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第2回 ヘルスケアDXにおける本質的課題とは

ヘルスケアのリテールDX

連載第2回となる本稿ではヘルスケアのデジタルトランスフォーメーション(DX)の本質に迫る。世界で見てもとくに高齢化が進んでいる日本では、デジタルを活用したセルフメディケーションの推進が必須となるが、どう進めていけばよいか。

DXの本質とは何か?

 本質とは「そのものとして欠くことのできない、最も大事な根本の性質・要素」である。多くの事象に当てはまる「よりどころ」とも言える。判断の「よりどころ」が明確だと、「判断基準」も明確である。「判断基準」が明確だと、どんな時でもブレない判断をして、行動することができる。

 したがって本質を明確にして共有できている集団・個人と、各自がバラバラな判断基準で行動する集団・個人のどちらがより成果を出すことができるかは明白である。

日本では国を挙げてセルフメディケーションを推進しているが、なかなか進まない

 経済産業省が公表しているDXの定義は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」である。ところが、日本経済新聞社が公開したドリーム・アーツ社の調査によると、大企業管理職の7割が「DXとデジタル化の違いを説明できない」と回答している。

 一因として、経済産業省の定義が長いということも考えられる。この文章を目的と手段に分解すると、本質が明らかになる。

 つまり、DXは「データとデジタル技術を活用して、製品・サービス・ビジネスモデルだけでなく、企業の仕組みや風土の変革をする」という手段をもって、「顧客や社会のニーズをもとに、競争上の優位性を確立する」という目的を達成する競争戦略である。

日本におけるヘルスケアの本質的課題とは何か?

 競争上の優位性を確立するためには、まずヘルスケアに対する日本社会のニーズがどこにあるかを知る必要がある。

 厚生労働省資料(国民医療費の概況)によると、2018年度の国民医療費は約43兆3949億円である。この内訳(以下、概算値)は医科30.8兆円(入院16.2兆円、外来14.6兆円)、歯科2.9兆円、薬局7.8兆円で95%超を占める。

 また、2017年度の厚生労働省資料において、65歳以上の医療費が25.9兆円、65歳未満が17.1兆円とあるので、およそ6割が高齢者の医療費にあてられていることがわかる。

 総務省統計局が公開している2018年の高齢者の総人口に占める割合によると、日本(28.1%)は世界で最も高く、次いでイタリア(23.3%)、ポルトガル(21.9%)、ドイツ(21.7%)と世界一の超高齢社会である。なお、65歳以上の人口が7%を超えると高齢化社会、65歳以上の人口が14%を超えると高齢社会、65歳以上の人口が21%を超えると超高齢社会と呼ばれる。

2018年の高齢者の総人口に占める割合(出典:総務省統計局)

 28%の高齢者に6割の医療費が必要になることからも、今後一層の高齢化が進む世界一の超高齢社会である日本では、国民医療費の高騰がより一層大きな課題となっていくことは確定的な未来である。

 国民医療費高騰を抑えるには①セルフメディケーション、②在宅医療、③オンライン化を含めた医療の効率化が必要となる。

セルフメディケーションは必要だが、進んでいない

 セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」(WHOの定義)である。

 国民皆保険制度により医療費の自己負担が軽い日本では、身体の不調を感じたときに医療機関を受診し、医師の指導のもとで治療を行うのが一般的であったが、軽い体調不良や怪我は、市販されている一般用医薬品を使って緩和・予防を行っていくという考え方である。日本が国としてセルフメディケーションを推進していく目的の一つは、医科外来医療費14.6兆円を圧縮していくことにある。また、医療用医薬品ではなく一般用医薬品が使われることで、薬局医療費7.8兆円の保険負担分を軽減することができる。

 ところが、セルフメディケーションは進んでいない。

 厚生労働省の薬事工業生産動態統計年報(令和元年)によると、医薬品最終製品の生産金額は9兆4860億円であり、そのうち一般用医薬品(要指導医薬品含む)の生産金額は8232億円で全体の8.7%にしか過ぎない。

 なぜ、セルフメディケーションは税制も含めた誘導がされているにもかかわらず進まないのだろうか。

 咳で困っている30代女性会社員がいたとする。この女性はいつも使っているECサイトで、「効能・効果」を見て自分で薬を選ぼうとした。ところがどれが自分に合った薬かわからなかった。結果として我慢をして、翌日医師の診察を受けた。

 また、別の人は自分に合った薬がわからずにテレビCMで見聞きしたという基準で咳止め薬をドラッグストアに行って購入した。結果として、咳は抑えることが出来たが、便秘の副作用に悩まされることとなった。

 一般用医薬品の鎮咳去痰薬は約360種類発売されている。ドラッグストア各社で扱っているのはそのうち50~100種類前後である。このうち9割以上の「効能・効果」には「せき・たん」と書かれている。50~360種類の中から自分の症状・体質に合った咳止め薬を選んでセルフメディケーションすることは簡単ではない。

 「セルフメディケーションを推進する」と国が宣言しただけでは、顧客や社会のニーズを叶えることができない。

 ではどうすればよいのか。実現案は第3回で記載する。