スーパーで寿司を買おうと総菜売場で選んだら、あれ? 魚の売場にもある・・・。 そんな経験はありませんか? スーパーで寿司といえば総菜売場にあるものですが、鮮魚売場にも寿司を並べる店が増えています。総菜にあれば総菜部門、鮮魚のものは水産部門と、作る部門が異なります。それぞれの寿司に、もちろん違いはあります。顧客にとっては寿司のバラエティが広がり、選ぶ楽しみが増える? しかし良いことだけではありません。店にも顧客にも、総菜寿司と鮮魚寿司の並立にはあちらを立てればこちらが立たない・・・そんなジレンマが伴います。
水産部門が迫られる変化対応
店にとって第一に問題なのは、両部門で寿司がカニバリすることです。合わせて寿司の売上が伸びればよしとしよう・・・。そのあたりが妥協点でしょうか。総菜とカニバリしたとしても水産で寿司をやらねばならない事情が、ジレンマの1つです。そうせずにはいられないほど水産部門の売上シェアは落ちています。
日本チェーンストア協会(JCA)の暦年統計によると、2006年まで水産の売上構成比は精肉を上回っていました。下記のグラフにあるように、翌07年に畜産・総菜に並ばれ、以降は離される一方です。なお、JCAの統計は衣料・住関連を扱う総合スーパーが含まれていますので、各部門の構成比は低く出ています。
食品スーパーの業界3団体による統計も傾向は同じです。2018年の調査によると、売上構成比は畜産が11.4%、総菜が10.1%であるのに対し、水産は8.6%です。「魚離れ」や「生鮮素材から総菜へ」という長期トレンドを裏付けています。
十年来の変化はそれなりに劇的で、水産がもっと強かった頃に比べ、過剰になってしまった設備や人員体制をなんとか活用しなければなりません。新しい売上を創出するカテゴリーが必要で、そのために寿司が注目されるようになりました。魚離れでも寿司の人気は不動ですし、即食できる簡便ニーズにマッチした商品でもあるからです。
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ネタをとるか、シャリをとるか、それが問題だ
総菜と水産では管理温度が違う
総菜と水産では、寿司の管理温度が異なります。そのことがさらなるジレンマを生み出します。管理温度はチェーンによってバラつきもありますが、総菜寿司を陳列するショーケースは10℃前後、水産部門の寿司は3〜4℃以下が一般的です。
水産部門の寿司は、刺身として販売するために仕入れた素材をネタにすることが多く、店内でさばいて商品化する結果、刺身と同じ管理温度になります。水産部門の寿司を「魚屋の寿司」とうたうのは、ネタの良さをアピールしているのです。
一方、総菜の寿司ネタは仕入れルートが異なります。一概に質の良し悪しは決められませんが、家庭用に販売する鮮魚に比べると仕入れ価格は下がります。
総菜寿司のこだわりは、寿司としての完成度といったらいいでしょうか。水産部門で寿司はやらないと断言するチェーンも少なくありません。その理由は決まっていて、「シャリがまずくなるから」といいます。冷蔵庫で冷やしたご飯をそのまま食べるようなもので、考えてみれば外食でシャリが冷えた握りを出す寿司屋なんてありません。
性質の異なる2つの寿司、店側からすると次の問題に直面します。寿司の売場は2つに分かれていていいのか、1つに集約すべきか、です。違いを明確にするために2カ所に離した方がいいという考え方もあれば、1カ所にまとめた方が顧客は選びやすいという考え方もあります。
販売実績からも、どちらがいいとは断言できないようです。同じチェーンでも店によって2つに分けたり1つにまとめたり、結論は出にくいようです。また、1カ所にする場合、管理温度が違うためショーケースを別にする必要もあります。異なる部門間で売場をどう管理するかという問題もあります。これらはジレンマとは違いますが、悩ましい問題です。
ネタを取るか、シャリを取るか
購入客にとってのジレンマは、管理温度の違いで性質の異なる寿司をどう選ぶかです。ネタの良さを重視するのか、シャリを含めたトータルバランスを大事にするのか、これは問題です。
水産部門の寿司は、ネタを前面に打ち出して進化しています。旬の素材や、珍しい魚種を使ったり、タレに漬け込む手仕事を加えるなど、気の利いた握りが増えてきました。チェーンの自由裁量が大きいという印象です。
それでは総菜寿司はネタで劣るかというと、繰り返しになりますが一概にそうとは言えません。何よりも握り寿司は、刺身ではなく、おにぎりでもない、寿司です。取り組み次第というか、チェーンによって力量の差を感じます。
総菜部門と鮮魚部門、それぞれの違いを踏まえた上で商品開発をして欲しいですし、購入する側も違いを理解した上で選びたいものです。あちらを立てれば、こちらが立たずではなく、こっちも食べたいが、あっちも食べたい・・・。そんな幸福なジレンマに陥りたいものです。