットスーパー商圏制圧”のお手伝いをしていきます。ネットの世界は“先取り総取り”の世界です。

矢本 小売企業がオンラインでも商売でき、消費者がオンラインでいつでも便利に買い物できる環境を整えることが10Xの役割です。ネットスーパー基盤サービス「ステイラー(Stailer)」は、ドラッグストア(DgS)やコンビニエンスストア(CVS)といった他の小売業態でも応用できるとみています。まずはネットスーパーでの導入実績を着実に積み重ね、より多くの小売企業から信頼される存在になりたいと考えています。

「ネットマーケット」について詳しくは http://sanshi.jp/
10Xの「ステイラー」について詳しくは https://stailer.jp/