自社が保有するデータを資産として活用し、収益化につなげる「データ・マネタイゼーション」もDX(デジタル・トランスフォーメーション)の文脈で議論されることの多いテーマの1つだ。最近は、小売業が独自に保有するデータを活用して広告を配信する「リテールメディア」という新たなビジネスも注目を集めている。データ活用を中心とした小売DXの進捗について、本誌おなじみの有識者、ローランド・ベルガーの福田稔氏に聞いた。
国内小売のDXは業態間格差が鮮明に
ここ数年DXという言葉が取り沙汰されているが、国内小売のDXは業態によって差が出てきている印象だ。アパレルをはじめとしたEC化率の高い業態では、この3~4年でDXが進展し、オンラインとオフラインをつなぐOMO施策をすでに実践している。その中には、「クロスユース率」などをKPI (重要業績評価指標)とした、顧客体験の向上策を実施することで、売上増加につなげている企業も表れている。
他方、食品スーパーやコンビニエンスストア、百貨店のような伝統的な小売業はEC化率が低く、DXは想像以上に遅れている。言い換えれば、DXの余地がまだ残されているということでもある。
デジタルはあくまでも「イネーブラー」(成功や変革のための手段)なので、何を目的にデジタルを活用するかが重要となる。ビジネスモデル自体をデジタルの力で変革できるDXであれば、当然実行すべきだが、それができるのはひと握りの企業に限られる。
一方、すべての企業がやらなければいけないのは、デジタルを効果的に活用する「デジタライゼーション」だ。ビジネスモデルの効率化、コスト構造の強化、サプライチェーンの透明性向上、リードタイム短縮など、デジタルを活用することでしか実現できないことは多い。それらを着実に実行していくことが今後は求められるだろう。
立ちはだかる「規模」の問題
ただ、直近1年間を見ると、日本小売のDXも大きな動きを見せ始めている。その1つが「リテールメディア」だ。とくに伝統的な小売業は、大量のPOSデータや顧客データなどを取得可能な環境にある。これからはそうしたデータをリテールメディアのようなビジネスにどう落とし込むかがポイントになる。
世界的なCookieの規制強化の流れもあって、ウェブだけで販促をクロージングすることが難しくなっており、リテールメディアは相対的に価値を出しやすくなっている。ローランド・ベルガーでは、世界のリテールメディア市場は今後、年率約50%のペースで成長すると試算している。利益率の低さを課題とする日本の小売業にとって、リテールメディアは新たな収益源になるはずだ。
ただ、
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