すっかりバズワードとなった「メタバース」。メタバースの浸透は、小売業の経営にどのような変化をもたらすのか。また、小売業はメタバースによって何ができるようになるのか。小売業をはじめとした企業の経営コンサルティングに多数の実績を持つ、フロンティア・マネジメント(東京都)の専門家が解説する。
広義のメタバースと狭義のメタバース
メタバースとは、ユーザー体験の点では広義には「3次元上に再現されたバーチャル空間」をいい、狭義にはそのうち「とくに没入感があるもの」を指す。たとえば、一般的なロールプレイングゲームのように、スマートフォンやPCの2次元画面上で3次元空間を探検したり、コミュニケーションをとったりするものは広義のメタバースに分類される一方、VR(仮想現実)ヘッドセットを装着してリアルと同様の解像度や身体感覚を得、まるでその場にいるかのような臨場感にあふれる体験や没入感のある世界観を楽しめるものが狭義のメタバースである。
フロンティア・マネジメントのマネジメント・コンサルティング部門経営改革推進部でシニア・ディレクターを務める佐久間祐綱氏は「購買体験という点でインパクトがより大きいのは狭義のメタバース」との見解を示したうえで、「コロナ禍により社会が変容する中でも、リアルな場へ出向く代わりにメタバースで体験することを消費者が受け入れるかどうかがポイントだ」と指摘する。
狭義のメタバースはまだ発展途上にある。佐久間氏は「技術の進化によってリアルな視覚・聴覚・触覚を再現する機器が生まれ、コストの低減に伴って誰でも利用できるようになれば、大いに可能性がある」と分析し、「企業が今のうちにメタバースに向けて動くことは重要だ」と説く。
リモートワークの普及や買物のオンラインシフトなどコロナ禍を機に、消費者の行動様式は一変している。企業が新しい世界にどのように対応し、どのような変革をめざすのかは、社内・社外双方の戦略として重要だ。佐久間氏はそのアプローチとして「このタイミングで自社のブランディングや企業メッセージを整理して明確化し、顧客にきちんと伝えることからスタートすべきだ」とし、「メタバースは、顧客と接点を持ち、ブランドや企業メッセージを伝えやすくする先鋭的で効果的な手段」とメタバースの優位性を挙げる。
メタバース上での購買は実現するのか
とはいえ、現時点において、メタバースを直ちにビジネスと結び付け、収益を上げている企業はごく一部に限られている。投機目的で購入されるNFT(非代替性トークン)やアバター用デジタルアイテム、投げ銭方式のライブチャットといったデジタルコンテンツに比べて、リアルな商材の販売はまだ限定的だ。
佐久間氏は、メタバースで販売されるリアル商材は
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