メニュー

年間40万時間の発注作業を一気に半減 ライフ全店で導入のAI自動発注システムの実力とは

ライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長:以下ライフ)は1月19日、日本ユニシス(東京都/平岡昭良社長)と共同で開発したAI需要予測による自動発注システム「AI-Order Foresight」を導入、2021年2月までにライフ全店で稼働を開始すると発表した。AI自動発注導入の効果や、今後の展開などについて、ライフ コーポレート統括担当課長の岸本裕之氏に話を聞いた。

日配品の需要予測が難しい理由

 ライフは発注作業に要する膨大な時間を削減するため、かねてより自動発注の拡大を検討してきた。実は2011年から既に、グロサリーのみを対象とした自動発注システムを使用していたが、このシステムは「商品が一つ売れたら一つ発注する」というようなシンプルな造りで、発注作業の難易度が高い日配品には応用できなかったという。

 日配品の発注の難しさの一つは、賞味期限の短さにある。グロサリーのように賞味期限が長いものであれば、多少在庫が余剰になったとしても問題ないが、数日〜1週間程度の賞味期限の商品が多い日配品ではそうもいかない。発注量の読み違えが損失に直結しやすいのだ。また、日配品の需要は気温や天候、季節、イベントなどの影響を受けやすい。加えて、たとえば同じ豆腐でも「商品Aが割引されているから、商品Bは売れ行きが悪くなるかもしれない」といった予測の織り込みや、「なんとなくいつもよりこの商品が売れているような気がする」という従業員個人の“肌感”が重要になってくる。

 こういった不確定な要素や複数の要素を勘案する“需要予測”機能を持つ自動発注システムは、日常的な調整を行うために統計などに関する専門的な知識が必須で、全店で広く導入することは非現実的だったという。

AI活用で「1SKU単位」で需要予測を最適化

 この打開策となったのが日本ユニシスの持つAI技術だった。日本ユニシスが既に開発していた需要予測エンジンは、専門知識が必要な日々の調整を人に変わってAIが行うというもので、この技術をベースにライフと共同で開発した自動発注サービスが「AI-Order Foresight」だ。

 大まかなイメージとしては、あらかじめ気象データや過去の売上データをAIに学習させ、統計解析を実施。販売予測モデルを複数の方法で算出し、実際の売れ行きによってAIがモデルの再作成を自動で判断・実施するというものだ。どのモデルを選択するか、切り替えるかどうかは、各店舗・1SKUごとにAIが自動で判断し、最適化しているというから驚きだ。

発注システムの画面イメージ

目標は年間40万時間の発注作業を半減

 従来、日配品の発注作業には、一店舗・1日あたり4時間、ライフ全店では年間40万時間という膨大な時間がかかっていたが、AI自動発注の導入によって一店舗・1日あたり2時間程度、全店では年間25万時間まで短縮できたという。ライフでは、年間20万時間までの削減を目標としているが、「目標まであと一息」(岸本氏)のところまで既に到達している。

実際に店舗でAI自動発注システムの管理を行う様子。導入によって作業時間は半減した

 さらに、AI自動発注が削減するコストは他にもある。これまでライフでは、従業員が独立して発注作業を行えるようになるまで約1年の教育期間を必要としていたが、これも不要になった。また、従業員個人の“肌感”が重要ということは、裏を返せば個人による“ムラ”が大きいということでもある。作業の質を均一化する、という面でもAI自動発注は役立っている。

 導入後の成果について岸本氏は「欠品や廃棄が増えたということはなく、逆に『(欠品や廃棄が)何%減った』というような華々しい成果があるわけでもない」と話す。しかし、従来から精度の高い人力発注を行ってきたライフとしては、これは期待通りの結果といえる。

AI発注導入で目指すのは「顧客満足度の向上」

ライフコーポレーション コーポレート統括担当課長 岸本裕之氏

 実はライフがAI自動発注導入で狙うのは、コストの削減ではなく「顧客満足度の向上」だ。導入によって余剰になった人件費は削減するのではなく、浮いた人時をお客への細やかな対応や売場づくりへ振り向ける。売場の魅力を上げ、売上を引き上げることでシステムの導入にかかったコストを回収する方針だ。従業員をより付加価値の高い業務に集中させ、また負担の大きい発注作業から解放することで、働き方改革につなげたい考えもある。

 今後の自動発注の拡大について、「一部の生鮮食品での導入を検討している。加工肉などに限定すればさほどハードルは高くない」と岸本氏。また、現時点では各店舗での作業時間削減が主眼になっているが、今後は全店導入の強みを生かし、サプライチェーン全体の効率化にも取り組む構えだ。