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新生小田急百貨店新宿店が、売場面積8割減のなか、模索する百貨店の進化形とは

新宿駅西口地区開発計画の進捗に伴う「小田急百貨店新宿店」本館の営業終了を受け、新宿西口ハルクの6フロアで小田急百貨店新宿店が今秋リニューアルオープンした。売場面積が8割縮小となり、制約も多い中で、「私のお気に入りがある店、行きたくなる場所」を目指し、店舗を設計。リニューアル後の売場構成を踏まえながら、同社の戦略や今後を展望する。

主軸は食品、化粧品、ラグジュアリーの好調3カテゴリー

地下1階の和洋菓子売場

 新宿駅の象徴の一つだった小田急百貨店新宿店本館の代役を担う、新宿西口ハルクの小田急百貨店新宿店。客層は、東口とは異なり、周辺で働くビジネスパーソンが主流だ。

 そうしたエリア特性を踏まえ、改装におけるテーマは「Smart(スマート)」に設定された。こざっぱりとして、洗練された空間つくりを意識したわけだ。

 中心のカテゴリーは、「食品」「化粧品」「ラグジュアリーブランド」の3つ。

 象徴的なのは、食品と化粧品を地下1階のワンフロアで展開していることだ。新宿周辺で働く女性を想定ターゲットにしており、買い周りのしやすさを考慮した個性的な配置だ。

 ラグジュアリーブランドは、コロナ禍でも売上を伸ばしており、限られた売場面積の中で、収益性を重視し、力を注いだ形だ。特に時計ブランドは、時計売場からグランドフロアに移設するほどの力の入れようで、同社の戦略が透けてみえる。

 またハルクといえば、ゴルフを筆頭にスポーツカテゴリーが特徴的だったが、売場面積の縮小で、アイテムを厳選。ゴルフウエアを9ブランドで展開し、常連客のニーズをカバーしつつ、商品力で新規の顧客にも訴求する。

アパレル“撤退”は苦渋の決断

 売場面積が大幅縮小となる中、新宿小田急としての特性を全面に主張するフロアづくりとする一方で、アパレルカテゴリーはごく一部の扱いのみで、実質的に消滅。

 この点について小田急百貨店は「限られたスペースでは満足いただける展開ができないことから、なくした」と苦渋の決断だったと明かす。

 売場スペースが新宿本店の2割程度となり、選択と集中を余儀なくされる中で、売れ筋をより伸ばし、低調なカテゴリーを縮小する現実的な判断が下された形だ。

 一方で、リアル店舗ならではの価値提供を図るべく、イベントスペースやポップアップスペースを開設するなど、コンパクトながらも質にこだわり、ショッピング空間としての満足度キープには、余念がない。

 百貨店らしさ満載だった本館に比べれば、ボリューム感の側面では寂しさは否めない。だが、その不足分を補うべく、強化されたデジタル化はチャレンジングだ。

デジタル強化で、物理的後退を補完

7階ギフトサロンの商品展開

ECでは、本館で取り扱い終了となったアイテムを強化するとともに、リビング雑貨も拡充。来店せずに店頭の商品を注文できる「リモート注文」サービスでは、「町田店」の対象売場を広げ「ふじさわ店」の一部も組み込むなど、物理的な要因で扱えなくなったアイテムをデジタルの活用で補完する。

7階に開設したギフトサロンもECと連携。従来展開していた冠婚葬祭などのフォーマルギフトだけでなく、カジュアルなギフトアイテムの品揃えを増やし、「eギフト」商材も提案。商品ごとにQRコードを設置してECへの誘導を図り、商品の詳細やストーリーをEC上で紹介、購入もできるなどOMO(オンラインとオフラインの融合)化を推進する取り組みを行っている。

さらに、6月よりLINEの新システムを導入。アンケートデータやLINE内の行動データを収集することで、顧客動向を分析。デジタルを最大限に活用することで、ターゲット顧客の特徴や興味にあわせたコンテンツの配信にもつなげ、顧客満足度を落とすことなく、店舗全体のサービス品質の維持向上に努める。

創業の地での挑戦で新生小田急へ

新宿店外観

 同店は本館建て替えによる代替営業という位置付けだが、新ビルでの営業再開は未定という。その行く末は当然、代役を担う新宿西口ハルクの状況次第ということになる。

 ハルクは、昭和37年に小田急百貨店新宿店が生誕した地。その場所で、60年の時を経て、惜しみなく投下されるさまざまな取り組みは、百貨店業界が長年抱える課題解消も見据えている。ある意味、運命的な巡り合わせとなる代替営業が、新生小田急への脱皮につながるのか

 まずは、中心となる「食品」(小田急エースでの展開を含む)「化粧品」「ラグジュアリーブランド」カテゴリーで2019年度の水準を目指し、心機一転、邁進する。