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3つの“神コスパ”で日本初上陸、韓国トップバーガーブランドの戦略

韓国ナンバーワンのバーガー & チキンバーガーブランド「マムズタッチ」が4月16日、日本初上陸した。本拠地・韓国では店舗数1421を誇り、ロッテリアを超える。最大の強みは、神コスパと評される商品力だ。チキンバーガーは不毛の地といえる日本市場。成功事例が多いとはいえない中、どんな戦略で挑むのか。マムズタッチジャパン(東京都)代表取締役のイ・ギョンミン氏に聞いた。

ギリギリまで検討された提供価格

ハンバーガー全6種のほかチキン3種にサイドメニュー(ポテトなど)がラインナップ

 「『渋谷マムズタッチ』は、マムズタッチが海外で初めて披露する直営1号店だ。渋谷は流動人口が多く、新しいことに関心の高い若い世代が多く訪れる場所。韓国文化に対する受容度の高い新大久保地域への出店も考え考慮できたが、単に『Kフード(KoreaのK)トレンド』に便乗せず、大衆的な日本のお客さまを対象として、味と品質だけで認められるブランドに成長したいと思い、日本市場全域で認められるための最適なはじまりの場所として渋谷を選択した」

 海外マーケット進出の最初の一歩を日本市場としたイ氏の回答には、自信がみなぎっていた。

 同ブランドが韓国ナンバーワンに上り詰めた最大の強みは、“神コスパ”と評される商品力にある。顎が外れそうになるボリューム、注文後に調理する妥協なき質へのこだわり、味と量を凌駕するリーズナブルな価格。この3つが発祥の韓国で高く評価され、一気に店舗数を拡大した。

 市場が日本に変わっても、やることの根本は変わらない。それだけ商品に自信がある裏返しだ。

サイバーガー

 今回、日本市場進出に際し、“神コスパ”のキーとなる提供価格はギリギリまで検討され、看板商品のチキンバーガー「サイバーガー」が単品520円、セット850円となることが11日、発表された。これは渋谷内のライバルハンバーガーチェーンの類似主力製品(MCDビッグマック 単品530円)と比べると、わずかだが安い。 ここに特有の圧倒的なボリュームと注文直後に売場で製造する品質を勘案すれば、価格競争力はそれ以上だ。

 イ氏が補足する。「コスパというのは単に価格が安いことだとは考えていない。おいしさを実現したうえで、それに十分見合った価格を提供するのがなによりも重要というのが我々の考え。そのために調理人のクオリティから妥協せず、またコストにおいても、他社がマーケティングにかける分を、品質のために使っている」

 イメージ先行になりがちなファーストフード業態で、徹底して品質にこだわる同社。それこそが同社が競合と異なる部分であり、ストロングポイントとなっている。だからこそあえて、日本一号店の場所を渋谷に選んだ。そう考えれば、同社の日本進出は満を持してのものだったと、容易に想像がつく。 

日本市場にどこまで食い込めるのか

店舗前には行列が並ぶ

 とはいえ、日本市場にフィットするハードルは決して低くはない。なぜなら、日本における大手ハンバーガーチェーンの牙城は強固で、これまでも新参組の多くが苦戦を強いられてきた歴史があるからだ。

 直近では、鳥貴族のトリキバーガーが大苦戦を強いられたばかりだ。鳥貴族のブランド、十分な商品力、抜群の立地、社長の肝いりでスタートしたプロジェクト。だが、現在は2店のみの営業に留まっている。なにより、閉店した1店舗は、今回、マムズタッチが出店する渋谷だった。激戦区であり、シビアな消費者が多いだけに、鬼門での1号店出店はリスクが高そうだが…。

 この点については、同社は昨年11月にポップアップストアで大成功をおさめており、事前リサーチは完了済みだ。さらにグランドオープンから1週間分の予約人数は3日で5600席が完売、滑り出しはパーフェクトといえる状況だった。また、グランドオープン以来40日余りで累積顧客10万人、売上高1億円を達成。 「これは日本国内のQSR(Quick Service Restaurant)の主要フランチャイズブランドである日本マクドナルドの店舗別月売上平均2,173万円と、日本KFCの店舗別月売上平均1,228万円をそれぞれ3倍と5.4倍上回る数値」とイ氏。 オープン初期とゴールデンウィーク連休以後、オープン7週目に入った現在までも一日平均訪問客数2500人を着実に維持し、日本国内のフランチャイズとしては異例的に売場前の常時待機が続いている。 1日平均のテーブル回転率も、フランチャイズ業界の平均を大きく上回る10回あまりを記録しているという。

 「ポップアップで顧客を満足させた経験が口コミで広がり、1号店の興行につながったのではないかと思う。また、日本国内のバーガーブランド製品40種余りに対する比較テスト以後、日本顧客を対象に数回にわたり消費者テストを行うなど、日本顧客の味覚をつかむために努力する一方、高品質製品を合理的な価格で提供し『コスパ』を重要視する日本顧客に期待以上の満足感を与えたと分析している」とイ氏は続ける。

 4月に来店者を対象に実施したアンケート調査では、96%以上が「再訪問意思あり」を、75%が主要再訪問理由として「既存の日本内QSRブランドで経験できなかった味」を挙げた。このようなマムズタッチ製品とブランドに対する高い顧客ロイヤルティはレビューにもつながり、グーグルレビュー評点4.6、顧客レビュー数は1300件を突破した。

出店計画では「ローカルを大事にしたい」の真意

渋谷マムズタッチ1階カウンター

 では、ファーストステップを経て、店舗数をどこまで増やせるのか。同社は、出店計画について「現時点は検討段階」とするものの、出店イメージについて次のように明かす。

 「出店場所は、日本の“ローカル的な所”も大事にしたいと思っている。理由は、日常の中で愛されるブランドになりたいから。愛されて、もう 1 回食べたいとリピートされるようなブランドにしていきたい。そのため、シェイクシャックさんのように繁華街に絞るつもりはない」

 スタート時は、韓国での人気メニューを軸に展開するという同社。だが、なにが求められているかをじっくり観察しながら、日本人の好みに合わせた限定メニューなどもチョイスし、日本市場向けの提供メニューを最適化していく。

日本進出の最上位は「愛されたい」という想い

代表取締役のイ・ギョンミン氏

 イ氏は最後に、「成功したい」と日本市場での意気込みを明かしたうえで、次のように熱い想いを口にした。

 「ビジネスとして成功させたいが、それは決して野心的な意味合いではない。そうではなくて、愛されたい。我々の製品を日本の方に受け入れてもらって、愛してもらいたい。それが私にとっての最上位にある想い」

 日本経済は長いデフレから脱却の兆候がようやく見えつつあるものの、依然、消費者はコスパに敏感だ。神コスパの触れ込みで上陸したが、「その通りだ」と日本の消費者に実感してもらえれば、マムズタッチの今後は明るいものとなりそうだ。