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ECの売上を増大させるために必要な「トランザクション・モーメント」の活用法を解説!

ドイツ・ケルンで毎年開催される「DMEXCODigital Marketing Expo & Conference)」は、日本での知名度は決して高くはありませんが、ヨーロッパ最大のデジタルマーケティングイベントです。GoogleSalesforceShopifyなどのソートリーダーが集まり、未来のデジタルアジェンダを推進する場として知られています。今回は、DMEXCOのアンナ・パターソンとRoktの創業者兼CEOのブルース・ブキャナンとの対談から、ECでのポスト・トランザクション、すなわち買物直後の体験が持つ可能性についてご紹介します。

K-Angle/istock

トランザクション・モーメントとは

 2021年のDMEXCOのテーマは「新たなプライオリティの設定」でした。これは1年半以上にわたるパンデミックにより、デジタル変革の波を誘発し、消費者行動を完全に変え、あらゆる企業に新たな課題をもたらしていることに基づいています。

 オンラインにおけるカスタマージャーニーの最終段階において、消費者の受容性が高まり、関連性の高いオファーに対しエンゲージメント(※)を起こしやすい瞬間を「トランザクション・モーメント」と呼んでいます。トランザクション・モーメントがECの成長にとってなぜ重要なのか、そして、このタイミングでAIを活用し、パーソナライズされたメッセージやオファーを提示することが、どう価値向上につながるかについて、3つの主要ポイントを中心にご紹介します。

※広告やオファーなどに対する顧客のさまざまな反応。顧客との関係性の深さにつながる

購入完了直後をねらってアプローチ

 消費者にとって、デジタル環境はまだまだわかりにくい部分が多く、情報過多によるストレスも感じやすい空間です。また、消費者はインターネットを閲覧中、常に広告や販促オファーを目にしているため、マーケティングメッセージのほとんどを「聞き流す」傾向にあるのも事実。Goo Study社の調査によると、アメリカ人の82%がオンライン広告にはまったく目を向けていないことがわかっています。

 一方で、ある調査では、オンライン顧客層の平均86%が「購入完了のタイミングが一番ハッピーな気分になる」と回答しています。また、購入完了直後には「同じショップやブランドのオファーを受け入れやすい」と答えた人は27%、「新しいブランドや知らないブランドのオファーに興味を持つ」と答えた人は22%、「メンバープログラムへの登録に興味を持つ」と答えた人は20%となっており、お客さまとのエンゲージメント向上をめざすのであれば、購入完了直後はまたとない機会です。

図①オンライン上で幸せを感じる時間

 つまり、トランザクション・モーメントとは、お客さまの購買意欲とメッセージに対する集中力が最も高く、最も幸福感を感じているタイミングで消費者とつながることができる、企業にとっては見逃せないタイミングなのです(図①)。

 

ECでも顧客体験のパーソナライズが重要

 実店舗の場合、店員はお客さまの様子やニーズを伺いながら適切なサービスや顧客対応を提供することができますが、ECの場合、そういった個人的な購買体験は作り出しにくいもの。しかし、ECが大きく成長している昨今、オンラインストアもテクノロジーを駆使し、お客さまの購買体験をパーソナライズする方法を検討しなくてはなりません。

 成功しているEC企業は、実店舗と同じように、個客に最適なオファーを提供することを重要視しています。顧客体験のパーソナライゼーションは、エンゲージメント率およびコンバージョン率アップはもちろん、顧客ロイヤルティと満足度の向上にもつながります。

 DMEXCOでの対談でも、「顧客への対応を通じて価値を生み出すには、顧客へのパーソナライゼーションと関連性の向上に注力するしかありません」との発言がありました。フォレスター・リサーチ社の2020年報告書でも、適切なパーソナライゼーションを行うことで、企業は顧客の85%に対しLTV(顧客生涯価値)の向上が期待できる一方、適切なパーソナライゼーションができない場合、顧客の45%に購入中止やブランドスイッチが生じるとしています(図②)。

図②関連性の高いパーソナライゼーションがもたらすもの

 また、「選択のパラドックス」に関する研究では、消費者は選択肢が多すぎるとストレスを感じやすいことが指摘されています。多くの企業は、より幅広い製品やサービスを提供すれば、その業界のトップになれると考えがちですが、消費者行動に目を向けると実はそうではないことに気づきます。企業は消費者に対し、少数の厳選されたメッセージだけを発信すべき。だからこそ、その一つひとつがお客さまにとって関連性のあるものでなくてはならないのです。

 関連性の高いオファーでパーソナライズされた体験を提供することは、EC事業者にとって、1人ひとりのお客さまを大切にする企業の姿勢を示す方法でもあるのです。

テクノロジーとデータを活用する

 トランザクション・モーメントをパーソナライズする際の最大の課題は、リアルタイムで顧客データを分析し、そのお客さまにとって何が最適なオファーとなるかを瞬時に特定することです。それぞれのお客さまにとって最適なものは何か、そのお客さまのニーズに最も適したメッセージやオファーや製品は何か。お客さまのプライバシーを侵害することなくパーソナライズされた体験を提供するためには、機械学習を用いてお客さまの嗜好データをリアルタイムで分析・活用することがカギとなります。

 たとえば、Roktのソリューションは、AIと機械学習を活用してお客さまの嗜好を瞬時に分析。その情報を基に、そのお客さまがより興味を持ちやすいと推測されるオファーをパーソナライズして提示することができます。飛行機のマイレージ会員のお客さまに座席アップグレードを提案したり、以前から興味を示していたストリーミングサービスの無料トライアルを提供したりするなど、テクノロジーでパーソナライゼーションを簡易化し、顧客満足度を向上させることができるのです。

 事業における新たな優先目標を設定することは、最も大切な存在であるお客さまにあらためて目を向けることです。顧客第一の姿勢でパーソナライズされた体験を優先することが、トランザクション・モーメントを活用し、顧客満足度を確保しながら利益を上げる最善の方法です。