JR山手線では49年ぶりとなる新駅として3月14日に開業した「高輪ゲートウェイ」駅改札内に、AI無人決済店舗「TOUCH TO GO(タッチ・トゥ・ゴー)」が23日にオープンする。完全キャッシュレス・ウォークスルー型の店舗が、駅ナカという誰もが利用する場所で一般営業を行う事例は日本ではまだ少ない。開業に先立ち、報道関係者向けに公開されたTOUCH TO GOの全容をレポートする。
コンビニサイズで約600アイテムを販売
3月14日、JR山手線・京浜東北線の田町~品川駅間に開業した高輪ゲートウェイ駅。一風変わった駅名やその決定プロセスに疑問の声があがったほか、駅名標のフォントが「明朝体」だったことに賛否両論が巻き起こるなど何かと注目を浴びたことで知られる。
そんな高輪ゲートウェイ駅に23日にオープンする予定なのが、無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」だ。店舗面積はコンビニサイズの約60坪、営業時間は6時から24時で、弁当・総菜、菓子、飲料、雑貨など約600アイテムを揃える。
「無人AI決済店舗」が意味するところは、わかりやすく言えば「ウォークスルー型の完全キャッシュレス店舗」である。キャッシャーが立つレジは存在しないが、完全無人というわけではなく、品出しや発注・在庫管理を行うスタッフが1名程度常駐する。加えて、開業後しばらくは利用方法の案内や誘導を行うスタッフも店頭に立つ予定だ。
約50台のセンサーカメラが利用客の動きを追跡 酒類の販売も可能に
TOUCH TO GOの利用方法は次の通り。利用客は入場ゲートから店内に入って欲しい商品を手に取り、出口付近にある”決済ゾーン”に立つと、ディスプレー上に選んだ商品と合計金額が自動で表示される仕組みだ。決済手段は今のところ交通系ICカードのみだが、今後クレジットカードや電子マネーにも対応する予定だという。
利用客や商品の動きは、入店ゲート付近や天井部に備え付けられた50台のセンサーカメラや商品棚に設置した重量センサーなどで認識する。たとえば商品をそのままバッグに入れた状態であっても、決済ゾーンで自動的に合計金額が表示される。
さらに特筆すべきが、年齢確認が必要となるために、この手のレジレス店舗では難しかった酒類の販売を実現している点だ。酒類を手にとった利用客が決済ゾーンに立つとバックヤードに通知され、スタッフがカメラを介して確認を行う。ややアナログなシステムではあるが、これによって酒類も「ウォークスルー」で購入できるようにした。なおタバコについては取り扱っていない。
「専用アプリが不要」という圧倒的な利便性
全体的な利用フローは、米アマゾンの「アマゾン・ゴー」に似たものと言えるだろう。しかしTOUCH TO GOの場合、「交通系ICカードをスキャナーにかざす」というプロセスが存在する。そのため厳密には、アマゾン・ゴーが掲げるような「Just Walk Out(商品をとってそのまま退店できる)」という買物体験を得られるわけではない。
一方で、TOUCH TO GOならではの利便性もある。それはアプリをあらかじめダウンロードする必要がない点だ。アマゾン・ゴーや、中国で一時期増殖したいわゆる「無人店舗」では専用アプリが必須で、アプリの画面上に表示されたバーコードをかざして入店、精算は店を出ると同時にアプリ上で完結するという仕組みが一般的だ。商品を手に取って出るだけ、という圧倒的な利便性と斬新な買物体験は得られるものの、アプリをダウンロードしてクレジットカードや銀行口座を登録するという手間があるほか、そもそもスマートフォンを持っていない、あるいは信用上の問題などでクレジットカードを所有できない消費者は“門前払い”されることになる。
しかしTOUCH TO GOは交通系ICカードを持っていれば誰でも利用できる。JR東日本の関係者によると「首都圏のJR利用客の9割方はICカードで改札を通過している」とされ、そこから考えるとTOUCH TO GOの利用ハードルは低いと言えるだろう。お客の利便性という部分にフォーカスすればこの点は大きなポイントだ。
月額制のサブスクリプションモデルで外販も予定
TOUCH TO GOを運営するのは、JR東日本グループのオープンイノベーション拠点であるJR東日本スタートアップ(東京都/柴田裕社長)と、AIを活用したイノベーション事業を展開するIT企業のサインポスト(東京都/蒲原寧社長)の2社が設立した合弁企業TOUCH TO GO(東京都/阿久津智紀社長)だ。
JR東日本スタートアップとサインポストによるAI無人決済店舗の実験は17年11月にJR大宮駅(埼玉県さいたま市)で、18年10月から12月にかけてJR赤羽駅(東京都北区)でそれぞれ行われており、それらの取り組みが高輪ゲートウェイ駅のTOUCH TO GOの店づくりのベースになっている。
TOUCH TO GOの阿久津社長は、「将来的にはJR東日本グループが展開する小売店や、人材不足に悩む飲食店や地方の小規模小売店などにシステムを提供していきたい」と話す。具体的には月額約80万円~のサブスクリプションモデルで、システムの外販に乗り出す考えだ。
ただ、現状のTOUCH TO GOもまだ完成形に至っているとは言えない。スペック上は一度に入れる人数に制限はないものの、実際には1カ所に多くの人が集まったりした場合、手に取った商品を認識できないケースも想定されるという。また、各商品の消費期限はバックヤードのスタッフが目視で管理しており、万一お客が期限切れの商品を購入しようとした場合、決済ディスプレー上でエラーが通知され、お客自身が売場に戻って商品を取り替える必要があるなど課題も残る。さらに品揃えについても実際の利用動向を分析しながらブラッシュアップしていかなければならない。
このように解決すべき課題はいくつかあるものの、完全キャッシュレスかつウォークスルー型の小売店舗が一般営業しているケースは未だ“希少”な存在だ。その意味でTOUCH TO GOはどのような顧客層にどのように利用されるのか、最適な商品構成はどういったものなのかなど、注目すべきポイントは数多あるだろう。
■店舗概要
開業日:2020年3月23日
所在地:JR山手線・京浜東北線「高輪ゲートウェイ」駅構内
営業時間:6:00~24:00
アイテム数:約600