シャープは昨年10月に大阪・堺市に液晶ディスプレーの新工場である堺工場を稼働させ、第10世代のマザーガラスを使って液晶ディスプレーや太陽電池パネルの生産をスタートしている。畳5枚分もある大型のマザーガラスを使い、最新の設備で生産することで大型パネルの生産がより低コストで行えるようになった。そして市場が拡大しつつあるデジタルサイネージ分野にもこの大型液晶パネルの展開を始めている。
調査会社によれば2009年のデジタルサイネージ市場は613億円。パネルなどハードウェアが半分強を占め、コンテンツやソフトなどが半分弱という比率になっている。それが15年には1兆円超の市場になると予想しており、インストアサイネージも大幅に伸長する見込みになっている。
デジタルサイネージは、電車の運行情報や天気予報などに代表されるような情報表示機能のほかに広告媒体、販促機能、ブランドイメージなどを演出する演出映像を提供する機能がある。小売やメーカーがデジタルサイネージに期待するのは、消費者はテレビやインターネットで新製品の情報を知り、移動中にも携帯電話などで新製品情報を確認し最終的には店頭のサイネージで後押しされて商品を購入するという販促効果。
広告媒体としては、従来のポスターは掲出される場所は決まっており、1社のポスターしか貼ることができない。しかも掲出期間が決まっており、撤去する際には一斉に行わなければならず、掲出場所が1000カ所にもなれば、掲出・撤去の作業にも人手がかかる。それがデジタルサイネージになることで、朝昼晩といった時間帯または天気によって表示する内容を変更したり、掲出期限が来ても配信を止めれば済むというオペレーションの省力化が図れる。加えて複数社のコンテンツを切り替えて表示できるので、1カ所のスペースを同時に複数社が使えることで広告宣伝コストの削減という効果も出てくる。また、ホームページなどで利用しているデジタルデータの再利用も可能になる点でもコスト削減効果がある。
技術的にもディスプレーが大型化して注目度が上がっただけでなく、量産効果でコストが削減されている。今回のフォーラムには60インチのパネル3枚を縦にして並べたディスプレーを紹介しているが、従来は108インチでシステムを構築すると1000万円程度かかったものが300万円程度まで安くなってきた。パソコンも高性能で低価格化しパッケージソフトの利用でコンテンツ配信も容易になった。
シャープはディスプレーだけでなく、コンテンツ制作から番組登録、スケジュール登録、番組配信、状態監視など一連のデジタルサイネージに必要な機能をパッケージ化したソリューション「e-Signage」を提供している。静止画や動画などデジタルサイネージで表示する画像を自由に表示枠に貼り付けるだけのインタフェースを備え、誰でも簡単にコンテンツ制作を可能にした。サイネージを配信するソフトも、スタンドアロン版から100台程度まで配信できるネットワーク版、さらに1000台クラスのサイネージに配信する「e-Signage Pro」まで目的に応じて揃えている。さらに、コンテンツ配信をBPOで代行するビジネス「e-Signage EM」を提供している。
これまでのデジタルサイネージは、パソコンやOSの設定に時間を取られたり、パソコンやスピーカー、ネットワーク機器を接続するケーブルの処理が必要だったりした。シャープが提供するディスプレーの新ライン「E-series」は、パネルの後部にインタフェース拡張ボードを搭載し多彩な機能拡張を実現しているだけでなく、サイネージコントローラを格納する部分も設けている。これにより高速無線LAN環境下ならば電源があれば、ディスプレー本体を設置するだけで、ネットワークでコントロールされたデジタルサイネージが実現できる。
今後シャープとしては、さらなるディスプレーの大型化を推進していくだけでなく、大画面を生かしたマルチ表示機能の搭載、同時に環境やコストに配慮した省電力化など機能面での高性能化を図っていく。また、大型タッチパネル化や携帯電話との連携による消費者とのインタラクティブ性の向上も検討していく考えだ。